ヨハン・セバスティアン・バッハ 教会カンタータ182番「天の王よ、汝を迎えまつらん」
Johann Sebastian Bach

 ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685〜1750)が生まれたのは、モンテヴェルディの死から42年後のことで、世はすでにバロック後期に入っていました。中部ドイツはいまやルター派教会が安定した地位にあり、同教会正統派の家庭に育ったバッハは、早くから同派音楽家として活動をはじめていました。
 23歳の彼は2度目の転職でヴァイマール宮廷楽師となり、バッハのオルガン曲の大半はここで作曲されました。すでに彼は稀代のオルガン奏者としての名声が高かったのです。カンタータ第182番は、1714年ここの楽長に昇進した年の最初の作品で、同年3月24日「棕櫚の日曜日(枝の主日)」の礼拝式で初演されました。
 この日は四旬節最後の受難週(聖週間)の日曜日であり、聖書はイエスのイエルサレム入城の場面(マタイ21章)が読まれます。この聖書の言葉「主の名によって来られる方に祝福あれ、いと高きところにホサナ!」は、ミサ聖祭では「ベネディクトゥス」でも唱えられます。主が十字架のためイエスをこの世に遣わされ、現世最後となったイエルサレムへの入城を、受難を克服した勝利の凱旋と捉えるものであります。
 曲はA、T、Bの独唱者と4部合唱に弦楽器とリコーダー(本日はフルート)に通奏低音という簡素な編成です。合唱とアリアにダカーポ形式(ABA形式)が目立ちます。本日はバッハ学者アルフレード・デュルの説に従い、本来ト長調のこの曲をイ長調に移調して演奏します。

1 器楽ソナタ
 聖書に書かれているロバに乗って入城するイエスを想起しますが、シチリアーノのリズムは「ゆりかご(降誕)」を暗示します。

2 合唱「天の王よ、ようこそおいでください」
 信徒の入城歓迎の合唱。イエルサレム入城を、信徒の心への入城と置き換えます。冒頭のHimmelskonig(天の王)の音符はバッハがよく用いる十字架音形で、世を救うために受難されるイエスの姿を暗示します。

3 レツィタティフ(バス)「見よ、私は来ています」
 「私のことは聖書に書かれている」と詩編の預言を伝えます。僅か8小節の音楽。

4 アリア(バス)「強き愛、あなたは大いなる神の子」
 世を救うための神の強い愛を歌います。「強き愛」の音符にも十字架音形が。

5 アリア(アルト)「救い主の許にひれ伏し」
 フルートオブリガートによる長大なアリアです。沈潜した音楽は暝想の時間です。

6 アリア(テノール)「イエスよ、幸せにおいても悲しみにおいても」
 「いかなる時も主と共に行きます」と信徒の心の転回が見られます。

7 コラール(合唱)「イエスよ、あなたの受難は」
 16世紀ヴルピウスの旋律による受難コラール。ソプラノの旋律を下3声の合唱が綾織るように変奏します。

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