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artist : MALCOLM McLAREN
title : 『 DUCK ROCK 【俺がマルコムだ!】』
release : 1983年
label : CHARISMA RECORDS
tracks ( cd ) : (1)OBATALA (2)BUFFALO GALS (3)DOUBLE DUTCH (4)MERENGUE (5)PUNK IT UP (6)LEGBA (7)JIVE MY BABY (8)SONG FOR CHANGO (9)SOWETO (10)WORLD'S FAMOUS (11)DUCK FOR THE OYSTER
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5) / side B...(6)〜(11)
musicians : MALCOLM McLAREN,vocals ; ANNE DUDLEY,strings arrangement,keyboards ; TOM DOLBY,additional keyboards ; LOUIS JORDAN,additional percussion ; DAVID BIRCH,additional guitars ; GARY LANGAN,jews harp ; JONATHAN (J.J) JECZALIK,fairlight programming ; WORLD FAMOUS SUPREME TEAM,rap.
producer : TREVOR HORN
engineer : GARY LANGAN
illustration : KEITH HARING
related website : 『 Malcolm McLaren 』(公式サイト。構築中?)




(1)OBATALA  ▲tracks
 アフリカの様々な地域から奴隷としてハイチ共和国に連れてこられた黒人達が、自分達の様々な宗教とキリスト教を融合して作り上げた宗教であるヴードゥー教。その聖霊の一人、平和の神〜オバタラをタイトルにした(1)。
 アフリカ音楽でよく耳にする8分の6拍子に、ポワ〜ンとしたシンセ音とユルユルなピアノの音を乗せ、とても心地良い仕上がり。ちょっと楽園気分だ。現地人による掛け声もあり。マルコム・マクラレンという名前や、キース・ヘリングの絵を背景に派手なラジ・カセがドカーンとフィーチャーされたジャケットからはちょっと想像がつかないサウンド。
 次の曲への繋ぎとして、ラップやスクラッチ、そして様々なサンプル・ネタのコラージュが挿入されている。


(2)BUFFALO GALS  ▲tracks
 ワールド・フェイマス・サプリーム・ティームが参加したヒップ・ホップ・チューン(2)。彼らのラップ以外にも、マルコムの乾燥した声によるインチキ臭いラップを聴くことができる。それと途中で「ヂュヂュヂュヂュヂュヂュヂュヂュ・・・」と約15秒間の長〜いスクラッチあり。
 音としてはまるっきりのヒップ・ホップだが、(11)のことも考えると、同名のマウンテン・ミュージックの古い曲があるのはただの偶然ではないだろう。このマウンテン・ミュージックとは、アメリカへ移住したアイルランド系、イングランド系、スコットランド系移民の音楽がアパラチア山脈あたりで一つになったもので、カントリーやブルーグラスのルーツ、ひいてはジャズなどのルーツの一つとなり、現代ポップ・ミュージックのルーツの一つともなる音楽のこと。
 この曲は雑誌「OLIVE」創刊時のCMや、心斎橋パルコのCMでも使われていたそうだ。そしてどうやら、日本のロック・バンド〜バッファロー・ドーターのバンド名の由来にもなっているらしい。また、冒頭の「Bup」という女声はゴールディーの「I'LL BE THERE FOR YOU」(『 SATURNZ RETURN 』)でサンプリングされている。


(3)DOUBLE DUTCH  ▲tracks
 ニュー・ヨークで流行していた2本の縄でアクロバティックに跳ぶ縄跳び〜“ダブル・ダッチ”をテーマにした(3)。4分打ちキックと“ヒョンヒョン”鳴る縄跳びの音が同じテンポで進行し、そこに生き生きとしたな女声コーラスや「アーバーバ、ン〜バーバー」というユーモラスな男の声、そして軽快で躍動感溢れるギターが入ってくる。自然と楽しげな気分になってくる。曲がフェイド・アウトすると(4)との繋ぎにまずヒップ・ホップが挿入され、次に何か古いラテン音楽のワルツ音楽(フィールド・レコーディングか?)が聞こえてくる。
 この(3)(に限って記載されているわけではないが)、クレジットには「Zulu」と「Shangaan」というアフリカの部族から音楽的なインスピレイションを得たことが書いてあるが、僕が知っている範囲ではこの曲の元になっている音楽はザイーレアン・ルンバ(ザイールのルンバ)なのではないだろうかと思う(ズールー・ジャイヴという別な音楽もあるらしいのだが)。
 このザイーレアン・ルンバはキューバのルンバがルーツなのだが、彼ら(ザイール人)のルンバは高価で持ち運びに不便なピアノは使わず、その替わりをギターで補う。そのギターの、アルペジオの如き謎の奏法によって繰り出されるクリーンなトーンのフレイズは、躍動的でありながらとてもヒンヤリとしていて心地良い。ザイーレアン・ルンバを代表するアーティスト〜フランコ&T.P.O.K.ジャズのフランコがそのギター奏法を発展させたらしい。で、僕が聴いたことがあるのは、その後から出てきたパパ・ウェンバ。彼らはこの(3)のような曲ばかりを延々と演奏する。


(4)MERENGUE  ▲tracks
 情熱的なムードと性急なビートを持つラテン音楽“メレンゲ”をそのままタイトルに冠した(4)。メランコリックなホーンとストリングスが切なく響き、ハイ・スピードなリズム隊が興奮の坩堝へと聴き手を誘い込む。途中のマンドリンのような“カナカナ”した楽器もとても切ない。
 しかしそんな切なさもお構いなしに、マルコムが「カリ〜プソ〜、マンボ・マンボ〜」とやたらファンキーに煽り立てる。そして次の曲への繋ぎは、ちょっとメロウなエレピがフィーチャーされたフュージョンっぽいボサ・ノヴァらしきフレイズ。
 ちなみにここで言うメレンゲとは、'80年代初頭のニュー・ヨークでプエルト・リコ移民のダンス音楽“サルサ”に替わって人気を獲得した、ドミニカ移民のもたらした伝統的なダンス音楽の現代版といった感じ。


(5)PUNK IT UP  ▲tracks
 続く(5)もザイーレアン・ルンバ的なリズムながら、(3)のようにストレートな乗りではなく、屈折感がありアタックの効いたリズムになっている。溌剌とした女声コーラスから発せられる「パンパンパ〜ン、パーンパン、パンキーラ〜プ(PUNK IT UP)」という言葉の語感がとてもカッコいい。そういったリズムや言葉に熱くさせられてしまうかと思えば、どっこい、涼しいギター・サウンドが耳に心地良く、とても快適な気分にさせてくれる。


(6)LEGBA  ▲tracks
 “カサカサ”としたパーカッションとシンセ音で構成された、静かな曲(6)。何となく小さな波がかすかにざわめく海岸で、緩やかかつのどかな景色を眺めているような、そんな雰囲気の曲。ダンサブルな演奏が続いた後にはちょうどいい小休止。ホッと心和むひと時。しかしそれも束の間、ティスキ・ヴァリーの「CATCH THE BEAT」をバックにラッパーの喋りが挿入され(7)へ。
 この曲のタイトル「LEGBA」とは、(1)同様ヴードゥー教の聖霊の一人の名で、門の鍵を預かる神〜レグバのこと。


(7)JIVE MY BABY  ▲tracks
 前曲最後の「CHECK THIS OUT!」の声から間髪入れずに始まる(7)。(3)に似て4分打ちキックのストレイトなリズムの曲。この曲もザイーレアン・ルンバ的でクリーンなギター・フレイズをフィーチャーしている。途中女声コーラスが右、中央、左の三方向に分かれたり、ダミ声でちょっと間の抜けた男の声(何となくタジ・マハールに似ている)がフィーチャーされたりする。この曲も(6)同様、最後に「CATCH THE BEAT」が挿入されている。


(8)SONG FOR CHANGO  ▲tracks
 これも(1)や(6)同様ヴードゥー教の聖霊の一人、稲妻と火の神〜シャンゴを称えた歌(をフィールド・レコーディングした)と思われる(8)。
 始めと終わりはアフリカの民族(もしくはカリブの黒人達)によるものかと思われるプリミティヴな演奏にシンセ音を少々被せた作りになっているが、中盤はパーカッション類以外、ほとんど厳かでスピリチュアルなシンセ演奏で構成されている。


(9)SOWETO  ▲tracks
 南アフリカの黒人居住区〜ソウェト(SOuth-WEst TOwnshipsの略)をタイトルに冠した(9)。テンポ・ダウンしたザイーレアン・ルンバといった感じのドッシリとヘヴィーなトラックにマクラレンのトークや女声のコーラス、シンセサイザー、そしてカントリー的で“ニーニキ”したフィドルが絡むという、ちょっと奇妙な曲。
 このソウェトという地区は治安が悪く、観光客などが一人で歩くにはとても危険なのだそうだ。マクラレンはこのソウェトと同様に治安の悪いブロンクスのストリートを重ね合わせていたのだろうか。


(10)WORLD'S FAMOUS  ▲tracks
 再びワールド・フェイマス・サプリーム・ティームが参加したヒップ・ホップ・チューンの(10)。ヒンヤリとしたシンセ音や可憐なピアノのちょっと切ない感じがいい。2分弱と短いのがちょっと惜しい。
 僕は「俺が俺が」の閉じた世界のヒップ・ホップはあまり聴かないが、こういった感じのちょっとメロウなトラックに適度に調子のいいラップが乗る感じのものなら好きだ。ついでにカーティス・ブロウあたりも。


(11)DUCK FOR THE OYSTER  ▲tracks
 最後は、マクラレンの「ヘイ!マエストロ!」の掛け声で始まる、(2)のタイトルで少しばかり匂わせておいたマウンテン・ミュージックの(11)。とにかく陽気な曲。この(11)のタイトルは、マウンテン・ミュージックのスクウェア・ダンス(大まかに言ってフォーク・ダンスの一種)のステップの名前でもある。
 アメリカの最前線(当時)音楽と20世紀ポップ・ミュージックのルーツとなった音楽の直接的融合ということか、ヒップ・ホップ・ビートと2ビートが同時に進行するという面白いことも試みている。ほんのちょっとだけコーネリアスの「MONKEY」( 『 FANTASMA 』 に収録)を思い出してしまう瞬間もあり。
 2ビートにバンジョー、75歳の耳の聞こえない老プレイヤーが弾くフィドル、細切れなサンプリング音、そしてアッケラカンとしてユーモラスな「ダック・フォ・ジ・オイスター、ダッタッタ」というマクラレンのトークのような歌が絡む。
 この曲に於けるマクラレンの存在はとても大きく、この彼の“トークのような歌”がなかったらこの曲の魅力は半減していただろう。非ミュージシャン的な存在でありながらも、この自然な乗りはどうだ。無意識的に音楽の本質に接近しているような気さえしてくる。
 彼にはトレンドを作っている人やそのすぐ後を追っている者によくあるような嫌味な感じがほとんど感じられず、実にカラリとしていて、流行をでっち上げる詐欺師と呼ばれながらも、そんな流行にはこれっぽっちもコダワリがないかのようで、聴いているこちらも爽快な気分で聴けてしまう。


 アフリカから奴隷として強制的に連れてこられた黒人達が、カリブの島々で白人文化とぶつかり合って作り出した様々な音楽や文化。その音楽が海を渡ってニュー・ヨークの音楽シーンを席巻。一方、そのニューヨークの一角のストリートの黒人達によって生みだされた音楽・文化〜ヒップ・ホップ。そんなニュー・ヨークの一角と同様に治安の悪い南アフリカの黒人居住区〜ソウェト。そして白人移民達の音楽であり、現代ポップスの重要なルーツ〜マウンテン・ミュージックとヒップ・ホップの融合。

 そういった今日のポップ・ミュージックに辿り着くまでの苦難の道のりと“今(当時)”を、ダンス・ミュージックというキー・ワードを武器に実にケロリと、そしてサラリと提示して見せたこのマルコム・マクラレンという男。本気なのか、はたまた嘘ん気なのかはかりかねるが、とにかく凄いヤツだと思う。


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