佐藤正人の“音楽セミナー”


第2回 「アンサンブル指導法」

1 アンサンブル指導のための準備
2 アンサンブルの練習方法
3 木管アンサンブルの指導
4 金管アンサンブルのテクニック
5 セッティングについて

1 アンサンブル指導のための準備
 アンサンブルの指導や練習の前には、いくつか準備が必要です。

 先ず、スコアリーディングから始めます。 例えばバロック音楽のソナタのような作品は、オリジナルに近い楽譜が一般的で、 レガート、アーティキュレーション、ディナーミク等が記されていません。 このため指導する前に、バロック演奏解釈にもとずいて、楽譜を校訂しなければなりません。 このように、バロック音楽に限らず、作曲家の時代様式と、作風や楽曲の様式、 楽曲の形式や構成を把握するための分析が大切なポイントになります。 (楽典的なことから形式まで、すべて把握することが指導者の役割です) その準備に従って練習(小節)番号に沿って、バランスのチェック、ブレスなどの問題等を スコアにメモします。それが指導のカリキュラムになり、指導計画が明確になります。

 全体の練習は、指揮者がやるべきすべてのことをメンバーに託すことになります。 とくに1stパートの首席奏者は指揮者同様に曲のスタート、曲の節目、テンポの変化や フェルマータの際には、目や上半身の動き、ブレスで合図を送らねばなりません。 そのためには、必要な事柄全てをスコアとパート譜に記入しなければなりません。 形式上、構成上、必要部分をチェックして指導にあたることは効果的、合理的に指導できます。
2 アンサンブルの練習方法
 練習方法を指導するにあたって押さえておきたいアンサンブルの基本は、 ピッチ、音程、和音、リズム、アーティキレイションの統一、フレーズ感、音量のバランスや強弱等にあると言えます。 これらのクォリティを高める練習方法として、リレー練習をお薦めします。 (その音を、メンバーが次々に吹いて受け渡していく方法)

 音程を合わせるときは、その音を聴きあって合わせます。 同様にリズム、アーティキュレーション、音型にいたるまで何度でも練習すると、吹き方やイントネーションが揃っていきます。 曲には必ずと言っていいほど、各パートに同じテーマが出てくるので、これらのモティーフの吹き方を揃えることも大切です。 同じテーマを受け継いだ時、音型、音程を揃えることもこの練習が効果的です。

 交互奏練習も同様の目的で練習しますが、異なる点は相手が一人でマンツーマンで交互にフレーズを受け渡しする点です。 このとき上半身で各プレイヤーにアインザッツ(合図)を送ることがポイントになります。 リレー奏は、方向を持って引き継ぐテーマの練習に、交互奏は、 送った相手からすぐ自分に返答する対話、応答の練習に活用します。

 以上の二つのトレーニング方法で大半の曲は練習できます。

 ハーモニーは次のような方法で練習します。和音は3声か4声で積み重なるのが一般的です。 これらをスコアを参考に、基本形(三度)和音にします。先ず、根音とユニゾン、オクターブの音を合わせます。 次に完全5度上の音を合わせます。そこで美しい響きが得られたのであれば、3度の音を合わせてみます。 長3和音の場合は3度の音程はやや低めに、短3和音の場合はやや高めにするのが一般的に美しい響きとされています。 音量バランスは、基礎になる根音はしっかり安定され、完全5度は、やや控えめに、3度は柔らかくするのがよいでしょう。 和音の配置により変わりますが、以上が一般的な和音の音程とバランスを取る方法です。
3 木管アンサンブルの指導
(1) イントネーション
管楽器のは歌と同じで、調弦や調律が存在しません。 管楽器の指使いはピアノの鍵盤と異なって、あるピッチに対する大まかな範囲しかもっていません。 まさに「作音楽器」なのです。ソルフェージュ力を付けるために、声で自分のパートを歌う練習は、大変効果的です。

(2) ブレンド
音色を溶け合わせる技術、あるいは感性と呼んでよいこのテクニックは、管楽アンサンブルでは特に要求されます。 音色をやわらく、豊かなものにする秘密は、音の出し方の基本にあります。 専門家の正しい指導が初期の段階で与えられることは本当に大切なことです。

(3) フレージングとリズム
美しい音もそこに個人の意思がこめられ、進む方向を与えられなければ「音楽」とは言えません。 この音を音楽する行動をフレージングと呼びます。 紙の上に完全に書 き止めることは不可能であり、そこに演奏家の想像能力や創造力を要求される 「音を使う楽しみ」の世界が存在するのです。 フレージングのもう一つの大切な要素であるリズムも同じことで、数を数えることと、 リズムに乗ることの違いを示さなくてはならないのです。
4 金管アンサンブルのテクニック
(1) 音を合わせよう
メンバーが揃ったらみんなで音を合わせましょう。 まずピッチを決め、テューナーがあれば、B♭の音を確認しながら声を出して歌ってみましょう。 次に、マウスピー スで音を出して正しいピッチがつくれたら、楽器で吹いてみます。 そして高い場合にはテューニングスライド管(主管)を抜き、低い場合に入れてください。 各自が調整できたらチューバから順に音を重ねてみましょう。
(Tu.→Tb.→Hr.→T p.)

(2)正しいイントネーションで演奏しよう。
だれが演奏しても正しい音程が得られる楽器というのはありません。 音程は各奏者がつくるものです。 耳の訓練をし、音程がとれるようになってきたら、皆で譜面を歌ってみたり、 マウスピースで吹いたりしてみましょう。

(3)アインザッツを揃えよう
アンサンブルの指揮者は各奏者一人一人です。 みんなが「ジャン、ケン、ポン」の要領でタイミングを揃え、音の出を揃えましょう。 そのときに、小さくベルを動かして合図を出すと合わせやすいと思います。
(大げさな動きではやらないように)
5 セッティングについて
セッティングは編成で異なりますが、客席からステージに向かって見て、左手側から、 1stまたは高音楽器が配置され、同属楽器のアンサンブルであれば、2nd, 3rd,4th…とつづき、 混成アンサンブルであれば、向かい側(右手側)に2n d(次に音域の高い楽器) 中央奥に音域の低い楽器がくるようにセッティングされることが多いです。 詳しいセッティングについては、各編成の項目に図で記しますので参考にして下さい。

また、音楽ホールなど、反響板の設備が整っている会場で演奏するときは、 反響板の内側(ステージの反響板より)で演奏。 ホールで前に出すぎると、音が散漫に聴こえ、演奏がまとまりません。 反響板を十分に生かしてセッティングしましょう。

譜面台は、高すぎないように気をつけて(お互いのコミュニケーショ ンが取れるように) ベルも譜面台に隠れないようにしましょう。

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