KATE結成までの物語
〜第十八回〜

(1998年03月01日)

「Media-Pants」

 「ライヴやりたいよねえ。」「やっぱ、バンドはライヴだよね。」Short-Pantsは
いわゆる“バンド”を目指していたので、ライヴをやってみたいという願望を常々抱
いていた。メンバー全員で楽器を持ち「せ〜の!」で音を出すという姿に憧れを持っ
ていた。でも地元にはライヴハウスというものがなかったし、そういうライヴの企画
を立てた経験もなかったので、ただ漠然と「ライヴやりてえなあ」と想いを巡らせる
だけであった。

 そんな頃、とてもおいしい話しが飛び込んできた。地元のスナック『たか』が毎年、
常連客やその家族を招いて夏祭りを開いていて、そこへ前座として出演させてくれる
ということになったのである。これは願ってもないチャンスだ!すぐにOKした。早
速、ミーティングを開いてライヴの打ち合わせに入ったが、メンバーの和多野が当日
どうしても出られないということになってしまい、4人で出演することになった。

 Short-Pantsはバンドといっても、実際にはギター、シンセ、ベース、ボーカルと
いう編成でドラムはドラムマシンに頼っている状態だった。ドラマーを探そうにも仲
間内でドラムをやっている者はいなかったのである。これだと本番でドラムマシンの
スイッチングをしなくてはならない。また、ベースは私が担当だったために、私が
リードボーカルをとる曲の時には代わりに弾いてもらえる者がいないということも問
題のひとつだった。弾きながら歌うなんていう芸当は現実問題としてムリであった。
こうなるとテープに頼るしか方法がなかった。当時はまだMDなどというものはなかっ
たし、DATも一般の高校生が買えるような代物ではなかった。ステージで実際にシー
ケンサーを走らせようにも、シーケンサー自体が我々にはなかった。普段、部屋で
オーディオ機器などにシンセやドラムマシンを接続してカセットデッキとラジカセの
ピンポン録音で音楽を作っていた我々にとって、一発で音を出すということがいかに
難しいことか改めて認識させられた感があった。「まあ、カラオケスタイルだけどしょ
うがないよね。」「ライヴをやれるだけでもいいじゃん。」なにせ初めてのことばか
りだったが、勉強だと思って自分達の出来ることを精一杯やろうと誓った。こういう
展開は今から思うと非常に“バンド”していた。

 バンド名をライヴ用に変名させようという話しが持ち上がった。実際、当日はメン
バーの一人が欠けるわけだし、そのままShort-Pantsという名前で出演するというの
も、なんだか忍びない感じだ。数回のミーティングの結果、『Media-Pants』という
名前で今回のライヴに出演することになった。“パンツをはきかえる様にメディアの
間を自由に飛び回る”というのがその名の由来である。また、メンバーが一人欠席と
いう事態にも臨機応変に対応していくという姿を、ひょうひょうと流れるバンドスタ
イルとダブらせてもいる。う〜ん、ナイスネーミング。

 延べ十日ほどかけて選曲、バッキングトラックのレコーディング、練習、会場に設
営するMedia-Pantsのロゴの入ったパネルやライヴ告知のチラシの製作をしつつ、新
曲の制作にも取り組んだ。「せっかくだから、新曲を作ろうよ。」「タイトルはやっ
ぱり“夏祭り”だよなあ。」「ライヴのラストにぜひやろう!」「新曲発表会か。かっ
こいいね!」「よし!Kaseo、詞を書け。」「え?オレ?」

 かんちゃんの一言で私が詞を書くことになった。時間もないことなので急いで書き
上げたのだが、その割りには非常に完成度の高い歌詞が出来上がった。かんちゃんが
曲を付けた時点ですぐにデモテープを作り、スナック『たか』のママに聞かせてみた
ところ、えらくお気に入りで本番当日にぜひ歌わせてほしいとお願いされてしまった。
そのままデモテープを練習用として彼女に手渡した。

「夏祭り」作詞:川瀬哲也 作曲:関東正晃

祭りの夜にはこうしてみんなと
よってたかってバカ騒ぎ
いろんなとこからお客が来るので
ますます夜は長くなる

※とにかく今日はお祭りさ
 飲んで歌って大騒ぎ
 次の日二日酔いでエラくても
 後の祭りさドンヒャララ

祭りの空にはきれいな花火が
休む間もなく咲いている
お客はおちょこで出されたお酒を
休む間もなく飲んでいる

※Repeat


 1986年8月9日。いよいよ本番だ。屋外の仮設ステージにMedia-Pantsの4人がか
け上がる。ここで大歓声、と思いきや、周りには誰もいない。夏祭り自体は夕方から
の開始だったので、Media-Pantsが演奏を始めたお昼頃の時間帯にはまだ誰も来てい
ないのは当たり前のことだった。前座といっても当日、夏祭りで使用する音響設備の
セッティングの合間に少しだけやらせてくれる程度のものだったが、我々にはそんな
ことは関係ない。初めてのライヴ、しかも屋外!ただそれだけで十分に満足だった。
次々と演奏をしていく。曲が終わっても観客からの拍手はない。MCを入れてもリアク
ションはゼロ。少しだけ空しい感じがしたが、それでもやっぱりライヴは気持ちがよ
かった。

 ラストの曲に近づいた頃にようやく観客が会場に集まり始めた。ん?もうやってる
のか?という感じでこちらを観ている。今ごろになって緊張してきてしまった。かな
り客が集まってきたところでいよいよラストの曲になった。我々の集客効果もかなり
あったようだ。ママがステージに上がってきた。「この子達が、この祭り用に作って
きてくれた曲を私も歌います。曲は『夏祭り』です。」観客から大歓声と拍手の嵐。
う〜ん、この雰囲気をもっと早く味わいたかった。バッキングのテープが流れ始め、
前川のギター、私のベース、かんちゃんのシンセがそれに加わり、田辺とママのデュ
エットが始まった。完全に“場末のスナックの生演奏”という感じだったが、非常に
ウケはよかった。

 こうしてMedia-Pantsのライヴは終了した。後片づけをしながらみんなで「気持ち
よかったなあ」を連発していた。ひょっとするとライヴはクセになるかもしれないな、
と感じた。

(つづく)

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