僕はさっきのショックで、しばし呆然としていた。しかし次第に意識がハッキリしてくると、

僕にキスをしたやつに対して、だんだんと怒りが込み上げてきた。

あんな状況で、無防備な相手を襲うなんて、卑怯すぎる。

僕は絶対犯人を突き止めてやろうと心に決めた。



まずはひとりひとり、態度や表情を観察した。Dは相変わらず熱心に歌本をめくり、

次々に曲をメモリーしている。僕と目が合っても、

「お前もなんか歌うか?」

と能天気な答えだ。

洋はケンヤと奏菜を相手に持論を熱心に展開していた。目が合うと僕が熱心に

聞いているとでも思ったのか嬉しそうな表情を見せた。

ケンヤは止まらない洋の演説に飽きてきたらしく、歌本を見るふりをしながら

あくびをしていた。僕が見つめているのに気付くと、口パクで、

「洋さん、今日も飛ばしてますよね。」

と言ってきた。自分の曲がかかると、画面にのめり込み、こちらを見向きもしなくなった。

奏菜は洋の話を熱心に聞いているようだった。僕と目が合うと、恥ずかしそうに

目をそらしたが、奏菜はいつもこんな態度なので僕を特別意識しているのか

どうかはわからなかった。



結局皆の態度はいつもと変わりなく、誰が僕にキスをしたのか窺い知ることは出来なかった。

僕は理詰めで考えてみることにした。

まずはD。ミュージシャンを自称しているのは女にもてるためじゃないか、と思うほど

Dはどうやらお盛んのようだ。今日の飲み会でも、自分の泣かせた女の話を次々としていた。

女に苦労してないDが、わざわざこんな所で僕なんかに手を出してくるだろうか。

第一、Dは人前でのキスなんか平気な男だ。前回奏菜に無理矢理キスをしようとして

泣かせてしまったこともあった。

性格からいって、暗闇で不意打ち、なんてことはまず考えにくい。