本作を作ったロッド・マッキューン本人から本作へ寄せられたコメントによれば、この映画は「(イギリス南東部の)サリー州にある修道院から、アメリカン・ドリームを求めてロンドンへと逃げ出した一人の少女の物語」だそうだ。 |
なお、僕はこの映画を見ていないが、本作はそんな者にでも楽しめるほどの情景喚起力があるものと確信させるに足るクォリティーがある。 |
数多のサウンドトラックの例に漏れず、本作もいくつかの曲とそのヴァリエイションで構成されているので、ここでは同じタイトルのヴァージョン違いや、曲名は違ってもメロディー自体は同じというものをまとめてレヴューしていきたい。 |
(1)JOANNA-MAIN TITLE ▲tracks |
軽快でホンワカした雰囲気のディキシーランド・ジャズ(1)。大人数での大合唱や、ディキシーランド・ジャズではお馴染みのバンジョーやクラリネットが、明るい表情の中にもほんの少〜し哀感を滲ませている。「これでもか」と、はちきれんばかりの艶やかさを見せるトランペットもいい。 |
(16)JOANNA & CLYDE 【ジョアンナとクライド】 ▲tracks |
ラグタイム的なアレンジの(16)では、ホンキー・トンク・ピアノと、ミュートを開閉させて「ホワカ・ホワカ」いわせたトランペットがフィーチャーされている。ちょうどチャップリンが踊りだしそうな曲。 |
(18)JOANNA HITS TOWN 【街へ繰り出そう】 ▲tracks |
疾走感溢れる壮大なジャズ・アレンジの(18)。映画の本編ではどういう映像が絡むのか分からないが、曲名の通りに街へ繰り出して、車か何かで駆け抜けている様子が目に浮かぶようだ。ミュートしたトランペット、サックス、ピアノのアドリブ演奏が展開されているが、それらはむしろ添え物といった感じで、それらよりもデカいヴォリュームでホーン&ストリング・セクションによるテーマのメロディーが奏でられている。とにかくゴージャスな曲。最後の駄目押しの1音もいい。 |
(29)JOANNA-END TITLE…EVERYBODY ON STAGE! ▲tracks |
イントロ前に「1、2、3、」とカウントが入るのと、一旦終わった後、再びスタートし2コーラス歌うという以外は(1)とほとんど変わりない(29)。 |
(2)I'LL CATCH THE SUN 【太陽をつかもう】 ▲tracks |
柔らかな日差しに包まれたかのような、穏やかなメロディーとサウンドの(2)。木漏れ日のようなピアノと、心地良い温度で照らす太陽の光のようなオーケストラをバックに、優しげなサックスが歌う。 |
(6)I'LL CATCH THE SUN 【太陽をつかもう(ヴォーカル)】 ▲tracks |
(2)をさらにゴージャスに、そして壮大にした(6)。ここでは、ロッド・マッキューン本人の“しゃがれちゃいるけどけがれちゃいない”渋〜いヴォーカルが披露されている。なんか、この曲で“大団円”な感じ。まだ始まったばかりなのに、もう終わったかのような充実感に包まれてしまう。 |
(15)PETER'S THEME…BEFORE I DIE (I'LL CATCH THE SUN) 【ピーターのテーマ…人生は短い (太陽をつかもう)】 ▲tracks |
アコースティック・ギター1本でスタートして、徐々に徐々に盛り上がってくる(15)。アコースティック・ギターの残響感が孤独に響く中、まずメロディーを奏でる笛のような音のシンセが加わり、次にピアノやハープシコードの鍵盤類、最後はオーケストラやコーラス隊が加わってドリーミーな世界を作り出していく。 |
(21)JOANNA DOES DINNER (I'LL CATCH THE SUN) 【ジョアンナの夕食 (太陽をつかもう)】 ▲tracks |
今度はユッタリとジャジーになった(21)。華麗なピアノやホンワカとしたホーン・セクションをバックにサックスが和やかなメロディーを聴かせた後、オーケストラが分厚さを増し、ドラムはシャッフルから幾分スクェアなニュアンスでリズムを刻み始める。 |
(3)RUN TO ME, FLY TO ME 【ジョアンナのワルツ】 ▲tracks |
悲壮感漂うアップ・テンポのジャズ・ワルツ(3)。スリリングな“情景”を描いたのではなく、「急がなきゃ!」という“気持ち”を描いたかのような曲。スウィングするリズムに乗ったオーケストラとコーラスが、はやる想いと切ない気持ちで胸をいっぱいにする。サウンドトラック 『 ロシュフォールの恋人たち 』 の「キャラヴァンの到着」と繋げられそうな雰囲気。さながら“スウィンギン・ロンドン版「キャラヴァンの到着」”といったところ。なお、この曲の間奏のメロディー(Cメロ?)は(10)や(13)にも挿入されている。 |
(23)RUN TO ME, FLY TO ME 【ジョアンナのワルツ (ヴォーカル)】 ▲tracks |
一方、ロッドのヴォーカル入りのこちら(23)は、ヴィブラフォンやギターが加わりピアノが控えめになることによって、(3)よりは切迫感が薄れて若干軽快になった感じ。 |
(4)WHEN AM I EVER GOING HOME? 【家へ帰るのはいつ?】 ▲tracks |
弾く者以外他に誰もおらず、日差しが差し込んだ室内で練習しているような響きの、孤独ではあるけれど暖かなピアノで始まる(4)。しかし、すぐに緩やかな感じのオーケストラが優しく盛り上げていく。終盤とても切ない気持ちになってしまうのだけれど、聴いた後にはとても心穏やかな気持ちにさせてくれる曲。 |
(13)WALK ACROSS LONDON (WHEN AM I EVER GOING HOME/RUN TO ME) 【ロンドンの街で (家へ帰るのはいつ?/ジョアンナのワルツ)】 ▲tracks |
ロッドの歌をフィーチャーした(13)。そこには眼差し清々しく、聡明そうで痩せた老人の姿が目に浮かぶが、ロッドはこの当時35才前後。何とも渋すぎる声。途中、(3)の間奏のメロディーを挿入した後、再びロッドの歌で締めくくる。 |
(24)WHEN AM I EVER GOING HOME? 【家へ帰るのはいつ?】 ▲tracks |
今度はボサ・ノヴァ的なアレンジで聴かせる(24)。シェイカーとリム・ショットをメインとしたリズムにピアノとギターが加わり、フルートがそっと横からメロディーを添えてくる。中央でなるのは、トランペットかそれよりもっとソフトな音色の金管楽器。 |
(5)I'M ONLY ME ▲tracks |
とにかく寂しげなギターのアルペジオと何かの笛のような音のシンセサイザーが印象的な(5)。演奏は途中で一旦終わり、ストリングス主体の重く沈鬱な展開になる。なお、この曲は(7)の一部に挿入されている。 |
(19)I'M ONLY ME (ヴォーカル) ▲tracks |
こちらも(5)に負けずに寂しげな(19)。ロッドの今にもくず折れそうな歌唱が痛い。初めのうちはピアノがバックなのだけれど、途中からドラムが入ってゆっくりとした8ビートを刻み始める。この曲も一旦中断し、次に始まるときはハープシコードとピアノがバックを務める。 |
(7)MISSISSIPPI SUR LA SEINE 【ミシシッピーのセーヌ河】 ▲tracks |
一瞬(ほんの一瞬)、ビートルズの「SHE'S LEAVING HOME」(『 SGT. 〜 』 に収録)を思い出してしまう(7)。明るく、気品漂う優雅なワルツ。主たる伴奏楽器はハープシコードで、ストリングスが脇を固める。主旋律を奏でるのもストリングス。一旦終了した後、(5)のメロディーになる。 |
(8)SATURDAY NIGHT IN KNIGHTSBRIDGE 【土曜の夜のナイツブリッジ】 ▲tracks |
ウォーキン・ベースが、土曜の夜に街へ繰り出す時のウキウキとした軽快な足取りを表現したかのような、ジャズの(8)。派手なホーン・セクションが生き生きとしていていい。ブレイクした後、ミュートしたトランペット・ソロとピアノの短いソロがある。 |
(22)SUNDAY MORNING IN KNIGHTSBRIDGE 【日曜の朝のナイツブリッジ】 ▲tracks |
曲の雰囲気自体は(8)と変わらないが、(8)は土曜の夜で、この(22)は日曜の朝。こちらではトランペット・ソロ以外にも、ピアノ、サックス、ギターのソロもフィーチャーされている。 |
(28)SATURDAY NIGHT IN KNIGHTSBRIDGE 【土曜の夜のナイツブリッジ (ヴォーカル)】 ▲tracks |
再び(8)と同タイトルの(28)は、ロッドのヴォーカルをフィーチャーしている。伴奏のギターが幾分目立ち気味だろうか。隠し味としてヴィブラフォンも鳴っている。それ以外は基本的に(8)や(28)と変わりないサウンド。 |
(9)AIN'T YOU GLAD YOU'RE LIVIN'JOE 【生きる喜びを抱きしめよう】 ▲tracks |
石熊勝己氏のライナーによれば、この映画の監督マイケル・サーンは'62年、ロンドン大学在学中に「COME OUTSIDE」という曲で全英1位のヒットを飛ばしたことがあり、ご当地イギリスではいまだにポップ・スターとして知られているそうだが、そのマイケル・サーン直々の歌唱を聴くことができるのがこの(9)。ウクレレのコード・ストロークが刻むシャッフルのリズムに合わせて、とてもジェントルでまろやかな声で歌われる、心温まる曲。その歌を静かに支えるストリングスやコーラスもいい感じ。 |
(10)LIFE IS A BEACH 【モロッコの海岸】 ▲tracks |
タイトルは全く違えど、メロディーは(9)と同じ(10)。こちらは歌メロ部分をハーモニカが担当し、ウクレレがなくなり、素朴でのどかな雰囲気に包まれる仕上がりになっている。しかし、途中から入る伴奏オーケストラのコードの付け方が若干違っており、何かのエンディングを思わせる終わり方をする。そうやって一旦終わった後、(3)の間奏のメロディーが付け足されている。 |
(14)JOHN WAYNE HAS LEFT THE BUILDING 【世の中ってこんなもの】 ▲tracks |
トコトコと馬に乗ってでもいるかのようなリズムの(14)。そう思ったのも束の間、約30秒ほどでその部分は終わり、(10)とほとんど同じ演奏が付け足される。 |
(11)CAS IS A GAS 【うそつきキャス】 ▲tracks |
時刻を告げる鐘の音(学校のチャイムのあのメロディー)のような始まり方の(11)。ブラシが刻む静かでジャジーなリズムに乗せて、ピアノが比較的淡々と演奏していく。ベースも淡々としていて、リズムの頭に合わせ「ボン、ボン、ボン、ボン」と弾いている。 |
(20)CONCERTO FOR 4 HARPSICHORDS 【ハープシコード・コンチェルト】 ▲tracks |
軽快な(11)とはガラッと趣が変わる(20)。ヴィブラフォンで繊細に始まり、1節を終えるとハープシコードが登場、一気にクラシカルになる。そのうちストリングスも加わって厳かな雰囲気に包まれる。 |
(25)CAS IS TINKLING…IN THE NEXT APARTMENT 【成功したキャス】 ▲tracks |
(11)をピアノのみにして、テンポ・ダウンしたような(25)。「そのうち何か違う展開でもあるのかな」と思っていたら、そのまま終了。でも、(11)よりは幾分ドラマティックかも。 |
(12)TILL WE'RE TOGETHER AGAIN 【また逢う時まで】 ▲tracks |
トイ・ピアノかハンド・ベルらしき楽器がフィーチャーされた(12)。ゆったりしたワルツの穏やかな曲。心を優しく撫でるようなストリングスに包まれていると、ドリーミーな気分になってくる。 |
(27)A MAN AND HIS HARMONICA (TILL WE'RE TOGETHER AGAIN) 【男とハーモニカ (また逢う時まで)】 ▲tracks |
(12)の速度をちょっと落として、今度はハーモニカをフィーチャーした(27)。(12)とは若干メロディーの違う部分もあり。ロンドンが舞台の映画なのに、開拓時代のアメリカにいるような気分になってくる。それほど、のどかで懐かしい感触の曲。 |
(17)SOME AUGUST DAY 【八月のある日】 ▲tracks |
「連日暑さが続く8月、たまに訪れるちょっと風が心地良い日」といった感じの、暖かく気だるいボサ調の(17)。ゆったりとしたパーカッションに乗せて、少し A & M×CTIな感じのホーン&ストリング・セクションが絡んでくる。木漏れ日のようなピアノもいい雰囲気を作り出している。 |
(26)HELLO HEARTACHES 【悲しみよ、こんにちは】 ▲tracks |
明るめのジャズ・バラッド(26)。バーバラ・ケイという女性歌手の歌がフィーチャーされている。そのタイトル通り、悲しみを笑い飛ばすような、明るさの中にも寂しさの混じった感じが滲み出ている曲。 |
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