1969年のデビュー以来2004年で結成35年の大ベテラン。でも風格は微塵も無く(笑)残念ながら一部の音楽ファンしか存在を知らないのが現状だ。
基本的には抜群なノリのロックンロール・バンド(通称「全米一のバー・バンド」)ではあるのだが、その許容範囲は広く、カントリー、ジャズ、古いスタンダードなどから、おふざけノヴェルティ・ソングまでも取り込んでいる。
初期は五人編成だったが何度かメンバー入れ替わりがあり、1977年の「All Hopped Up」以降は、テリー・アダムス(Terry Adams, key)、ジョーイ・スパンビナート(Joey Spampinato, b)、アル・アンダーソン(Al Anderson, g)、トム・アルドリーノ(Tom Ardolino, ds)の四人で黄金期を築き上げる。94年の「Message For The Mess Age」を最後にアルが脱退し、以後ジョーイの弟ジョニー・スパンビナート(Johnny Spampinato, g)が加入。さらに結束を固めて現在に至る。
(追記:スパンビナート兄弟の脱退とトム・アルドリーノの死去により、現在はテリー・アダムスが若手のメンバーと共にNRBQとして活動している。→ オフィシャル・サイト)
96年から五回来日しており、ライヴの楽しさは定評済み。それがためか、彼らのオリジナル曲には極めて質の高いポップ・ソングが多いことが見過ごされているような気がしてならない。そこでまずは優れたオリジナル曲を完璧なアレンジで聞かせる黄金期の代表的なスタジオ・アルバムを3枚紹介する。
代表的スタジオ・アルバム
* NRBQ at Yankee Stadium (Mercury, 1978)
ノリノリポップな "Green Lights", "I Want You Bad"、メロメロメロウな "I Love Her, She Loves Me", "Yes, Yes, Yes"、古典ロックンロールのカヴァー "Get Rhythm", "Shake, Rattle & Roll" など、現在に至るまでライヴで頻繁に演奏される定番曲を多数含む代表作。特に "I Love Her, She Loves Me" は日本で大変に人気のある曲だ。おすすめを一枚選ぶとすれば、これになる。ライヴ盤ではないので誤解しないように。
LPではアルバムの最後に "Ridin' In My Car" がボーナス・トラック的に収められていたが、CDには入っていない。NRBQ で何か一曲といったらこれなのだが…
* Tiddlywinks (Red Rooster, 1980)
イントロから疾走感あふれるハード・ポップ "Me and the Boys" が目立っているが、"Feel You Around Me", "Music Goes 'Round and Around", "Beverly", "Definition of Love" など、ほんわかと暖かい曲が多く収められ、このアルバムの印象を柔らかいものにしている。アル・アンダーソン畢生の名曲 "Never Take the Place of You" はデイヴ・エドモンズなど数多くの人にカヴァーされている。最終曲 "Hobbies" はテリー・アダムスの嗜好が強く出たインスト(というか歌詞のないヴォーカル入)で変な曲だが強力にファンキー。デヴィッド・サンボーンが「Another Hand」でカヴァーしている(テリーとアルも参加)。
* Grooves in Orbit (Bearsville, 1983)
雷の効果音が入った "Rain at the Drive-In" が最高にポップ(テリー作曲、ジョーイ歌という黄金パターン)。ジョーイお得意のソフトな "How Can I Make You Love Me"、バネの効いた "I Like That Girl"、脱力ソング "Hit The Hay"、恒例のロックンロール・カヴァー "12 Bar Blues", "Get Rhythm" など、ヴァラエティに富んだ傑作。CDには "Some Kind of Blues", "Tonight You Belong To Me(邦題:イチゴの片想い)" の2曲を追加。
この他、初期の姿を捉えるには Columbia 時代の編集盤「Stay With We: The Best Of NRBQ」とそれに続く「Scraps」(Kama Sutra, 1972) があればOK。後のものでは、80年代臭い音ながら数多くの素晴らしい楽曲が入ってる 「Wild Weekend」(Virgin America, 1989) も見過ごせないし、最新作「Dummy」も充実している。手軽に全貌を掴むには2枚組ベスト「Peek-A-Boo」(Rhino) が便利だったが現在廃盤なので「Transmissions」をオススメしておく。
(追記:2016年に5枚組ボックス「High Noon: A 50-Year Retrospective」をリリース)
ライヴ盤
それでもやっぱり NRBQ らしさが発揮されるのはライヴ盤ということになるだろう。その場で演奏曲を決めたり、意外なカヴァーをやったり、何が飛び出すかわからないスリルがあり、良い意味でラフではあるが、ベースとドラムスのグルーヴは超強力だ。本国でライヴを行う場合はトロンボーンとテナー・サックスのホーン隊が加わることが多い。
* God Bless Us All (Rounder, 1987)
初の本格的ライヴ・アルバムということで力が入ったか大半が新曲。アル爆発の "Crazy Like A Fox"、テリーらしい楽屋落ちソング "Here Comes Terry"、心地よいジョーイ節の "Every Boy, Every Girl" と頭から三者三様の個性が出た新曲三連発。カヴァーは定番の "12 Bar Blues", "Get Rhythm", "Shake, Rattle & Roll" もあるが、"In The Mood", "Sittin' In The Park" が珍しい。客入れBGM("Surf City")からMCまでたっぷり収められ、一夜のライヴを(ほぼ)そのまま堪能できる。この時の残りと前日分は「Diggin' Uncle Q」で聴ける。
* Honest Dollar (Rykodisc, 1992)
81〜91年の各地でのライヴをランダムに収録。上記「God Bless Us All」とは対照的に、マジック・ボックス(注)など、おふざけも入った普段通りのラフなライヴの楽しさを満喫できる。断じて日本盤オビに謳ってるような“ベスト選曲ライヴ!!”ではない(笑)
ラヴィン・スプーンフルのインスト "Amy's Theme" に作曲者ジョン・セバスチャンがハーモニカで参加。トムがレン・バリーの "1-2-3" を歌う場面は微笑ましい。"Green Lights" ではビートルズ "I Feel Fine" のリフを引用。"Wacky Tabacky" でのキーボード・ソロや "New Tune" でのギター・ソロはアヴァンギャルドだ。
(注)マジック・ボックス=かつて彼らのライヴで名物だったコーナー。観客からリクエストを集め、そこから無作為に抽出した曲を演奏する。世の中の曲は何でも知っている、と豪語して。
初回プレスの一部には四人のサインが入った本物の1ドル札が封入されていたという。ぼくは日本盤を買ったのだが、なぜか「当たり」だった! トレイの下に1ドル札が…
* TOKYO (Rounder, 1997)
記念すべき初来日公演の二日間(渋谷 On Air West)から代表曲満載のこれこそ“ベスト選曲ライヴ!!”。ぼくもこの場にいたので愛着がある盤だ。その時はライヴ特有のおふざけが多少あり、テリーのソロ・アルバムから " I Feel Lucky" をやったり、ポエトリー・リーディング(のパロディ)などもあったのだが、ここには収録されてない。
ホーン隊抜きの四人編成(以後日本公演はすべてこの四人)で、これがジョニー参加後初のアルバムとなった。日本盤はジャケ違い。
こちらも参照ください。→Live Report 1999
個人的愛聴盤
* You're Nice People You Are (Rounder, 1997)
子供向けアルバムということで、かわいらしいポップス満載。もちろん大人が聴いても十二分に鑑賞に耐え得る、というかむしろ大人の子供心をくすぐることが狙いではないだろうか。曲順も頓着していないような雑然としたアルバムが多い NRBQ には珍しく、コンセプト・アルバムとしての統一感があり、それぞれの楽曲もきわめて完成度が高い。参加間もないジョーイもタイトル曲などいきなり良い曲を提供。"Always Safety First", "It's St. Patrick's Day" ではジョーイが見事な作曲センスを発揮。彼の作風は何となく Colin Moulding (XTC) に似ているような気がする。トムが音楽の授業をする "Music Lesson" も楽しい。
"Encyclopedia" でビーチ・ボーイズ "Salt Lake City" のサックスリフがちらっと出てくるが、このフレーズはアメリカの童謡とかに元ネタがあるのかも。
初体験盤
* Message for the Mess Age (Rhino/Sequel, 1994)
ぼくが初めて聴いたNRBQのアルバムがこれ。(ほぼリアルタイム)
最初の4曲までは特に何とも感じず聞き流していたのだが、5曲目 "Designated Driver" でピアノのイントロからガッチリ掴まれ、一気に好きになってしまった。6曲目、夢見るような "Ramona"、7曲目、ヒネリの効いた "Everybody Thinks I'm Crazy"、この3曲を聴いてすっかり彼らのファンになった。さらに、アルお別れの歌となった "A Better Word For Love" にジーンときて、次の "Advice For Teenagers" にも感動。聴く前はこんなに素晴らしい曲をやるバンドだとは思ってもいなかった。
以後、アルバムを買い集めることになる。そのころはあまりCD化されてなかったので、ほとんどLPで(初期のものは少し高かった)。いきおいで、アルバム名/作曲者名などでソートできるソングリスト・データベースを、クラリスワークス(Mac用の古いソフト)で作ったりもした。99年の「NRBQ」までで挫折したが(笑)
そのファイルを元のまま公開しても開ける人は少ないと思うので、テキスト形式にして公開する。
NRBQ Song List (1968-1999): songlist.txt