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artist : KIRINJI 【キリンジ】
title : 『 3 』
release : 2000年11月
label : WARNER MUSIC JAPAN
tracks ( cd ) : (1)グッデイ・グッバイ (2)イカロスの末裔 (3)アルカディア (4)車と女 (5)悪玉 (6)エイリアンズ (7)SHURRASCO VER.3 (8)むすんでひらいて (9)君の胸で抱かれたい (10)あの世で罰を受けるほど (11)メスとコスメ (12)サイレンの歌 (13)千年紀末に降る雪は
tracks ( analog ) : 未確認
regular members : 堀込泰行 HORIGOME yasuyuki,lead vocal(except 7,11),background vocals(except 7),electric guitar(3,6,8,10,12),acoustic guitar(3,6,8,10,12); 堀込高樹 HORIGOME takaki,lead vocal(5,11),background vocals(except 7,8),electric guitar(1,2,4,5,7,9,11),acoustic guitar(5,7),12 strings acoustic guitar(3),baritone guitar(7),electric bass(7),samples(7),tambourine,handclap.
guest members : 大山泰輝,acoustic piano(13); 沖山優司 OKIYAMA yuji,electric bass(2,10,11); 渡辺等 WATANABE hitoshi,electric bass(3,4,8),acoustic bass(13); 椎野恭一,drums(3,8); 矢部浩志,drums(10,11); 野口明彦,drums(13); 三沢またろう MISAWA mataro,percussions(2,4); 荒木敏男,trumpet(2); 菅坂雅彦,trumpet(2); 佐野聡,trombone(2); 山本拓夫,tenor sax(2,10),flutes(3),soprano sax(4); 村田陽一 MURATA youichi,trombone(13); 佐藤潔,tuba(13); 金原千恵子ストリングス KINBARA chieko STRINGS,strings(2); 金原千恵子 KINBARA chieko(金原千恵子カルテット KINBARA chieko QUARTET),1st violin(13); 大林典代(金原千恵子カルテット),2nd violin(13); 松岡陽平(金原千恵子カルテット),cello(13); 阿部雅士(金原千恵子カルテット),cello(13); 山本れいみ,background vocal(4); 松田龍太,treatments ; 冨田恵一 TOMITA keiichi,instruments(except 8,13),treatment.
producer : 冨田恵一 TOMITA keiichi
related website : 『 kirinji WEB 』(東芝EMIの公式サイト)、『 NATURAL FOUNDATION /キリンジ 』(NATURAL FOUNDATIONの公式サイト)、、『 冨田ラボ オフィシャルホームページ 』(冨田恵一の公式サイト)




 脅迫的な距離まで近付いているようなジャケット。このジャケは、デザイン集団ヒプノシスが手掛けた10ccのアルバム 『 DECEPTIVE BENDS 【愛ゆえに】』 の裏ジャケをパロったもので、ブックレットのクレジットにはご丁寧にも“Art Direction & Hipgnosis-tic Forgery Effects”と記載されている。

 因みに“きりんじ”を広辞苑で引いてみると、漢字としてはあの相撲取りの“麒麟児”と同じく、意味は「才知の特にすぐれた少年」とある。自らの矜持を爽やかなカタカナ表記の中に込める辺りにも、その“麒麟児ぶり”が窺い知れる。


(1)グッデイ・グッバイ  ▲tracks
 縦に刻むリズムに乗せて爽やかなサウンドを展開する(1)。歌メロの、特に「学生がはしゃぐ午後」というくだりが、映画のサウンドトラックのストリング・セクションを思わせるようなメロディで面白い。兄弟による歌とギターと手拍子とタンバリン以外は、“キリンジ3人目のメンバー”とも言うべき冨田恵一によるもの。おそらくキーボード類やベース以外のドラムスやホーン・セクションは打ち込み。
 しかし、明るく爽やかなイメージの曲調ながら、歌の主人公にはちょっと事情がありそう。大通りで彼女にビンタを喰らって振られてしまったために、抜け殻のようになってしまい、手当たり次第に通行人に話し掛ける男。通る車からはクラクションを鳴らされ、道路を渡った老婆からは“フーテン”と笑われてしまう。いかにもキリンジらしい世界観。


(2)イカロスの末裔  ▲tracks
 ディスコに数歩手前のソウル系のリズムの上で、流麗なストリングスと溌剌としたホーンが踊る(2)。ストリングスはもちろん、(今度は)ホーンも本物。そんなサウンドも魅力だが、歌メロもまた魅力。というか面白い。出だしでは歌うのがとても難しく器楽的なメロディーがヒラヒラと滑り、そしてBメロでは、R & R の典型的なギター・リフのような歌メロが登場する。キリンジ兄のメロディーに対するコダワリは相当なものだ。
 で、歌の舞台はお騒がせな乗客達を乗せた飛行機の中。そんな中「ボルトを抜いといた This is the 君に贈るスーヴェニール!」なんて言う奴が現れる。とんでもない“贈り物”。その後の飛行機の行方やいかに? サビで何回も歌われる「遠くまで飛べるかな? 墜ちる術なら皆んな心得てる」というくだりが怖さを帯びてくる。


(3)アルカディア  ▲tracks
 イントロのモロにマイナー調なアコギのストロークや、曲中のザラついたエレキ・ギターとそのギター弦のスクラッチ・ノイズが、本作以前の彼らのイメージからすると、ちょっとシリアスな響きをもたらしている感のある(3)。フルートがあることで彼ららしさを繋いでいる感じがする。全体的なイメージは、ジャケットにあるような冬の空の黄昏に映える雲の群れ。強烈な印象を残す出だしの歌メロ(「に〜じむ〜〜〜」というくだり)は、偶然でないとすれば長谷川きよしの「うつろな秋に」(『 一人ぼっちの詩(うた) 』 に収録)の出だしメロディーを頂戴していると思われる。「永遠(とわ)と刹那のカフェ・オ・レ 冬の空を満たす」という詞がイイ。キリンジ弟のペンによる曲。
 そういえば、地元仙台のラジオでDJが何回も「ア・カ・ルディア」と間違えていたのが気になってしょうがなかった。「松本零士のファンじゃなくたって、“ア・ル・カディア”って言葉くらい人生のどこかで聴いたことないのか?」と言ってやりたかった。


(4)車と女  ▲tracks
 レーベル・メイト〜加藤“かせきさいだぁ”丈文が作詞、兄が作曲の(4)。スティーリ・ダンの「KID CHARLEMAGNE」(『 幻想の摩天楼 』 に収録)を母体としつつ、さらにスピード・アップしたような感じの曲。華麗なソプラノ・サックス・ソロや「ダ〜〜バ・ダ〜〜バ・ダ〜〜バ・ダバディドゥ」というスキャット部、そして何よりも「ちょっと速過ぎるんではないか?」と気付いてしまうほどの打ち込みドラムが、否が応でも聴き手をスリルの渦へと引きずり込む。
 そんなスリリングで目眩めく展開の中には、歌詞で歌われている“旅立ちの季節〜春”の憂鬱な気分も反映されている。そしてその歌詞には「フェアレディ」や「サブリナ」といったオードリー・ヘップバーンを連想させる言葉も散りばめられている。


(5)悪玉  ▲tracks
 シンプルな打ち込みの8ビートに“ポニョポニョ”なシンセという組み合わせが、ホノボノとした雰囲気を醸し出しているのに、そのテーマが“引退を控えた子持ちの悪役レスラー”という(5)。彼は悪役だった自分を蔑む息子のために、現役最後の試合で正々堂々と戦って勝ちを決めてやろうと企てている。ここで歌われる“悪意”とは“反則”を差しているのではなく、“プロモーターへの裏切り”を言っているように思うのだが、どうだろうか。
 この曲のリード・ヴォーカルは兄弟半々といったところ。1番のAメロは弟でBメロは兄、2番は逆、サビは2人でハモったりユニゾンしたり。演奏は兄弟+冨田恵一。


(6)エイリアンズ  ▲tracks
 気だるく遣る瀬無い雰囲気に包まれた(6)。イントロのアコギからしてもう遣る瀬無い。サウンドは柔らかいが、歌は物悲しくシリアス。この曲も(3)と共に、それまでの2枚のアルバムにはなかった雰囲気の曲。これも弟の作。演奏は兄弟+冨田。
 出だしの歌詞で、何のルビもなく「旅客機」を「ボーイング」と読ませる辺りが面白い。「僕の短所をジョークにしても眉をひそめないで」という言い回しに苦笑い。


(7)SHURRASCO VER.3  ▲tracks
 本作中にあっては浮いている感が否めないインストの(7)。何となくテキサス的な乾いた荒野を思わせつつも、どこかノンビリしている。兄がエレキ&アコースティック・ギター以外にバリトン・ギターやベース、サンプラーなどを使って作り上げている。ちなみに弟は不参加。


(8)むすんでひらいて  ▲tracks
 スティーリー・ダンの「RIKKI DON'T LOSE THAT NUMBER 【リキの電話番号】」(『 PRETZEL LOGIC 』 に収録)を想起させるベース・ライン(突き詰めればそれはさらに別な曲を想起させるのだが)、大人しめなラテン・タッチの曲調でミステリアスなムードを演出した(8)。メロディーには確かに起伏があるのに、しばらくは淡々とした調子で曲が進行していく。サビではリズムが縦に刻まれて悲壮感漂う雰囲気になるものの、まだどこか“ドカ〜ン”とした盛り上がりはない。
 しかし、1コーラス目、2コーラス目と繰り返すごとに、ジワリジワリと脅迫的ににじり寄るかのような感覚で、何か漠然としたイメージが近付いてくるという、ちょっと変わった魅力を持った曲。「今日を持て余す僕の膨らみ過ぎた好奇心にバクも消えた」という言い回しが面白い。(7)とは逆に、こちらには兄が不参加。


(9)君の胸で抱かれたい  ▲tracks
 冨田恵一がほとんど一人で作り上げた、とにかく切ないほどに爽やかで美しいバック・トラックに乗せて、彼らとしては珍しくストレイトに(としか今の時点では言い様がないのだが、これ以上まだ何かメタファーめいたものが地雷のように仕掛けられているのだろうか?)綴ったラヴ・ソングの(9)。
 歌詞には仕掛けがないと信じたいが、曲にはこれまでのアルバムでも聴かれた“チャラララ・チャ〜ララ・ラッチャ〜”という“キリンジのテーマ”(僕が勝手にそう呼んでいる)が忍ばせてある。このメロディーは1stアルバム 『 ペイパードライヴァーズミュージック 』 の「甘やかな身体」や4thアルバム 『 FINE 』 の「ムラサキ☆サンセット」で聴くことができる。2ndアルバムでも確か聴いたような気がしたのだけど、ちょっと確認できていない。兄が有名なゲーム・メーカー「NAMCO」で働いていた時に作ったゲーム音楽のあるメロディーがアルバムの中で登場するという噂を目にしたことがあるのだが、ひょっとしてこのメロディーのことなのだろうか?


(10)あの世で罰を受けるほど  ▲tracks
 ノラリクラリとした脱力感のある R & R の(10)。購入後しばらくは「今ひとつ物足りないなぁ」と思っていたのだけど、次作 『 FINE 』 に収録の「ポップコーン」を気に入ってからは意外と聴ける曲になっていた。特にサビの部分のハーモニーが「日暮れる街角」という歌詞の色具合を捉えていてイイ感じだ。(8)同様、兄が不参加のせいか、弟はギターでもちょっと頑張っている。
 この曲、“牧師と吸血女が恋に落ちる”という“あの世で罰を受けるべき”ストーリーなのだが、そんな2人に対して「微笑み浮かべて 弓矢を天使が放つだろう」というのもブラックだ。このキューピッドは純粋に祝っているのか、それとも悪意なのか。


(11)メスとコスメ  ▲tracks
 エレピやハイ・ハットほかによる不穏なムードに満ちたイントロに象徴されるように、いかにも“兄節”全開のコンプリケイテッドな(11)。リード・ヴォーカルも兄。
 ノッシリしたリズムに乗って、よく練られ起伏に富んだメロディーや不穏なコード感が展開していくという、ミステリアスな雰囲気が魅力の曲だが、歌詞もまた魅力。
 主人公の彼女が整形し、「戸惑いを見透かすように」彼の目の前に現れるというストーリー。「面の顔を剥いだろう」、「鼻高々」といった本来違う意味合いで使うべき比喩を、あえて整形した彼女の顔を表現するために使う所や、「蛾を思わせるその眉」とか「メスとコスメのサイボーグ」と、何となくネガティヴなイメージで表現している割には、彼女の行為を肯定している所などのヒネクレ具合が面白い。


(12)サイレンの歌  ▲tracks
 ちょっとシリアスな曲調のバラード(12)。はじめはピアノ1本をバックに寂しく始まり、段々と盛り上がってくるタイプの曲。彼らの曲の中にあってはヒネクレた感じや凝った印象は受けない曲だけど、曲が進むに連れてジワリジワリと効いてくる。特に、後半の長く続くコーラスが、ちょうどブックレットの歌詞の背景になっている“夕焼けの中でオレンジ色に燃える雲”のようで、なんだか胸が締め付けられるように切なくなってくる。“何だかんだ言って、実はこのコーラスのためにある曲なんじゃないか”とさえ思えてくる。この曲も、兄弟+冨田による演奏。


(13)千年紀末に降る雪は  ▲tracks
 本作が西暦2000年にリリースされたことにちなんでのタイトルかと思われる(13)。その超スロウなビートは、「遅れて来たサンタクロース」が“えっちらおっちら”とやってくる様子を表現しているかのようだ。特に、ユーモラスなホーン・セクションにはそんな感じがよく表れていると思う。しかし、メロディーはとても起伏に富み、普通の歌に比べると歌い辛く、覚え辛いが、いいメロディーだ。
 そんなサウンドで表現される「意外と背は低い」サンタクロースを見た子供達は「戸惑いに泣き」、「大人達は嘲笑う」。その「孤独の深さに誰も手を伸ばさない」「悲しげな善意の使者」の「暖炉の火を守る人」はおらず、しまいには「赤いオニがきたよ」と自ら洒落てみせる。キリンジにかかっては、サンタクロースですら揶揄の対象になってしまう。


 彼らを見ていて何となく思ったんだけど、僕にも音楽好きの兄がいて、僕も兄も楽器ができるのに、まともな形では一度も一緒に演奏したことがないなぁ。そういえば。

 ただし、小学校3〜5年生の間のいつだったか忘れたけど、“YAMAHA ポータサウンド”という簡易キーボードで、YMOの「TECHNOPOLIS」のAメロのベース・ラインを延々と演奏“させられた”記憶はある──もちろん兄はメロ担当──。


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