楽器の購入(入手)方法について

1. 楽器の選定について

自分の楽器を手にしたい、と皆が願います。何百、何千万円もする弦楽器やピアノに比べれば、ユーフォニアムは数十万円から購入出来ます。とは言っても、決して個人が簡単に購入出来る金額ではありません。近頃はレンタル専門の楽器もありますし、知り合いの方から楽器を譲って頂いたり、借りたりして、購入しなくても自分専用の楽器を入手する事も出来るようになりました。

一般の消費者は、どれだけ安く買えるのか、という事に意識や興味が行ってしまいがちですが、楽器を購入する場合は「どれだけ安いのか」ではなくて、「どこの楽器店で購入するのか」が一番重要な問題になります。

楽器を使用していれば消耗品を交換する必要がありますし、何年もかけて自分の手になじむようにバルブの調整をする事も大切です。ですので、その楽器店にユーフォニアムについての専門的な知識を持ったスタッフがいるか、修理や調整はしてもらえるのか、が重要です。優秀な楽器店のスタッフは楽器の調整や修理の相談に乗ってくれるだけでなく、来日する演奏家の演奏会の情報やクリニックの案内、新製品の情報等、様々な有益な情報を私達に与えてくれます。どのようなプレーヤーがそのお店を利用しているか、等も目安にすると解り易いと思います。

楽器店には社会的な責任もあります。楽器店は利潤を追求しなければなりませんが、地域の文化活動に還元する努力をしているか、私達演奏家をサポートしてユーフォニアムの活動を支えようとしているのか、そこまで含んでの販売価格や定価です。「安く売ってハイさようなら、後は知りません」ではなく、その後のアフターサービスや修理。付属品や楽譜や資料の販売や紹介。プロや一般の方の音楽活動への様々なサポート、クリニックやイベントの開催、地元の文化活動や社会への奉仕。環境への配慮。これらを楽器店としてどのように取り組んでいるのか、取り組もうとしているのか、消費者はよく判断して楽器を購入するお店を選択して下さい。

購入する楽器店が決まりましたら、いよいよ購入する楽器を選定する事になります。

近年は楽器製造技術の向上やオートメーション化により完成品の誤差は少なくなっていますが、金管楽器の製作には、職人さんの手作業で金属を曲げたり伸ばしたりする加工を行なったり、溶接をしたり、楽器を磨き上げる工程が存在しますので、たとえ同一モデルであってもすべての楽器が完全に同じ性能であることはありえません。
また、出荷後の保管状況が悪い楽器や完成品検査で見落とされた欠陥がある楽器もまれに出回ることがあります。ですから楽器を購入する際は、専門家によって選定されたものを購入することをお薦めします。また、それが出来ない場合は楽器の扱いに慣れた方に同席してもらい、試奏して客観的に楽器の状態を判断する事が望ましいと思います。

試奏する際には、音色が美しいか、音程は正しいか、音量の幅はあるか、音域による音抜けに均一性はあるか、反応は良いか、グリップは持ちやすいか、重量は適当か、バルブの動きはスムーズか、等を判断しましょう。この際に、些細な傷やメッキのムラは気にしなくて良いです。新品は多少音抜けが悪くても、奏者も楽器も慣れていくうちに状態が良くなりますので、全体のバランスが良い物を選びましょう。小さい傷やメッキの剥がれは楽器を使用していればいつかは起きてしまうものです。

各楽器メーカーは、音色や性能、デザイン等において独自のポリシーや戦略を持って特徴を出しています。各メーカーの楽器を使用するプロ奏者の演奏やCD等を参考にして、普段から自分の音色の傾向や好みを考えておくことは楽器を選ぶ基準として重要な要素になります。また、楽器店と同じように、各メーカーの社会的な取り組み、ユーフォニアムの対しての貢献度も選択肢として考えても良いと思います。

楽器の制作方法が完成されたバイオリンなどの弦楽器は、名工の手による歴史的な名器が存在し、何千万円もしますし、しかも購入する時よりも使用した後に高く売れる美術品のような扱いをされる楽器もあるとよく聞きます。楽器が劣化しないのですね。

しかし、金管楽器ではそのような事はありません。それは、金管楽器は吹き続けると金属がへたる(疲労する)、メッキが剥がれる、錆びる。ぶつけてへこむ、擦れる、削れる、等の現象が起きて、ひどい場合には手に触れる部分等が腐食して楽器に穴があく事もあります。どんなに調整や修理をしても、音色や吹き心地に満足が得られなくなる状態になる楽器もあります。楽器の寿命が来てしまうのです。金管楽器は消耗品です。次の楽器が欲しくなる頃には進化した最新のモデルが開発されています。

金管楽器の製作の現場、つまり金属加工の技術は現在も進化しています。人類がコントロールする事が出来る熱源はその温度も範囲も、日進月歩で進歩しています。楽器本体の金属の種類、溶接やメッキに使う溶剤の性能も、使用する材料も工場の環境も人間や自然にやさしい物に変化しています。楽器のデザインもコンピューターを使って設計する事が出来るようになりました。これらが相互に影響し、以前では不可能であった楽器の改良が可能になり、より吹き易く、より正確な音程や美しい音色を表現出来る楽器が、これからも開発され続けるのです。ですから、私達消費者は常に新しい楽器を買う事が求められて、それがユーフォニアムの進歩につながる、と考える事も出来ます。

しかし、昔の楽器を研究する事で、過去から現在、そして未来を予測する事が出来ますから、古いタイプの楽器の存在もとても大切です。車でしたら、クラシックカーでしょうか。状態の良い物はほとんどが自動車博物館で展示・保存されますが、公道を颯爽とクラシックカーでドライブをする姿を見かけますと、私も憧れます。楽器の世界でも出来たら楽しいでしょうね。楽器の性能や扱い易さが進歩しても、ユーフォニアムという楽器を使用して人間の喜怒哀楽の感情を表現する演奏の行為は今も昔も、そして未来も変わらない事でしょう。しかし、第一線の現場で働く事が困難である事、メンテナンスにお金がかかる事は車も楽器も同じだと思います。

どのような目的で、どのような用途でユーフォニアムを使用するのか、自分との相性や好み、予算等の条件も良く検討して楽器を選定し、演奏活動を十分に満喫して頂きたいと思います。

2. ネット販売やオークションで購入する楽器について

 インターネットの普及で、個人がネットの販売店やオークションを通じて楽器を購入する事が出来るようになりました。海外のオークションもリアルタイムで参加出来て、いままで見た事もないような特殊な楽器や古い楽器、日本に輸入された事のない楽器等、ああ、これもユーフォニアムなのか、と驚く方も多いと思います。
 
 楽器を販売する業者は社会的な責任があることは前に述べましたが、ネット上で楽器を販売する方にも同様の責任があります。楽器屋さんとして、ネット上で楽器を販売していても、アフターサービス等の提供をしているのであれば全く問題はないのですが、骨董品として、もう現役の楽器としての価値のない物品を販売しているのにもかかわらず、楽器屋さんを装おうお店があるとすれば、これは問題です。消費者はネット上の楽器屋さんと骨董屋さんの違いがわかりづらいことがあります。
 店頭販売店も同様ですが、ネットで格安の楽器が出回ると言う事は、何らかの理由や事情がある、ということです。そのリスクを踏まえた上で、ご自分が気に入られた楽器を適正な価格で購入して頂きたいと思います。

・新品の楽器について
 世界中で様々な楽器が生産されている事をこれほど簡単に見聞きする事は出来ませんから、ネットでの楽器の検索は大変楽しい事です。
 店頭販売と同様に、それぞれの販売店が、どのように楽器を販売しているのか、特にアフターサービスの有無をよく確かめてからご購入ください。高価な楽器を購入されるのですから、試奏が出来るのか、また試奏後に返品が出来るのか等の諸条件をよく確認し、購入後のトラブルが無いようご注意ください。

・中古品について
 中古の楽器でも、現役として十分使用に耐えられる楽器は、楽器屋さんが必要な修理や調整をして、適正な価格で販売されています。筆者もそのような楽器の選定や試奏を依頼される事がありますが、プロの楽器店の店員さんがつける中古の楽器の価格は、私から見てもいつも適正で、感心します。このような楽器はその販売店により多少の差はありますが、アフターサービスもあります。ですから、中古品として市場に出る楽器が少ないのは、責任を持って販売をする楽器店から見れば当然の事です。

 オークションで出品される中古品については、修理や調整をされていないもの、長期間保管されていたもの等、実に様々な状態の楽器が出品される事が考えられますので注意が必要です。

・骨董品について
 現役の役割を終えた楽器を購入されて、コレクションとして楽しむ事は、楽器の変遷を目で見て楽しむ事が出来る趣味の一つとして、これから成長する市場だと思います。
 注意して頂きたいのは、これらの楽器はもう現役としての楽器の役割を終えている、と言う事です。このような楽器は陳列する目的で購入する、という考えが基本です。所有歴のはっきりしている状態の良い物や、オリジナルのケースやマウスピース等の付属品の揃ったものを購入されるのが基本です。
 価値のある古い楽器で、状態の良い物は楽器博物館や大学等の研究機関がそのほとんどを所有していますが、この様な楽器を入手する幸運な機会に恵まれた方は、その後の保管に万全を期して頂きたいと思います。出来れば、修理等は出来るだけ現状を保つよう、改造等は極力避け、部品の交換後もオリジナルを保管する等の配慮もして頂きたいと思います。


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