9.スケールの設定(その2)

 スケールを定義することは前項で示したようほとんどの場合にごく自然な成り行きで決まります。それはすごく当然な話で、楽曲では一般的にメロディー(音階=スケール)が主軸をなすからです。それでもハーモニーのみの場合もあるので全体(前後)バランスで判断する必要性も生じてきます。

 次のコード進行はよくあるスタンダードなものですが、トランペッターのブルー・ミッチェルによる”I’ll close ・・・・”が最も有名かもしれません。他にもよく似たもの(There will never be・・・・等)はたくさんあると思います。スケールの選択肢は数多く考えられますが、結局自分がどう料理したいかにかかってきます。

 C7後は一時的にFメジャーコードに行きますが、まずごくごくシンプルにスケールを設定すると以下のようになります。

Chord Scale Chord Scale

C

C Major Am7 Natural Minor
Bm7♭5 B Locrian Gm7 Dorian
E7 E Alterd
E H.M.P.5 Down
C7 C Mixo Lydian
C Alterd

 また6小節目のAm7がAmになる場合(楽曲)もありその場合は基本的な選択肢も増え、一般的にはMelodic Minor(Tonic Minor、Jazz Minor)なんかが使われます。

Chord Scale

Am

Tonic Minor
(Harmonic Minor
Jazz Minor)

 これらのことがらを一通り把握した後、前項のようにスケールを自分自身で自然に設定してみて下さい。何事も自分の感性で物事を処理していくのが大切です。芸術家(音楽家)にとって最も恐いのが、既成概念で埋め尽くされて埋没してしまうことでしょう。

 次に、スケールを設定するにあたって忘れてはいけないのがメロディーの存在です。その辺のところも十分考慮に入れて創って下さい。

 与えられたコードは普通4和音が基本で、スケールは分数和音を除いて、たいていは5つから8つの音から成り立っています、もちろん例外もあります。基本コードは「Root」「3度」「5度」「7度」からなるのでスケールを構成するのには「2度」「4度」「6度」「9度」「11度」「13度」を選択して一つから4つを加えていけばよいのです。(ただし基本になるコードがメジャー系やドミナント7th系の場合は「Root」以外の音はスケール構築上において絶対性を持ちません。またアウト理論の場合はその「Root」もスケール的には無視される場合もありますが、ここでは混乱を避けるためそれらは後述します。)

 どうしてもスケールが決められない場合、前後のコード、あるいはその中で特に関連性の深いコードから割り出す(決める)ことができます。「2度」(9)「4度」(11)「6度」(13)をそれらのコードから見出すのです。この方法はすべてを網羅するものではありませんが、完璧な音楽理論などこの世に存在し得ないことを踏まえれば納得いく結果を得られるでしょう。

 たよえば、「Bm7♭5 - E7 - Am7」の進行の中で 、E7に注目して前後のコードから「2度」「4度」「6度」(E7の)を選択すると以下のようになり、結果的にE Harmonic Minor Perfect 5th Down(X7/Harmonic Minor )と同じになります。

 皆さんも自分の耳を信じてスケールを創作してみて下さい。結果的に既成のスケールになってしまうことがほとんどでしょうが、プロセスがオリジナルであれば、その作品はあなたの血であり肉であるはずです。

 ここで言うところの、スケールとはあくまでアドリブのラインを描くことに目的を置くものであり、いわゆるアベイラブル・ノート・スケールと全く同じものではありません。限りなく同じですが、発想が違います。たとえば、ハーモニーは一般的にアベイラブル・ノート・スケールからつくられます。しかしながら、実際の演奏ではあらかじめ決められた、あるいは突発的に発生したハーモニーに対して演奏者が自由にスケールやフレーズを選択するのです。極端なことをいえば、たとえばCメジャーのコードに対してEメジャー・スケール、Bメジャー・スケールを使用することは奏者の意志において、あるいは理論上可能でもあるからです。しかしながらこれら二つのスケールはアベイラブル・ノート・スケールとは呼べません。それに、アベイラブル・ノート・スケールはそれぞれ独立した解釈をされますが、アドリブの為のスケールは単に一つの素材でしかありません。

 読者が混乱するといけないので、付け加えておきます。自分たちが壁にぶつかったとき、大体において、中途半端な知識が邪魔をしていることが多いです。しかし、我々のほとんどはその檻の中にいてがんじがらめになっていることが現実です。だから、ここに示したように、一つの事柄に対して違う発想を持つことも、壁を乗り越える手段かもしれません。

 *各コードにおいて、オルタード・テンションが特に指定されている場合は、それらの音を十分考慮に入れて設定しましょう。

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 ジャズの神様であるルイ・アームストロングの1920年代から1930年代にかけて録音された演奏をぜひ聴いてみて下さい。その超絶技巧のテクニック、その深みのある音、そして何よりもすごいのは洗練されたフレージングです。アドリブは、音楽はどうあるべきかを考えさせられます。ジョン・コルトレーンやチャーリー・パーカー、マイルス・デイビス等を聴いたあとならともかく、ルイを聴いた後にスケールなんかについて、論じたり考えたりすると、すごく恥ずかしことをしているみたいで、自責の念に駆られます。自分自身、本質に近づこうと必死に努力しているにも関わらず、それからどんどん離れて行くように感じたことは皆さんにはありませんか。僕は理屈かたちで音楽を考えるとき、いつもそう感じるのです。