また、オモシロイアルバムを出してくれたものだ。
このTOOLというバンド、時代から背を向けているスタンスを取っているが、いつも時代のど真中にいる。前作でもそうだった。元々普段、人間自体も気がつかないような人間の根源を音にしていくスタイルのバンドだから、人間がこの世にある限り、そうならざるを得ないのだろう。
しかし…このアルバムは彼らの歴史の中でも、勿論ロックの歴史の中でも偉大なアルバムに数えられるだろう。
TOOLはこのアルバムでドレミファソラシドの8つの音で歴史書を書くことに成功している。
1曲目などはまさに奇跡といっていいだろう。長いイントロはまさに暴発寸前のテンションを保っており、1分近くの咆哮を上げるメイナードの声はすべての基準をリセットするかのように聞こえる。
ただ、普段のメイナードの歌は読経のようだ。親切な音ではない。その間のギター、ベース、ドラムの音のなか、それは唱えられ、引きこまれていく自分を止めることなど出来ない。。
時折響かせるその咆哮は、人の心の中にある深層心理をえぐりだしてくる。

う〜ん。非常にボーダレスなスタンスだ。何故か北野武の映画を思い出すのはなぜだろう。
両者の間にある共通点。
日常のほんの一瞬のゆがみから覗き見る人間の根源的な恐怖。といっていいだろうか。
主に、それは笑い、によって引き裂かれる品性だか、プライドだかから覗き見ることが出きる。
私自身は、このバンドのCDを聞くくらいで、熱狂的ファンではなかったから、この間まで知らなかったが、メイナード、昔はお笑い芸人、だったらしい。
なるほど。
ライブの時の彼の扮装などは見る人を思わず笑わせてしまう。
しかし、その油断に付け入るかのような音の洪水の前に思わず、人は自分と向き合うチャンスを手に入れるのかもしれない。

別に、政治的な運動をしているバンド、という噂もない。
メンバーの誰かが麻薬なんかで逮捕された、という話も聞かない。
中指を立てているわけでもない。
なぜ彼らがそういう行動をとらないかというと、
おそらく、それが人間の本来の姿ではないからだ。
虚勢を張ることでたくさんのファンを持つことは出きる。SLIPKNOTなど、まさにその好例だ。
彼等の事を書いた頁でも書いたが、ほとんどの人は、そこまで語るべき自己など持ってはいない。SLIPKNOTとともに一体感を味わうことでほとんどの人は人間の根源の恐怖なんかから目をそむけることが出きる。
また、テクノ的なアプローチで外から同じような根源的恐怖を表したレディヘのようなアプローチも取ってない。肉体からの欲求をすべて断っているようなあの、ピラミッドソングに代表される彼らの音からは、悪く言えば、現実逃避への欲求すら感じさせる。
しかし、TOOLは肉体を持った人間でありつづけようとする。
肉体だけの快楽を求めるなら、リンプのような音になるだろう。
精神の救いを求めるなら、それはレディヘのような音に近づいていくに違いない。
TOOLの音を聞くにはある種の決意のような物が必要だろう。
暗い、とっつきにくい。
そんな人間のイヤな部分を堂々と音にして、精神的地平の向こうに聞く人すべての姿を映し出す鏡を持つバンド。
それがTOOLである。
そして、そんなTOOLにようやく時代が追いついた、それが2001年という年なのだ。