どのくらいそうしていたのか、ほんの数秒のことだったのか、何分も経ったのか

わからない。美弥が小さな声で

「離して・・」

と言ったのをきっかけに、僕は現実に帰った。慌てて体を離すと、僕達の間には

なんとなく気まずい空気が流れた。セミの声が一段とうるさく聞こえた。

 口火を切ったのはやはり美弥だった。

「友朗・・ってさ、好きな子とかいるの?」

「いや、いないけど・・。」

「本当に?」

「美弥に隠し事できるわけないだろ。」

「そう、だよね。じゃあ・・・」

「じゃあ?」

「私のこと、どう思ってる?」

「えっ?」

「こっち向いて、ちゃんと答えて。」

僕はうつむいていた顔を、美弥に向けた。美弥はまっすぐ僕を見ていた。そのまなざしに

僕は正直にならずにいられなかった。

「好き、だよ・・・。」

美弥はゆっくり微笑んで言った。

「好きな子いない、って言ったくせに。」

「それは・・。」

「フフ、ごめんごめん。」

「なんだよ、からかってんのかよ。美弥は、どうなんだよ。」

「・・・」

「答えろよ。」

「・・好き・・」

「美弥・・」

僕は、美弥の肩にそっと手をまわした。今度は美弥も自分から体を寄せてきた。

風が吹いて、カーテンが大きく揺れた。その風の中、僕達はキスした。

 唇が離れたあと、僕達はなんとなく照れくさくて笑った。ひとしきり笑いが

おさまると、僕達はもう一度、唇を寄せた。



 それから僕達は、お互いの部屋を訪れてはキスを交わすようになった。

それなりの年齢だったから、その先の関係に興味がないわけではなかった。

でも僕達はそれをしなかった。そうしてしまうことが、美弥を傷つけて

しまうような気がして、できなかったのだ。僕達はキスだけの関係を続けていた。