11.ディミニッシュ・コード(その2)

 太古の昔はどうだったかは別にして、我々現代人はトーナリティ(調性)を持った中でメロディをつくり歌います。ですから、ディミニッシュのように宙に浮いたようなコードでも調性圏や規則性を持たせれば十分に歌うことが可能です。

 人間の脳には音に関しても残像性があり、かつまた既成概念による予測性をも持っています。それに対して音楽はハーモニーやメロディ、リズム等々の時間の流れであり、空間の広がりでもあります。そこに個々の記憶やイメージ(歌詞等も含めて)が絡まって無数の想いが誕生するのです。ですから音楽を演奏する人たちは常にそういうことを意識できる発想を持っていなければなりません。いくら誇り高い音楽家でも事務的な発想しか持っていなければ本物とは言いかねます。

・・・・・と、そんな視点から物事を処理していくと意外に簡単に壁を越えられるかも知れません。

 前項の進行一部を楽譜におこすと次のようになります。

 ディミニシュに使用されるスケールは調性圏を断定出来ないシンメトリック・スケールと、調性圏を維持するノンシンメトリック・スケールに二分出来ます。

 @ シンメトリック・スケール(調性圏が不確定)コンビネーション・ディミニッシュ・スケール(アドリブ楽譜資料参考)。

 A ノンシンメトリック・スケール(調性圏を維持)キー・エリア・スケール(調性圏を支配するスケール)と前後のコードにより創作。

 @は資料を参考にしていただくとして、A のノンシンメトリック・スケールについて説明していきたいと思います。

 まず、次につながるコードとディミニッシュのコード・トーンをそれぞれ融合させるとのように一つのスケールが出来上がります。情報量が少ない場合は、のようにそのディミニッシュ・コードが属するケーデンスの調性圏を支配するスケールを融合させます。ここでは、結果的に同じスケールになりましたが、前項の最後で示したように、ダイアトニックのスケール内で動く進行(ケーデンス)の場合、同様の結果が得られるでしょう。

 ここでのコード進行に対していくつかのフレーズ例を取り上げてみましょう。

 ここでのD♯dim7パッシング・ディミニッシュセカンダリィー・ドミナント・ディミニッシュ以外のものとしての機能しか持ちませんが次例のようにラインによってドミナント・コードふうに表現することも可能です。

 次の譜例ではC♯dim7にはA7♭9としてのハーモニック・マイナー・パーフェクト5thダウンを使用し、D♯dim7にはコード・トーンにBの音を加えました。後者は結果的に音の情報数が少ないので、理論的に注釈をつけることはしませんが、流れから見てノン・シンメトリック・スケール的(調性を感じとれるので)と言えるかもしれません。

 次のはどちらもディミニッシュ・スケールですが、これまでの例と比較してストレートでクールな感じがします。

 最後に、前後の流れを重視したキー・エリア・スケールで締めくくりましょう。実際演奏してみればよく理解できますが、最もスムーズなフレージング例だといえるでしょう。本来調性を断定出来ないディミニッシュ・コードがその個性をメロディラインによってかき消された瞬間でもあります。