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交響曲第5番ハ短調 作品67


概要

聴きどころ

凝縮された魅力

 この曲の特徴のひとつに,構成が極めて引き締まっており,無駄というか余裕がほとんど感じられないという点がある。そのため,全曲を通して聴いてみると演奏時間が実際より短く感じられるのではないだろうか。
 たとえば第1楽章第一主題は至って単純な動機である。にもかかわらず,そのままの形で反復するようなことは行われず,現れるたびに形を変えてくる。第4楽章第一主題も長大な主題で,次々と新しい楽想が現れる。
 第3楽章についても,最初の案では交響曲第6番「田園」と同じでABABA'型,つまり最初のスケルツォとトリオを反復する形で考えていたようだが,それが省かれてABA'の単純な形になった。このあたりにも,曲の集中度を上げようとするベートーヴェンの意気込みが感じられる。参考までに書いておくと,ベートーヴェンはこの曲の前後の交響曲,すなわち第4番変ロ長調と第6番「田園」において,ABABA'型のスケルツォ楽章を書いている。
 一方で,息抜きの場もちゃんと用意されている。たとえば第1楽章では第二主題が提示部ではそのままの形で3回繰り返され,再現部ではもう少し間延びして4回繰り返される。また,第1楽章の第1主題の再現直後に,オーボエのカデンツが入っているのも息抜きになるだろう。しかし,この息抜きは本当の意味での息抜きではなく,凝縮された他の部分を際立たせるための息抜きとも感じられる。

楽章間の結合

 第3楽章と第4楽章は連続して演奏される。間に休みがないばかりではなく,第3楽章の最後が不完全休止になっており,完全に接続された形になっている。これは,この時期のベートーヴェンの作品に共通して見られる形であるが,特に第4楽章の再現部の直前で第3楽章の主題が再現されるのが目新しい。これだけ明らかな形で楽章間での主題を交換することは,交響曲に限って言えばこの曲の後には交響曲第9番「合唱付」まで現れなかった。

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