こうして嘘つきになりたい僕は、日常生活でも嘘をつき始めた。

まるで子供が空想の中で王子様になるように、

詞の中の登場人物になりきって行動するのだ。



もともと僕は、女性らしい顔つきをしていて、それがコンプレックスだった。

嘘つきの僕は、それを逆手にとってやろうと考えた。



女になってやるのだ。



姉の化粧品を拝借し、派手なメイクをすると、驚くほど姉にそっくりになった。

体の線が出るようなセクシーな服を着ると、まったく女にしか見えない。



そして街に出て、私はとびっきりの美女よ、という気分でいると

自然と見えるものが違ってくる。気がつくと鏡やガラスなど自分が映るものを探している。

そしてそれを見ては、自分にうっとりするのだ。



趣味も変わる。普段の僕なら、CDショップなんかを回るのが好きだ。

でも嘘つきの僕は、そんなモノには見向きもせず、高級ブティックやジュエリーショップ、

アンティークなどを物色する。ここで気前良く衝動買いまでできれば、

嘘つきもホンモノなのだが、そこには本当の自分がブレーキをかける。

嘘の世界で、本物のお金を使ってしまうのはルール違反だからね。



態度も女らしく、優雅になっている。大口を開けて笑ったりなんて絶対しない。

唇の端を少し上げてちょっと微笑むだけで、100万人だって魅了できる自信が出てくる。

なりきりが上手くいくと、声をかけてくる男が少なからずいる。

まさかオトコだとは思っていないだろう。ここまでだませると快感だ。

もちろん、その誘いには乗らない。せっかく声をかけられたんだから、話でもして、

ネタにすればいいのに、と思うこともあるが、嘘の世界の僕が現実の人間と

触れ合うことは許されない。もし、何かの間違いが起こってしまったりしたら

嘘の世界が崩壊してしまうからだ。ていうか、そんなこと起こしたくない。

言い寄ってくる男を、軽くあしらう、この方がずっとかっこいい。