「クリスマスのための四つのモテット」FP 152
Quatre Motets pour le Temps de Noel

「ミサ・ブレヴィス ニ長調」 KV 194
Missa brevis D-dur

 本日の曲目、モーツアルトとプーランクは、両者に百数十年の年代差と墺仏の国籍の違いがあるが、二人の音楽には不思議な程の共通点が見られる。それは二人とも天賦の才能に恵まれ、共に時代の寵児であったこと、また多分野の音楽を作曲したなかで宗教音楽のウエイトが比較的高いこと、そして音楽の内容が簡潔明瞭で陽気であるとともに、その音楽が時代を拓く新鮮さを有することである。

F.プーランク
クリスマスのための四つの無伴奏合唱モテット FP 152

 オネッゲルやミヨーと共に現代フランス作曲家「六人組」の一人として20世紀前半に活動したプーランクは、どちらかといえばパリジャンらしく陽気で、軽妙な音楽の作曲家として知られていた。しかし、1935年親友作曲家の突然の事故死を機に、彼は幼児洗礼以後疎遠であったカトリック信仰に引き戻された。それは中仏山地のロカマドゥール礼拝堂の黒衣の聖母像を見た瞬間からだという。断崖のくぼみにある厳しい環境の僧院で、プーランクは人生観の転機を迎えたのであろうか、36歳の彼は以後憑かれたように宗教合唱曲を次々と書いたのである。

 「クリスマスの四つのモテット」はこの流れのなかに書かれ、1951〜52年の作である。降誕祭から顕現節に至るクリスマス期のカトリック聖務日課のテクストを用いているが、原歌詞であるグレゴリオ聖歌の旋律は用いていない。4曲をまとめたモテットは典礼用としてではなく、プーランクは演奏会用作品を意図したのであろう。

T.おお大いなる神秘

 ルカ福音書2, 1〜7を背景とした降誕祭第一日朝課の応唱の歌詞である。救い主が人知れず馬小屋の中で生誕したという事実の驚くべき神秘さが歌われる。

U.羊飼いたちよ、見たものを語れ

 ルカ伝2, 8〜20を背景とする降誕祭第一日朝課の応唱である。主の御告げにより飼葉桶に眠る幼な子を見た牧童達の驚きや不安の気持ちが、第三者の言葉を借りて表現される。

V.星を見て

 有名な東方の三博士の物語(マタイ2, 1〜11)で、顕現節第二日(1月7日)晩課の交唱である。異邦人に対する救い主の出現という出来事を神秘的に歌う。

W.今日キリストは生まれた

 降誕祭第一日の晩課の交唱である。典礼では「マニフィカート(マリア賛歌)」につづくので、喜びの表現は抑制されるが、プーランクはモテットの終曲として躍動的な音楽で降誕の歓喜を表現している。


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