私の生活にちょっとした変化が訪れたのは、そんな生活が1ヶ月も続いた

ある日のことだった。私はいつも、後ろから2番目の車両に乗っている。

本当は前の方の車両が降車駅の出口に近くて便利なのだが、前の方の車両には

県立高校の生徒もたくさん乗っているのだ。自分が着られなかった制服の集団の中に

身を置くなんて、私には出来ない。だから、県立高校の生徒がほとんど乗らない、

後ろの車両に身を潜めるように乗っていたのだ。



ある日、その車両に県立高校の制服を着た男の子が一人乗ってきた。彼は明らかに

ラッシュ慣れしておらず、電車が揺れるたびに押されて苦しそうな顔をしていた。

その制服を見るのも嫌だと思っていた私は、彼の方を見ないように、見ないようにと

思っていたけれど、彼が押されてうめき声をあげるのが気になって、ちらちらと

見てしまっていた。秀才で通っている県立高校の生徒が、こんなラッシュで

右往左往している姿がなんとなくおかしなものに思えたのだ。



私はいつのまにか本の内容を忘れて、彼の動きを見ては、笑いを押し殺していた。

そのうち彼は、次第に周りに押され、少しずつ私がいる奥の方のスペースへと

移動してきて、ついに私の真後ろに来た。私は慌てて本に熱中しているフリをした。



ドアの前よりは少し余裕のあるスペースに、彼は少しほっとしたらしく、

大きく息をついていた。私は背中に彼を気にしながら、やたらにページをめくっていた。

本の内容なんて、ちっとも目に入っていなかった。ただ、さっき見た彼の姿がおかしくて、

吹き出しそうになるのを我慢するのに必死だった。



彼は、県立高校のある次の駅で降りていった。一番奥まで入り込んでしまったせいで、

降りるのにも相当の苦労をしていた。ドアが閉まると、私はおかしくておかしくて、

本を閉じて小声で笑った。笑うなんて、久しぶりだった。彼にもう一度会いたい、

そんな前向きな気持ちが、私の中に芽生えた。