KATE結成までの物語
〜第十七回〜

(1998年02月23日)

「反応、イマイチ」

 『ビックリ水族館』の一件以来、第三者に自分達の音楽を聞かせることにすっかり
味を占めてしまった我々は、友人・知人にカセットを配ったりして反応をみることに
夢中になっていた。そんな頃、『Short-Pants』のミーティング時にこんな話しが飛
び出した。「なあ、レコード会社へカセット送ってみようか。」「徳間ジャパンへ
か?」「アルファへ送ってみるのもおもしろいよねえ。」「どうせ無視されるのがオ
チだぜ。」「カセットを持って直接レコード会社へおしかけるっていうのもいいかも
な。」「とりあえず、どこか近場でそういうところってないかな?」「あ、大垣にあ
るぜ、確か。」「うんうん、レコードの自主制作やってんだよ、そこ。」「いわゆる
“インディーズ”ってやつ?」「事務所へ電話を入れて、アポを取って行ってみよう
か。」早速、事務所へ連絡を入れて、担当の人を呼び出した。「関ヶ原でバンドやっ
てる者なんスけど…。」「へえ〜。どんなのやってるの?」「まあ、“テクノな童
謡”っていう感じの音楽ですかね。」「ふ〜ん。カセットとかって作ってるの?」
「はい。色々配ってます。今度、そちらへお邪魔させてもらってもいいっスか?」
「ああ、いいよ。じゃあねえ、今度の日曜日においでよ。待ってるから。」

 1986年4月3日。かんちゃんと前川と私の3人で、そのレコード会社の事務所へ向
かった。岐阜県の大垣市というところにある小さなレコード会社で、主にイベント関
係の企画や音響設備のレンタルなどをしているところで、レコード制作やコンサート
のブッキングなども行っている。少々、緊張して事務所の扉を開けた。「こんにちは
〜。さきほど連絡させてもらった『Short-Pants』ですけど。」「ああ、今ちょっと
担当の者が席をはずしてますんで、こちらでお待ちください。」女性の事務員に応接
室へ案内された。とりあえず出された麦茶を飲みながら待っていた。いろんな写真が
飾ってあった。どうやらそこの社長とおぼしき人物がミュージシャンっぽい人とにこ
やかに握手なんかをしている姿や、どこかのバンドのライヴ写真などなど。しかし、
正直言って何となく胡散臭い感じがしていた。まあ、これは後で的中することになる
のだが。しばらくして担当の人が現われた。「いやあ、お待たせ!え〜と『Short-
Pants』さんだっけ?」「あ、はい。どうも。お世話になります。」「じゃあさ、早速
カセット聞かせてよ。」「はい。」ひと昔前のようなラジカセに、彼は『Short-
Pants』のカセットをセットした。“ママチャリ・ブギ”が流れる。「へえ〜、シンセ
とか使ってるんだ。」「はい。打ち込み中心です。」「ふ〜ん。」どうやらお気に召
さないらしい。打ち込み系の音楽には拒絶反応が出るようだ。彼の顔が少々、曇って
きているのがハッキリとわかった。“楽器を持ち寄って仲間が集まって演奏するのが
バンドだ!”という固定観念にとらわれているようだ。“シンセサイザーによる音楽
は人間味がない!”と考えている典型的なタイプ。ちょっと場違いだったかなあと後
悔。次の曲“Heavy Metal”が流れる。「おお?これ、ドラムは誰がやってるの?ウマ
イねえ。」「あ、それドラムマシンです。」「なんだ〜、そうか。ウマイはずだ。ワ
ハハハ!」「・・・・・・・」コイツ、生のドラムと機械のドラムの音の区別がつか
ないらしい。ダッセ〜!なんだかこんなヤツにカセットを聞いてもらうことにだんだ
ん腹が立ってきた。結局、数曲聞いてもらって「もう少し練習をしたほうがいい」と
当たり障りのないアドバイスを受けた。ちぇっ!時間の無駄だったなあ。きっと彼の
ほうもそう思ったに違いないが。

 「キミ達さあ、これから時間ある?」「は、はあ。」「今、ウチのバンドがスタジ
オで練習してるんだよ。見に行く?」「は、はあ。」本当はさっさと帰りたかったの
だが、まあせっかくだから見学させてもらうことにした。キーボード、ベース、ドラ
ム、ギター、ヴォーカルの典型的な5人編成のバンドで、2曲ほど我々の前で演奏し
てくれた。オリジナル曲だったみたいだが、何だかパッとしなくてよくありがちな曲
だった。「じゃあ、どうもお邪魔しました〜。」

 う〜ん、なんだかなあ。こんなことなら家でシンセをイジっていたほうがよかった
なあ。それからしばらくして、その時の担当の人から電話があった。「あ、もしもし。
『Short-Pants』さん?あのねえ、ウチでバイトやんない?」「バイト?」「今度さ、
大垣の市民会館に『北島三郎』が来るんだよ。その会場設営のバイトなんだけど。」
「あ〜、お断りします。」「そんなこと言わないでさ。これも何かの縁だから。ね!
ね!」最悪!「とりあえず連絡先を」と言われて、電話番号を教えたのがまずかった。
単なる自分達のバイト探しのために面会をしてくれたようなもんだ。我々の作った音
楽をちゃんと聞いてくれるつもりなんてさらさらなかったのである。まったく、無駄
な時間を過ごしたものだ。

(つづく)

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