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Tokyo, 2007. 11. 26
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Kazumi Someya
translation by Satomi Kataoka

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現在シーンで最もヘヴィな音を出すバンドを取り揃えた個性派レーベル=Relapseから作品をリリースしながら、もろにタンジェリン・ドリームやゴブリンなどのユーロ・プログレから影響を受けたアナログ・シーケンサー感覚が満載のサウンドで一部の好事家に注目を浴びた2人組。バンド名も含め、かなりのオタクっぽさを感じさせるが、こういうパターンの人達は今までUSインディー・シーンに皆無だっただけに、オリジナリティうんぬんを超えて妙にそそられるものを感じてしまう。爆音イベントとして知られるエクストリーム・ザ・ドージョーへ出演するため(※対バンはイェスー)来日した際、その正体を確かめるべく、インタビューさせてもらいました。

「いつの日か、他の人々をインスパイアするような存在になりたい――これまで他のバンドが僕をインスパイアしてくれたようにね」

まず、あなたがたの音楽に影響を与えている2大要素として、ヨーロッパのプログレッシヴ・ロックとホラー映画があげられると思うんですが、どっちを先に好きになったんですか?

Steve:はっきりさせておきたいんだけど、僕らが影響を受けたのは、ヨーロッパのプログレッシヴ・ロックと、ホラー映画の「音楽」なんだ(笑)。

ホラー映画自体は、好きではないとでも?(笑)

Steve:いや、もちろん好きだけど、若い女性が惨殺されるシーンを観て音楽作りのインスピレーションを得ているとは、自分でもあまり思わないよ(笑)!

そりゃそうでしょうけど(笑)。

Steve:でも、うん、その2つっていうのはかなり当たってると思う。

A.E.:確かに。

でしょ?(笑)

A.E.:まあ、ヨーロッパのプログレに限らず、エレクトロニック・ミュージックからの影響も大きいと思うんだ――クラフトワークとか、あとスティーヴの場合はジャン・ミッシェル・ジャールとか、とにかく「ロック」にとどまらず色んな音楽から影響を受けてきたんだよ。で、どっちの影響を先に受けたかだけど、僕の場合はたぶん、ヨーロッパのプログレッシヴ・ロックが最初で、その後それと同じようなジャンルの音楽を使った映画へとハマっていったんだ。普通のいわゆるスコアよりも一歩進んだ音楽――単なる映画の背景音じゃなく、それ自体で立派な作品として成り立ってる音楽――を使った映画にね。

じゃあ、好きなヨーロッパのプログレ・バンドを聴き漁ってたら、そういうアーティストがホラー映画のサントラも作っていて、そこで興味を持って、そういう映画を観るようになったという感じですね。

Steve:たぶん、同時進行に近かったんじゃないかな。たとえば僕なんかも、タンジェリン・ドリームとか昔のベルリン派のエレクトロニック・ミュージックを発掘しながら、同時にゴブリンとかファビオ・フリッツィの映画音楽を結構聴いてたし。確かに、音楽の構成は似てるよね。ゴブリンの映画音楽なんて、それだけでプログレッシヴ・ロック・アルバムとしてじゅうぶん成立し得るものだった。ジョン・カーペンター映画のスコアにしてもそうで、ドイツのエレクトロニック・ミュージックからの影響がすごく感じられるしさ。ただ、プログ・ロック・バンドやエレクトロニック・ミュージシャンの中には、何ていうか……“野暮ったさ”を感じさせるものもたまにあるよね。ちょっと陽気で明るすぎるっていうか。でもホラー映画のスコアはあくまでもダークでヘヴィで、そういった部分で僕たちはすごく影響を受けたんだ――すごくダークでヘヴィであっても同時に面白い音楽になり得る、という部分でね。

現在のアメリカの音楽シーンを見ても、こういうことをやっている人って他にいないし、ほとんど唯一と言ってもいいくらいユニークな存在だと思うんですけど、あなたたちの周りには、こういう音楽を愛好する人々の集団が存在したんでしょうか? それともずっと孤立して自分達だけでこういう音楽をやってきたんでしょうか?

A.E.:んー、どうかな。個人的に知ってる人達の大半は、同じようなタイプの音楽が好きだったと思うけど、もしかしたら……ん……いや、難しいな。

Steve:ツアーをやるようになって他のバンドと一緒にプレイするようになってから、似たタイプの音楽が好きな連中と大勢出会った気がする。たとえば、以前シアトルでライヴをやった時、マストドンが来てくれてね。ちょうど彼らがシアトルでニュー・アルバムをレコーディングしていて、僕らのライヴを観に来たんだ。今でもよく覚えてるけど、ライヴの後に連中と40〜45分間ジェネシスの話で盛り上がったよ。なんとマストドンも、ジェネシスの大ファンだったわけ。確かに彼らの音楽をよーく聴いてみると、その影響がわずかに見られるような気もするだろ。でも所詮その程度だよね。僕達と同じような音楽から影響を受けている連中って、どうも何というか……

A.E.:……意気地なし?

Steve:そう、好きなアーティストにインスパイアされた音楽を作る勇気がないんじゃないかって気がするわけ……ま、あくまで僕の個人的意見だけど。同じような音楽から影響を受けてても、その影響が希釈されて全く違った方向に表れる連中がいるんだよ――メタルな方向とかにね。僕たちの場合は、それがもっとピュアな“濃い”形で表れてるんじゃないかな(笑)。

A.E.:あ、でもマストドンがそうだって言ってるんじゃないよ。

Steve:ああ、彼らは全然、意気地なしなんかじゃないよ。

わかってますよ(笑)。ではここで、あなたがたが使っている機材の話をしたいんですが、やっぱり、まず最初にヴィンテージのアナログ・シンセサイザーを手に入れようとしたんでしょうか? 実際に今ではたくさん持っていて使っているんですよね?

Steve:ああ、もちろん。ただ今回は残念ながら、ほとんど持って来れなかったんだ。昨日使ったモーグもレンタルだったしね。アメリカではいつも、アナログ・シンセサイザーを一式持って回ってるんだけど、日本に持ってくるにはいろいろ手続きが面倒だし、手荷物として預けるのがイヤで持ってこれなかったんだ。でもそう、今も僕らのサウンドの大半はアナログ・シンセで作ってるよ。

A.E.:スティーヴが最初のシンセサイザーを買ったときから、このバンドは本当の意味でスタートしたんだ。ふたりとも「そう、こういうのが欲しかったんだよね」って思えるようなサウンドを、シンセのおかげで遂に出すことができたんだよ。以来ずっと、僕たちのサウンドの大きな部分を占めてきた、と言っていいと思う。

ちなみに何台ほど持ってるんですか?

Steve:予備も含めると5台だね。

A.E.:僕は2台だよ……前は3台持ってたんだけど、そのうち2台は同じ機種だったから、片方売ってしまったんだ。

Steve:実際、何台あるのか分かんなくなっちゃってるところもある。手元を離れたり戻って来たりを繰り返してるのもあるから(笑)。

メインで使っているのは?

Steve:ここ数枚のアルバムだと、僕が曲作りで主に使ってきたのはコルグのポリ6と、あと、シーケンシャル・サーキットのプロフェット600だね。

ゾンビの音楽の中心には、アナログ・シーケンサーの存在というのがポイントとしてあると思うんですが、今ではシーケンサーもコンピューター上で簡単にできるのに、わざわざアナログを使うその醍醐味というのは、どの辺にあるんでしょう?

Steve:かつての僕たちには……。

A.E.:……ソフトウェア全体に対する嫌悪感っていうのが、すごくあったんだ。

Steve:このプロジェクトを始める前には、いわゆるDIY系のポスト・パンク・バンドをやってたんだけど、当初はアナログ・シンセサイザーに固執して、完全に最新テクノロジーを遠ざけてたんだ(笑)。でもここ数年間でソフトウェア技術が格段に進歩したし、実際に次のアルバムでは、ソフトウェア・シンセサイザーが登場する場面も絶対に出てくると思うよ。ただアナログ・シンセのいいところは、すべてが目の前に揃ってることなんだよね。ツマミから何から全部が目の前にあるから、どんな音色もその場ですぐ調整できるし、とにかくすぐ……そう、たちどころに、アッという間に、作業できるのがいいんだ。

A.E.:そういう意味では、ライヴでラップトップ・コンピューターを使うようになったのは、僕らにとってすごく大きな一歩だったね。やるべきかやらざるべきかずいぶん悩んだけど、ものすごく道理にかなったことだし、僕らのショウは、今やコンピューターなしじゃ成り立たなくなってる。もちろん、なくてもある程度のことはできるけど、あった方がスティーヴの仕事もうんと楽になるし。

Steve:そう、あれだけたくさんのシンセをセットアップして、あれだけ色んなサウンドが周りで一度に鳴ってるライヴでは特にね。ラップトップにも様々な機能があって、アメリカをツアーしてる時は、MIDI→CDコンバーターを使ってるんだけど、それがあれば、ラップトップでプログラミングしたシーケンサーを、古いヴィンテージ・シンセに通すことができるんだ。で、そのシンセからまたコンピュータに戻すことで、本来なら必要になる余分なハードウェアの多くを省略することができるわけ。それに僕達、たったふたりだけの弱小プロジェクトだろ(苦笑)――どこに行っても日本と同じように親切にしてもらえるんだったら、好きなアナログ機材を片っ端からライヴに持ち込めるんだろうけど、残念ながらアメリカじゃ、日本と同じような待遇もリスペクトも受けられないからね。だからどうしてもコンピュータが必要になってくるんだ。

じゃあ夢としては、すべてのアナログ機材を持ち込んで、サポート・スタッフも増やして、完全アナログなライヴ・ショウをやってみたいという気持ちもある?

Steve:その通り! それがまさに理想だよ。でも現状じゃそれは逆に不便でしかないわけ。

昨日のショウでは最後の曲だけベース・ギターを使っていて、片手はキーボードの鍵盤を押さえながら、もう片方の手で解放弦のベース・ラインを弾いていましたが、あの曲でベースのパターンを機械の同期演奏に任せずに、あえて手弾きでやった意図って、何かあったんでしょうか?

Steve:あの曲って実はすごく古い曲で、たぶん僕らが初めて書いた曲のひとつなんだ。当時の僕はどの曲もみんな、一方の手でベース・ギターを、そしてもう片方の手でキーボードを弾いてたんだけど、最近じゃもう当時の曲はあまり演奏しなくなったから、みんなには意外に見えるのかもね。当時からすごく面白いやり方だと思ってたんだ――ちょっとギャグっぽい仕掛けみたいでさ。ただし、それだと行動が制約されるから、他のこともできるように、シークエンシングが可能な方向へ拡大していったんだ。ちなみに、昔はトニーもキーボードを弾いてたんだよ。ドラムの後ろにキーボードを2台セットして、曲によって片手でキーボードを弾きながら、もう一方の手でドラムを叩いてたんだ。

A.E.:あまり実践的じゃなかったね(苦笑)。

Steve:最初はすごく楽しかったし、実際に人目も引いたけど、制約がすごく多いことが分かって……2人組のインストゥルメンタル・ロック・バンドっていうだけで、すでに色んな意味で制約があるのに、そこにさらに制約を加えて状況を悪くする必要もないんじゃないか、って考え直したんだ。

A.E.:ふたりとも、もう1本ずつ手があればいいんだけど(笑)。

たとえばサポートでベース・プレイヤーを加えたいな、って思うようなことってあったりしますか?

Steve:確かに考えたし、今ちょうど、ニュー・アルバムの曲作りとレコーディングに向けて準備しているところなんだけど、その新作では多くのマテリアルで、サポート・ミュージシャンが少なくともひとりかふたり、絶対に必要になってくると思うよ。でも実は僕自身、キーボードよりベース歴の方が長いくらいだから、ここで自分のベーシストとしての任務を放棄するのは断腸の思いっていうか(笑)。でもま、しょうがないよね。

A.E.:ただ、ここ数年のツアーの量を考えると、逆にサポート・メンバーを入れた形でここまでやり通せたか、ちょっと自信がないんだ。ふたりしかいなかったからこそ、経済的にも何とか踏みとどまることができた部分があるから、もしここにもうひとりメンバーが入ってたら……。もちろん金銭面がすべてじゃないけど、でもふたりだけのラインアップを崩さなかったことが、助けになったのは事実なんだ。確かにあとひとりいてくれたらずっと楽だろう、ってことは気づいてたけど、今みたいにふたりのままが楽なのも事実なんだよね(苦笑)。

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