星々の輪廻
むかしむかし、時は流れて遥か彼方。宇宙の何処かの何時かのお話。
その銀河系には3つの星がありました。
一つは水の星。
一つは風の星。
もう一つは時の星。
それぞれの星で生命は、互いを知ることなく暮らしていました。
そうして長い長い時が流れ、水の星と風の星の文明は発達し、彼らはほとんど同時に知ったのです。
自分たちの住んでいる「ここ」以外に存在している星があると。
2つの星は、時の星の地表に大きな時計を見つけました。
そして思いました。「あの時計こそ我々が探していたものに違いない」と。
2つの星には奇妙なことに同じ伝説がありました。
曰く、この宇宙のどこかに、時を操る時計があると。
彼らには時を戻さなければいけない理由がありました。
発達しすぎた技術は星中の資源を食いつぶし、残るエネルギーはあとわずかとなっていました。
だから伝説の時計を手に入れて、過去の世界から資源を持ってこようと思ったのです。
2つの星は時の星を目指しました。
そして宇宙で出会いました。同じものを求める違う星の生命に。
時計は一つ。欲する星は2つ。
「時計を手に入れるのは我らだ」と、そう決断した2つの星は争いました。
互いの全てを賭けて争いました。
一方時の星の地表では。
大きな時計のその隣で、一人の少女が歌を口ずさんでいました。
ある時、少女は見たのです。宙で光り、散っていく生命を。
少女は大人たちにそれを伝えました。しかし大人は言いました。
「我々にできることなど何もない。ただ終末を見届けるしかないのだ」と。
少女は時計の隣で、毎日空を見上げて歌いました。
いつしか沢山の生命が散っていく光景に、耐えられなくなった少女は、
踵を返し、遠い遠い忘れ去られた格納庫へと走ります。
途中で何度も止まりそうになりながら。真っ暗になりかける視界を何度も起動させながら。
少女は錆びついた手のひらで鈍色に光る宇宙船の操縦桿を握りました。
2つの星の戦いは激しさを増し、もう資源は枯渇寸前です。
残るは互いの船だけ。
そうなった2つの星の宇宙船は、身を挺して勝利を勝ち取ろうと、敵の船につっこんでいきます。
衝突しようとしたその時。
時の星の方角から、小さな宇宙船が割り込んできました。
衝突は止まらず。それでも小さな宇宙船のおかげで2つの大きな宇宙船の正面衝突は避けられたのです。
粉々になった小さな宇宙船の中から、ばらばらになった機械人形の部品が無重力に漂います。
かつて少女だった機械人形は、最後の力を振り絞って歌をうたいました。
世界の仕組みを綴った歌を。
この銀河系は3つの星があるから成り立っていました。
時の星には機械人形が住んでいます。
かつてそれを作った生命は、いつの頃からか別の星に移住していきました。
時の星には無い、水や風を求めて。
彼らは辿り着いた2つの星で発達した技術を捨て、水や風と共に生きることを選びました。
しかし時の星――かつての彼らの故郷に残した機械人形のことを忘れることを望みませんでした。
だから彼らは故郷を離れる前に、とある仕組みを作りました。
彼らの最高の発明品である、時を操る時計を機械人形に託し、
時計と機械人形のエネルギーを2つの星から供給する仕組みです。
時計の姿は水と風、2つの星の姿だったのです。星が止まるとき、時計の歯車は止まります。
その仕組みだけを銀河系に残し、彼らは技術を手放し、自然と共に暮らし始めました。
このことを知っているのは、今や機械人形だけ。
かつて刻まれた記憶は色あせることなく、その鋼鉄の身体に宿っていました。
少女の身体に封じられた記憶は、再び2つの星の生命の記憶となり、彼らに気づかせました。
水こそが、風こそが、尊い資源であったのだと。
残った宇宙船の部品と丁寧に広い集めた少女の部品で
水の星に帰った生命は水車を作り、風の星に帰った生命は風車を作り。
時の星の歯車はかつてなかったほど勢いを増し。
3つの車はくるくると回ります。
みるみる繁栄していく星を見渡して、皆は歌いました。
少女が遺したあの歌を。
もう二度と、忘れてしまわぬように。
(fin)