「ごしきひわ」は1728年頃出版され、おそらく史上初めてのフルートコンチェルトといわれる作品10の6曲のうちの1曲である。
 『四季』と同じ系列の標題音楽で、急―緩―急の3楽章構成。リトルネッロ形式を用いた典型的なヴィヴァルディ様式の作品となっている。

(稲葉由紀)


ヨハン・セバスティアン・バッハ 
Johan Sebastian Bach
   「ミサ曲 ト長調」BWV236
Missa G-dur BWV 236

 ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685〜1750)のミサ曲といえば、誰もがあの不朽の名作「ロ短調ミサ」BWV232を思い出すだろう。しかし、バッハにはこのほかに4曲のミサ曲のあることは、あまり知られていない。ヘ長調、イ長調、ト短調、ト長調(BWV232〜236)の4曲がそれで、いずれもバッハが52〜53歳頃の作品である。有名な「マタイ受難曲」初演の数年後で、バッハ熟年期の作品なのである。
 この4曲の特徴は、いずれもキリエとグローリアだけから成ることで、これでは伝統的ローマ典礼形式から見れば、ミサ曲の断片でしかない。しかしこれを当時のドイツ・ルター派教会の典礼を調べるとこの疑問は解決する。宗教改革後も、ドイツではまだラテン語の歌や言葉が用いられたことがあり、バッハの奉職するルター正統派教会では、当時の慣行としてキリエとグローリアだけに音楽をつけたものを「ミサ曲」と呼んでいた。のちには全ての教会がドイツ語化されたので、このラテン語使用はある特定の時期だけであったことになる。このためこの4曲は通称「ルター派教会ミサ」とも呼ばれるのである。
 もうひとつの特徴は、全4曲のほとんどが既存の教会カンタータからの転用(パロディ)であることである。パロディは、多くは単発の行事に書いたものを、のちに通常の典礼用に転用したもので、このミサ曲が教会カンタータに慣れ親しんでいたライプツィヒ教会で演奏されたことは、まずあり得ないだろう。しかしこのミサ曲は、作曲動機も目的も、何ひとつ記録が残っていないのである。
 ミサ曲ト長調BWV236は、全6曲から成り、その内訳は次の通りである。


第1曲 キリエ(合唱)
 パレストリーナ風の古様式な合唱フーガである。この曲は初期ライプツィヒ時代(1723)のカンタータBWV179「心せよ、汝の敬神に偽りはなきや」の冒頭合唱の転用である。偽善をいましめ、憐れみを求める原歌詞は、ミサ入祭で唱える懺悔の祈りに共通する。


第2曲 グローリア(合唱)
 宗教改革記念日のカンタータBWV79「神は太陽でわが盾なり」の冒頭合唱の転用である。原曲は長大な器楽前奏が置かれているが、ここではホルンの旋律を女声合唱に書きかえて、「天には神に栄光」と歌わせている。中心部のフーガ形式の合唱は、悪をしりぞけ神の勝利をたたえ、信仰の確かさを歌う堂々とした賛歌である。

- 6 -


前のページ 次のページ