2.Swinging Curtain



 美弥と僕の間には、ほんのわずかではあったけれど、恋人と呼べる時期があった。

周囲の誰も、そのことには気づいていなかっただろうが、僕達は確かに恋をしていた。



 僕と美弥は、きょうだいのように育ったので、お互いの部屋を平気で行き来していた。

親さえ知らないことでも、部屋の隅々を熟知している相手に隠すことはできなかった。

少なくとも僕は、美弥に隠し事をするつもりはなかった。隠しているとすれば、たった

ひとつ、僕の美弥への想いくらいだった。あの『事』が起こるまで、僕はその想いを美弥に

伝える気はなかった。少なくとも、美弥には気付かれていない、と思っていた。美弥は

気づかないふりをしていてくれたのかもしれない。とにかく、その『事』は唐突にやってきた。



 高2の夏休みだった。新学期まであと数日といったところで、僕は夏休みの課題にいやいや

取り組んでいた。天気は曇り空で、それほど気温も上がっていなかったので、僕は冷房を

使わず、窓を開けていた。そうして机に向かっているのにそろそろ飽きた、という頃、

美弥がやってきた。

「まじめにやってる?毎年最後になって慌てるんだから、学習してないよね。」

「うるさいなあ。短期集中型なんだよ。邪魔するつもりなら帰れよ。」

「ごめんごめん。そういうつもりじゃないよ。おばさんに様子見てきて、って頼まれたから。」

そういって美弥は麦茶と菓子の乗ったトレイを掲げて見せた。

「ちょっと休憩しなさいよ。」

「そうだな。」

言われなくても自主的に休憩するつもりだった僕は、なんのためらいもなく机を離れ、

ベッドに腰かけた。美弥はトレイを床に置くと、僕の隣に座った。

「美弥は当然、課題終わってるんだろ?」

「当たり前じゃない。私は毎年計画的に進めるもん。」

「だけどさ、自分だけ先に終わっても、大部分のやつがこうして夏休みの最後にまとめて

やるんだから、遊ぶ相手がいなくて結局意味ないんじゃないか?」

「そうよ。だからこうして友朗を邪魔しに来てるんじゃない。」

「あっ、ひでえ。やっぱり邪魔するつもりだったんじゃないか。」

「あら、そういうこと言うの?せっかく手伝ってあげようかと思ったのに。帰ろうっと。」

と言って立ちあがりかけた美弥の腕をとっさに掴んで

「ああ、待って待って!僕が悪かったです。美弥様!」

「わかればいいのよ。わかれば。」

「まあまあ、お座り下さい。」

僕は美弥の腕を引いてもとの場所に座らせようとした。ところが美弥はバランスを崩して、

僕の上に倒れかかってきた。

「危ない!」

僕は美弥を抱きとめた。腕の中に、美弥を。

 ドキドキしていた。そとでうるさく鳴いているセミの声も、風の音も、全て止まって

心臓の鼓動だけが聞こえていた。美弥は逃げるでもなく、身を任せるでもなく、

ただじっとしていた。