楽器のメンテナンスと修理について
修理と調整では楽器の状態が全く異なります。楽器が壊れた状態で修理をお願いすると、楽器屋さんに楽器を預ける期間も長く、修理費も高額になってしまう事が多いようです。このような状態になる前に調整に出して欲しいと思います。調整でしたら、当日もしくは数日程度で行なってくれるはずですし、購入した楽器店や楽器本体の保証期間でしたら無料もしくは低額で調整をしてくださる楽器屋さんがほとんどです。楽器屋さんに調整をお願いすれば日々のメンテナンスはバルブオイルとグリス、楽器本体の日常的な清掃だけで十分です。学校の備品等では、生徒が壊れかけている楽器を無理に吹いている例もあるようですが、上達も遅く、壊れてから先生に報告するので修理代も高く、何も良い事はないと思います。この調整と修理に対する意識を変える事が大切だと思います。また、素人が改造や修理をするのは無謀な行為で、楽器を痛め、さらに修理に費用も時間も要する事になりますので、止めて頂きたいと思います。
1. バルブの調整
バルブは楽器の心臓部ともいえるユーフォニアムにとって最も大切な部品のひとつです。ユーフォニアムのバルブの状態は演奏に重大な影響を与えますので、常にベストの状態を保つようにして下さい。
1-1. ピストン式
私はこの数年間、自分の楽器のバルブの調整を自分でした事がほとんどありません。なぜならば、少しでも動きが悪くなると、すぐに楽器屋さんに持っていくからです。
ですから、自分ではほとんど何もする必要がありません。バルブオイルさえ滅多に使用しませんので、「バルブオイルだけはお願いします。楽器の内部が錆びますから」と楽器屋さんに注意されてしまいます。
保管しておいた楽器や、毎日吹かない楽器は管が乾燥しますから、オイルは楽器を使用する度に必要になると思います。オイルを注ぐときは、ピストンのシリンダーを丁寧に扱い、そっと真っ直ぐに持ち上げて下さい。ぐるぐる回して螺旋状に傷を付けないように、特に注意が必要です。吹いているうちにオイルがなじんで、どこにもピストンが引っかからないのでしたら、全く問題はないと思います。
木管楽器の演奏者が楽器の調整を頻繁に行なうように、ユーフォニアムも、バルブの調整を楽器屋さんにお願いする事が大切だと思います。
昔の話ですが、ピストンの調子が良い事に安心しきっていて、痛い目に遭った事があります。気が付かない内にピストンのガイドの爪が摩耗していました。ピストンが回転して、息が詰まって音が出なくなってしまったのです。演奏旅行中でしたから、楽器屋さんに行く時間の余裕も、他の楽器に替える事も出来ず、自分で何とかしましたが、それは両面テープを買って来て、自分の指とピストンのボタンを適正な位置でくっつける!という極めて単純な物でしたが、何とか本番を乗り切りました。今思い出しただけでもゾッとします。
このバルブの爪の摩耗の問題については、各メーカーの研究により新素材や複合材の開発が行なわれ、既に解消されています。
しかし、このような思いは二度としたくないですね。どこも悪くないと自分では思っても、プロのマイスターの目から見ればおかしい所もあるかもしれません。定期的なメンテナンスを楽器屋さんにお願いする習慣をつけると良いと思います。
奏者のレベルでピストンの調整をする事が出来るとすれば、バネやフェルトの交換とシリンダーや楽器内部の清掃が可能だと思います。しかし、楽器の扱いに慣れていない方がいじると、誤って部品を落とす、ぶつけてしまう事もあり、かえって危険です。
1-2. ロータリー式
ロータリー式のバルブはとても精密で、定期的に楽器屋さんや楽器修理の専門家に調整をお願いしましょう。私達に出来る事は外部からのオイルの補給位で、メンテナンスフリーと考えて頂いて良いと思います。
2. 取り外しが出来る各部品について
抜き差し管やピストンの蓋、ウオーターポット等、楽器本体から取り外しが容易に出来る部品はメンテナンスが必要です。
2-1. 抜き差し管
音程の微調整や水抜きを素早く行なう為に、抜き差し管はスムーズに動くようにしておきましょう。塗ってあるグリスが劣化した場合や、汚れてしまった場合は、必ず古いグリスを拭き取ってから、新しいグリスを塗り直すようにして下さい。抜き差し管が簡単に抜ける、あるいはきつくて動かない物も見受けられますが、抜き差し管や楽器本体が歪んでいる事が考えられますので、すぐに修理に出して下さい。
特に、夏の暑い時期のステージ上では、抜き差し管が抜け落ちる悲劇が起きますので、「ゆるいな」と感じましたら、抜け落ちても大丈夫なように、ひもやゴムで抜き差し管と楽器本体を結ぶ、応急処置をしておきましょう。
2-2. 水抜きのコルクやゴム
演奏中に暖められた空気が楽器に触れ、冷やされると空気中の水蒸気が水滴となって各抜き差し管に溜まります。この水が溜まりすぎると、演奏中にボコボコと雑音を発生させてしまいますので、この水を素早く抜く為に、主管や1番管の抜き差し管等に水抜きの装置がついています。この水抜きの装置は、抜き差し管に空けられた穴をコルクやゴムで塞ぐキイ方式の物が一般的で、奏者はキイを押して水を落下させます。この穴を塞ぐコルクやゴムが劣化して変形すると、水や空気の漏れに繋がります。特に音色に悪影響を及ぼしますので、定期的な交換が必要になります。近年は素材の開発によって耐久性の優れた物が普及していますので、交換の回数は減りました。
2-3. ピストンの蓋
ピストンの蓋は、きつく締める、又はしばらく吹かない状態で放っておくと楽器本体と密着して、全く動かなくなります。バルブオイルを注ぐ事や管の中を清掃する事が出来なくなってしまいます。この様な状態になる事を予防する為に、奏者は楽器をケースから出す時や片付ける時に、全てのピストンの蓋を必ず動かす習慣をつけるとよいと思います。また、長い期間吹かない楽器については、全てのバルブの蓋のネジを少しだけ緩めておく事も必要です。
2-4. ウォーターポット
ウォーターポットは、ピストン下部に装着される着脱が可能な円筒形の容器で、ピストンから落ちる水滴やオイルによって服が汚れるのを防ぐ為に開発されました。こまめに取り外して洗う等、清潔に保つように注意して下さい。
2-5. 譜ばさみ
オーケストラのバンダやマーチング、パレード等に使われる譜ばさみは、楽器の本体に取り付け用の器具とネジが付いている機種に取り付ける事が出来ます。このネジを使用し、奏者が見やすい位置に譜ばさみの位置を調節します。
各メーカーによってホルダーや譜ばさみのサイズが異なりますので、購入時に注意しましょう。ネジが緩いと楽器を下に向けた時に抜け落ちてベルを凹ませたり、楽器本体を傷つけたりしますので、注意が必要です。
3. 事故と保証
楽器の扱い方と上達には因果関係があると思います。上手に楽器を演奏する方は楽器の扱いも丁寧です。反対に指導者不在の団体の楽器等は酷い状態にある事がほとんどです。しかし、どんなに注意をしても不慮の事故は起きてしまう事があります。
楽器をぶつける、もしくは落とした事による管やベルのへこみ、抜き差し管やマウスパイプのねじれや溶接のはずれ、ピストンの不具合、マウスピースが抜けない、異物が楽器の中に入って取れなくなってしまう等、ケースは実に様々です。また、移動時や保管時の紛失や盗難等、出来ればこの様な事故は起きて欲しくないと願わずにはいられません。
大掛かりな修理は大変高価で、場合によっては新品を購入するのと替わらない場合もありますし、しかも元と同じ状態に戻らない場合もあるかもしれません。また、買い替えるにしても愛着のある元の楽器と同じ様な新品を入手出来るとも限りませんが、特に高価な楽器の購入を予定されている方は、購入時に楽器保険に加入される事をお薦めします。大手の保険会社であれば扱っています。また、楽器屋さんによっては購入時に自動的に保険に加入している場合もありますので、保険の内容や期間を延長する等、条件を変える事も出来ると思います。
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