佐藤正人の“音楽セミナー”第5回 「基礎練習part2」
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スクールバンド指導法 サウンドトレーニング テキストを使用した合奏における基礎練習の実際 | |||
1 はじめに | |||
今日の日本のスクールバンドは、吹奏楽連盟加盟団体1万2千団体を数え、増加の傾向は、今後も進むものと考えられる。その中で、吹奏楽コンクールへの参加率は7割を越え特に、中学校、高校は加盟団体、コンクール参加率のいずれも全体の4分の3以上をしめている。これを見ても、いかに現在の吹奏楽活動、特に学校における吹奏楽活動の中枢的存在として吹奏楽コンクールがあるかがわかる。全日本吹奏楽連盟主催の吹奏楽コンクールは、昭和31年に復活して、今年で45回を数えるが、これまで、多くの課題を抱えつつも、先達の吹奏楽指導者の努力によって今日の隆盛に至っている。全日本吹奏楽連盟の大きな目標であった、吹奏楽の普及と編成の充実と統一、演奏レベルの向上に関しては、現時点では概ね達成されつつあるといえる。
筆者が吹奏楽と関わり、高等学校での経験や現在の多くのバンドを指導する機会を振り返ってみて、部活動の中心的行事であるコンクールでの演奏で感じる問題点は、まず、上手いけれども機械的で無味な(あるいは大味な)演奏に度々出会う、ということである。原因は「審査員の評価=勝つための演奏」にこだわり、歌う感覚が十分育たないうちに、楽器のメカニック的な訓練を受けることや、技術的に高度な曲だけを演奏することから生じる音楽的なフレーズ感の欠如、また、極端な場合他の演奏を受け入れなくなってしまうこと等である。これらは普段から合唱や平易な曲で「歌うこと」の感覚が身に付いていれば高度な曲でも応用できるはずであるのに、コンクールで演奏する曲の完成度を極度に追求しすぎるあまり、正確な技術や音色の美しさだけにとらわれたり、逆にアピールだけを狙って作品に内在する表現の美しさやスタイルを崩す程の拡大誇張されたものになり、感覚に柔軟性を欠いてしまう、コンクールの弊害のひとつと考えられる。活動が楽曲主義やコンクール志向だけに陥らないためにも、もう一度、基本となる奏法やアンサンブルの能力を高め、自然な発達段階に応じたトレーニングの方法と、合理的で効率の良い指導方法を構築するために「合奏における基礎練習」に焦点を絞って本論を展開したいと考える。 | |||
2 合奏における基礎練習のポイント | |||
我々、管楽器奏者の基本となるアンサンブルとソルフェージュ力の向上させるためには次の項目が必要であると考える。まず、@楽器の正しい奏法と知識を身に付けることである。つぎに各個人個人のAイヤー・トレーニングであろう。具体的には、ピッチを聴き分け、ユニゾンやハーモニーにおいて音程感や和声感を修得することである。次にBテンポ感、リズム感、拍子感の育成とC視唱(奏)力の向上が挙げられる。また基本的な奏法とも大きく関わるD呼吸法をマスターしブレスコントロールや音のスピード感、ダイナミクス、様々な音型が自由に表現できるようになることも大切な要素である。また、合奏においてもEアインザッツ、リリース、アタック(発音)のトレーニングを行なうこと、Fフレージング、アーティキュレーションについて理解させ統一することも不可欠である。では、次にこれらをふまえて「合奏における基礎練習」(以下『サウンドトレーニング』も同様の意味)を実践するために、トレーニングのポイントになる項目を挙げる。
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3 合奏における基礎練習の方法(1) | |||
では、実際のトレーニングの方法として、もっとも基本的な「ロングトーン」「バランス」「ハーモニー」の練習を使って、その練習方法と注意すべき点を挙げ、サウンドトレーニングの練習のすすめかたを考えることにする。 「ロングトーン」 B−Durの音階で行なう。一音一音は、8拍のばして間が2拍の休みを取り、ブレスをしっかり取る。 また、次の音をハーモニーティレクター(ヤマハ、以下HDと略) 等の鍵盤楽器でだして音を聴かせると良い。打楽器も加えて練習する。 <注意事項>
「バランス」 ユニゾンでのバランス練習。編成を低音の楽器群、中音域、高音域、木管の高音部と4つのグループに分けて、低音の響きの上に重ねていく方法で練習する。はじめは、バランスをとることよりもユニゾンをあわせる練習から入るほうと効率が良いようである。 方法として、HD等にあわせて歌ったり、金管はマウスピースで音をとってから吹くようにすること。また、姿勢や呼吸を確認するために時々立奏で練習することも大切である。特に「歌う⇔吹く」の繰り返しは大変効果的である。そして、全体から、ピッチのずれによる「うなり」がなくなってから、各グループを低音に重ねてバランスを取る練習に入る。 <注意事項>
「ハーモニー」の練習のすすめ方 @各自がそれぞれの小節で和音の第何音を受け持っているかを確認する(このときドイツ音名による実音読みがバンドに定着していることが望ましい) A主音は(根音)土台なのでユニゾンをあわせ、しっかり吹く。 B第5音は根音を聴いて同等のバランスで吹く。 C第3音は両方を聴いてやわらかく間にとけこむように響かせる。このときHD等純正調のハーモニーが出せる鍵盤楽器でその感覚をつかませると良い。 この場合も「歌う⇔吹く」の繰り返しは大変効果がある。さらに、各和音の役割を確認しお互いに聴き合って練習させるために、分散和音にして、第1音->5音->3音(->7音)の順で重ねて練習すると良い。低音のグループが合ってくると第5音が、1+5音で第3音が聴こえてくる。これぐらい音に集中できるとかなり良い響きとバランスが得られた状態であるといえる。 <注意事項>
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4 市販の合奏メソード・テキスト | |||
テキストを使用した合奏の基礎練習の方法に移る前に、現在スクールバンドで使用されている合奏用のメソードを紹介したい。 近年は海外のバンド教本の邦訳も盛んに行なわれ普及してきたと言える。
他に「ブージーアンドホークスバンド教本」や「ファーストデヴィジョン バンド教本」(上下巻)なども挙げられよう。 本論ではこのなかから
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5 合奏における基礎練習の方法(2) | |||
3Dバンドブックは第2章で述べた合奏の基礎練習の項目を総合的にトレーニングできるように作成されている。主な内容は、導入に『イヤートレーニング』として音程、音階や和音の機能等について各自が学習する部分が各楽器共通に置かれ、続いて『T.チューン・アップとウォームアップ(毎日の練習)』『U.調の練習』『V.リズム』の練習の3つの要素を、機能的・段階的にまとめられた豊富な教材を使ってトレーニングするものである。次にその構成に従って、実際の練習方法を述べたい。 T.チューン・アップとウォームアップ(毎日の練習)(6p) このページは吹奏楽曲で取り上げられることの多い10の長調の主音のユニゾンとカデンツによるハーモニー練習である。各パートにはそれぞれ楽器の特性で高めになる音や低めになる音が示されている。前記の「バランス」と「ハーモニー」の注意事項を応用して以下のように練習すると良い。U.キイ プレパレーション 続いて調の練習である。各調とも(短調も含み)共通の構成なので練習が進めやすい。内容と構成は次の通りである。V.リズム.プレパレーション(30p)〜読譜力の育成も目標にして
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6 サウンドトレーニングが表現力の基礎となるために | |||
次の各項目は表現の手段としての技術について音楽の構成要素である。これらは本論が単なるマニュアル的な実践報告に留まらないためにも、指導者が基礎練習を指導する上でも是非知っておくべきバックボーンであると考える。また、サウンドトレーニングが生きた演奏に直接役立つ基礎になるように、まとめとしてここに述べたい。 ●音符を正確に演奏すること 音(音符、楽譜)を間違わなくなることが、演奏の最終目的ではない。それが音楽の内面的価値に関連したとき、初めて意味を持つのである。音の正確さは、表現の手段として(目的ではなく)教えられ、学ばれ、評価されるべきである。いちばん大切な問題は、音楽的に、何を、どう表すかである。音の正確さは、技術的な問題としてでなく芸術的な問題として、指導のなかで扱われなければならない。 ●音質について 音質も正確さと同様に、手段であって、目的ではない。ところが実際には、音質そのものに何か特別の価値があるように思う人が多い。(サウンドと呼ばれる)ある種のサウンド自体を目的とする演奏は邪道であり、また有害である。しかし、現代のサウンドトレーニングは多様な楽曲に対応できる確立されたシステムであるといえる。これを有効に生徒の音楽的能力の発達のために取り入れることは、非常に有益である。(ソルフェージュ力の向上)つまり、究極のサウンドコントロールは、楽曲の芸術的意図によって行なわれなるべきで、演奏効果だけをねらった「良いサウンド」は「良い演奏」ではないということである。 良いサウンドとは、音楽の芸術的、感情的意図を的確に表現するものである。 ●リズムについて リズムもまた一つの表現として扱われなければならない。リズムは音楽の重要な要素であり、音楽の背骨である。ところがこのリズムの芸術的重要性を知っている指導者は案外少ないといえる。懸命な指揮者ならば、生徒の演奏がうまくいかないとき第一にリズムを調べるだろう。もともとリズムは音楽のなかに脈打つ有機体である。リズムに乗ってこそ音楽は前進するのである。 ●メロディ、ハーモニー、調性について 一般にはメロディ、ハーモニー、調性については、本格的な音楽理論を学ぶことが必要と考えられ、ほとんど注意を払われていない。しかし、生徒は教え方によっては、メロディの起伏、ハーモニーの色彩、調性の変化などによって、作曲家が伝えようとするメッセージがどう表現されているか、と言う点を充分に理解し、楽しむことができるのである。 ●音の強弱、テンポの急緩について これらは一般に表現手段とみなされているが、実は二次的なものである。楽譜に音の強弱や速度が指定されているのは、曲の表現意図を明瞭にするためであり、曲の節目や強調点をはっきりさせるためである。問題は、テンポの変化や強弱が音楽の意味を明らかにするか、しないかと言う点にある。 ●教材について(選曲について) 教材として選ぶ曲は、生徒の現在の能力で楽しめるものでなければならないことは言うまでもない。自分が演奏したり、聴いたりする音楽が楽しめなければ、反応を呼び起こさないし、必然的に音楽の識別力も発達しない。しかし、不可能な要求は慎むべきであるが、といって生徒が受け入れ楽しむ音楽の水準をむやみに低くすることは間違っている。また初めて経験する音楽を必ずしも即座に好きになる必要はない。未知の美しさや魅力を次第に発見する経験は極めて有益である。(『音楽的成長のための教育』(G.マーセル)より引用) ●音楽コンクールにおける教育的意義
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