作詞家はうそつきの始まり novels by 笹木 一弥



ある夜、ベッドの中で、いきなり歌詞がひらめいた。

たまらず近くにあった紙にメモしておいた。

思えばこれがすべての始まり、その日から僕は作詞家を目指した。



中学生の頃から、詩を書くのが好きだった。

本棚には開くのも恥ずかしかった鉛筆書きの詩集ノートが何冊もあって、

死ぬ前に処分しておかなければ、と常々思っていたものだったのだが、

この夜からそれらは僕の大切な資料集となった。

これがあれば、15歳の僕の気持ちにいつでも戻ることができるからだ。



歌詞は9割方が嘘だ。本当のことを書いたら全然つまらない。

今夜のおかずの歌なんて、あんまり聴きたいと思う人はいないだろう。

それよりも燃えるような恋の歌をその主人公になったつもりで聴きたいのだ。

だから作詞家になりたい僕は、筋金入りの嘘つきにならなければいけない。



これが案外苦しいことだった。





小さい頃から「嘘をついてはいけません」と教えられてきた僕にとって、

堂々と隙のない嘘をつかなければいけない「作詞」という作業は結構難しい。

しかしその難しいことが楽しいのだ。少女にも超美男子にもなれるし、

純愛も不倫もやりたい放題だ。それをいかに他人に伝えるか、僕の嘘にだまされる奴を、

何人作れるかが作詞家としての勝負どころなんだ、とわかってきた。



今はインターネットというとても便利なツールがある。別にプロにならなくても

発表の場がいくらでも手に入る。探せば同好の士はたくさんいるもので、

僕の嘘を評価してくれる奴は多い。狙い通りにだまされていてくれると

それは至上の喜びだ。しかし鋭い奴はいて、嘘の隙間を確実に攻撃され、

へこむこともしばしばある。

そういう輩を、今度はどんな嘘でだましてやろうかと考えていると、

自分がとんでもない悪人のように思えてくる。しかしそこにはまっている僕は、

もともとそういう素質があったのだろうか。