ひととおり飲み食いを終えると、二次会は恒例のカラオケだ。音楽好きがイコール 歌好きとは限らないが、このメンバーに限っては素直に答えを出してもいいようだ。 ボックスに入るやいなや、歌本を取り合い、カラオケ機のメモリーはたちまち いっぱいになった。こんな時、一番張り切るのはDで、自分の曲だけでなく、 他の人間のための曲まで勝手にメモリーし、強制的に歌わせる。洋はバラード系、 ケンヤはロック、奏菜は流行のポップスを卒なくこなす。僕はといえば、無難な曲の中に 少しマニアックな選曲をしたりするのが受けて、他のメンバーの楽しみになっているようだ。 歌いはじめて1時間ほど経っていただろうか。突然、カラオケボックスが闇に包まれた。 どうやらフロア全体が停電したらしく、ボックスの外も真っ暗だった。奏菜は悲鳴を上げ、 ケンヤは更に大きな声を上げていた。そして全員が席を立ち、出口ドアに殺到してきた。 出口に一番近い場所に座っていた僕は皆に言った。 「危ないから座ってろよ!ただの停電だって!焦る事ない…」 そこまで叫んだ時、僕は予想もしなかった感覚に襲われた。誰かが僕の唇をふさいだのだ。 暗闇の中、何も見えなかったが、唇をふさぐものが相手の唇であることはわかった。 何だ?何が起こってるんだ?僕はパニックに陥った。誰がこんな事をしているのか 確かめようと相手の体に手を伸ばした時、相手は素早く唇を離し、僕の手の届かない 場所まで逃げてしまった。その瞬間、部屋が明るくなった。 僕以外の4人は、ドアの前に固まって立っていた。僕からの距離は4人ともほぼ同じ。 位置関係だけでは誰がやったのかはまったくわからなかった。皆明るくなって ほっとしたような表情で、もといた席に戻り、カラオケを再開した。ボックスの店員が 停電を謝罪に訪れ、30分部屋代をサービスする、との言葉に更に盛り上がりを見せていた。 |