◆オンリー・ア・ラッド

●『オンリー・アーラッド』に関するメモ

前述したようにこのアルバムは、1981年にI.R.S./A&Mから発売されたオインゴ・ボインゴのデビュー・アルバムである。プロデューサーは、70年代前半はパラディン、フォックスといったバンドのメンバーとして活躍し、70年代後半はイギリスのニュー・ウェーブ・シーンの代表的プロデューサーとして数多くのアルバムを手がけたピート・ソリーとオインゴ・ボインゴ自身で、ロサンジェルスのさまざまなスタジオで録音されている。
イギリスのニュー・ウェーブ・ビートをテクノ・サウンドの中で消化し、それを迫力あるホーン・セクションとうまく絡めたオインゴ・ボインゴ独自の音楽スタイルは、すでにこのファースト・アルバムにして確立されている。アメリカのXTCと呼ばれたり、ディーヴォと比較して語られることも多かったオインゴ・ボインゴだが、彼らの音楽にメン・アット・ワークやメンタル・アズ・エニイシングといったオーストラリアの一癖も二癖もあるバンドとの共通項を見出す人も少なくないだろう。まだ同じロサンジェルスのバンドということでは、B級映画的なロックの世界を持っているということで、ウォール・オヴ・ヴードゥと重なる部分があったりする。
しかし何といってもオインゴ・ボインゴの最大の特色は、ダニー・エルフマンの書く辛辣で皮肉っぽくて、ちょっぴり倒錯気味のブラック・ユーモアに満ちた歌の数々だろう。それに彼のひねくれたヴォーカルも、ちょっと類を見ないユニークなものだ。このアルバムでも、そうしたダニーのウイアードネス(へんちくりんさ)は遺憾なく発揮されている。
ホーン・セクションのイントロがあったかと思うと、いきなり典型的なブリティッシュ・ニュー・ウェーブ・ビートにのって歌われる「LITTLE GIRLS」は、聴きようによってはかなり危ない内容だ。ロリコンの男の歌とも受け取れるし、それこそ無邪気な女の子にしか相手にしてもらえない醜いルックスの男の嘆きの歌のようにも思える。
「PERFECT SYSTEM」は、ロボット化された人間がテーマだろう。頭の中に何かを埋め込んで、誰もが争うこともなく仲良く暮らせるようなのだが、すべては誰かの手によってプログラミングされているのだ。この曲を聴いていると、ロボット(robot)とロボトミー(lobotomy)という二つの言葉が、重なって浮かびあがる。間奏のロックン・ロール・ギターとマリンバ風のサウンドとのからみが面白い。
ダニー独特の辛辣なユーモアが「ON THE OUTSIDE」では、ばんばん飛び出して来る。この歌の主人公はスクエアな社会からドロップ・アウトして、“アウトサイダー”になったものの、結局はみんなから馬鹿にされているようだ。ホーン・セクションをバックにしたダニーの痙攣気味のヴォーカルは、そんなアウトサイダーの側に立っているようでもあるし、皮肉っているようでもある。なかなか微妙な歌だ。
この微妙さは続く「CAPITALISM」でも窺える。ダニーはこの曲で自分はぬくぬくとした立場にいるくせに大衆と共に戦えと議論ばかりふっかけるエセ革命家を攻撃したかったのだろうが、たとえ皮肉と判っていても、「資本主義のどこが悪い、金儲けして何が悪い」と歌われると、あまりいい気はしない。この曲でのダニーのアイディアは少々強引すぎるようだ。
「YOU REALLY GOT TO ME」は、ご存知ザ・キンクスの代表的作品。オインゴ・ボインゴはお得意のテクノ・ファンク・サウンドでカバーしている。歌詞は知っていて当然だよということでジャケットには印刷されていない。
「ONLY A LAD」は、オインゴ・ボインゴがいちばん最初に話題を集めた曲で、恐らく今でも彼らのベスト・ソングと呼べるものだ。この歌は子供の頃からワルで通していたジョニーの物語。何か悪いことをしても、まだ子供だから、まわりが悪いんだからと甘やかされ、挙句のはてには人を殺してしまう。しかし殺人を犯しても未成年(オンリー・ア・ラッド)の彼は責任を問われず、自由の身になっても後悔するどころか、自分の幸運を楽しんでいる。そんなジョニーに対してこの歌は「電気椅子送りになればいい」という叫びで締め括られている。
「WHAT YOU SEE」は、いかにもロサンジェルスのバンドが歌いそうな物騒な歌。確かに今の時代は、80年代も90年代も、一寸先は闇というか、何が起こってもおかしくない恐ろしい世の中だ。
「CONTROLLER」は、誰かが自分を捕まえようとやって来て今にもドアをノックするのではないかという強迫観念におののきながら家の中に閉じこもっている男の歌。というと思い浮かべてしまうのは、メン・アット・ワークの81年の大ヒット曲「ノックは夜中に/WHO CAN IT BE NOW」だ。どちらの曲も81年の発表だから、これは偶然の一致なのだろう。それにダニー・エルフマンとコリン・ヘイは、これらの曲に限らず、曲作りの発想が似ているように思える。
「IMPOSTER」は、音楽評論家をくそみそに扱き下ろした歌。ギターを弾く才能もなく、自信喪失でアーティストにもなれず、それで評論家になったなんて、まるで筆者のことを言われているようだ。だからというわけではないが、この曲のダニーのユーモアは、空回り気味である。音楽評論家をペテン師呼ばわりし、自分がスターになれないから頭にきていると言ったり、自分が書くことを信じちゃいないと決め付ける彼は、あまりにも大人げない。もしかしてダニーは音楽評論家からぼろくそに書かれたことがあって、その恨みをこの曲で晴らそうとしているのだろうか。
そしてオインゴ・ボインゴのこのアルバムは、オープニング・ナンバーの「LITTLE GIRLS」と同じく、かなり危ない内容の歌「NASTY HABITS」で幕を閉じる。ナスティ・ハビッツ(いやらしい習慣)とは何なのか具体的には歌われていないが、曲が進むにつれてどんどん興奮していくダニーの歌を聴きながら、あれやこれやと想像をたくましく、とんでもない淫らな習慣のことを考えて思わず赤面してしまったりする(それは筆者だけの話か!?)。いずれにしてもへんちくりんでいやらしくて危ない、いかにもオインゴ・ボインゴらしい楽しい曲である。

(1990年2月 中川五郎)


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