通学風景 -彼女の場合- novels by 笹木 一弥



「行ってきます」

お世辞にも元気とは言えないトーンで挨拶をして、私はいつもの時間に家を出た。

佐藤由真、この春から隣町の女子校に通うことになったぴかぴかの高校一年生だ。

なのにどうしてこんなに元気がないかと言えば、それは私が受験に失敗したからだ。



私は電車で二駅の距離にある共学の県立高校へ行く予定だった。担任の先生にも、

「佐藤は絶対合格間違いないぞ!」

と太鼓判を押されていた。その余裕があだとなったのか、私は受験当日、39℃の熱を出し、

ふらふらになりながら何とか試験会場へ行ったが、そんな状態ではテストなんて

出来るはずもなく、滑り止めとして受けた家から7駅も離れている女子校へ通うことに

なってしまった。ショックから立ち直れない私に、両親や担任の先生は

「どうしても、というなら編入、という手もあるんだ。

これで人生終わったわけじゃない、元気を出せ!」

と励ましてくれたけれど、私は余裕のあまり、大事な日に熱を出してしまった自分が

許せなかった。女子校に通うようになったのは、そんな傲慢な自分への罰なんだ、と

考えていた。そうして私は、心を閉ざしていった。



もともと読書が好きだった私は、この一件以来、ますます本にのめり込むようになった。

通学の電車の中でも、授業中でも、休み時間でも、とにかく本を読んでいた。

もともと女子校で友達を作るつもりのなかった私だったが、そんな態度で寄りつく人の

いるわけもなく、私はいつも1人だった。



本の世界では、私は自由だった。そこには受験に失敗して卑屈になっている私の陰はなく、

物語の中で、自由に笑い、喜び、恋をする私がいた。



私は空想の世界にどっぷりと浸かり続けていた。