次に洋。彼は真面目な男だ。恋愛に関して、遊びの恋なんて物は絶対に許されない行為だと 熱く語っていた覚えがある。僕が思うに、議論は好きでも行動にはなかなか移さない タイプだろう。ある意味堅物な洋に、あんな不埒なことは出来そうにない。 ケンヤ。軽い性格からして、いたずらをしたとすれば一番可能性はある。 しかし、今日僕はケンヤから恋の相談を持ち掛けられている。どうやら奏菜が好きらしい。 この中では一番奏菜と親しくしている僕に奏菜の性格とか、好みとかを細かに聞いてきた。 その真剣さに僕は知っている限りのことを答えてやった。そのケンヤが奏菜のいる場所で 僕にキスするなんていたずらをするとは思えない。 最後に奏菜。僕と同時期にL.O.Mに参加したこともあって、一番親しくしているメンバーだ。 音楽の好みも似ていて、気が合うことは認める。でも、奏菜はオフ会に出てくることが びっくりするほどに、引込み思案な女の子だ。僕がいるから安心して来ることが出来る、と 言っているが、きっと本心だろう。そんな彼女が暗闇でキスをしてくるなんて、 ちょっと考えられない。それに彼女は今まで誰とも付き合ったことがない、と言っていた。 恋愛に対して相当の奥手な彼女がファーストキスを不意打ちで、なんて無理だ。 理詰めで考えたところで、答えはちっとも出てこなかった。4人のうち誰からも、 キスされる覚えなんてなかった。誰が、どうしてあんな事…。僕の頭の中には その言葉ばかり巡っていた。 あっという間に時間は過ぎ、カラオケはお開きになった。来月また会おう、と 約束を交わして5人はそれぞれの方向へ別れていった。 僕は、家へと向かう電車の中でも、ずっと考えていた。あの、キスの感触。 暗闇での不意打ち、という状況にも関わらず、あの唇は優しかった。 いたずらでのキス、というよりも想い人へのキスに近かった。 そんな想いを僕に抱いている人間が、あそこにいたのだろうか。 わからない。 悶々とした想いを抱えながら僕は家に着いた。 パソコンをチェックすると、メールが1件、届いていた。 |