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Tokyo, 2004.1.7
text by Yoshiyuki Suzuki

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 ナンバーガール突然の解散から約1年を経て、向井秀徳とアヒト・イナザワに、ギターの吉兼聡とベースの日向秀和を加えて活動を開始したZAZEN BOYS。自身のスタジオを作り上げ、何度もセッションを繰り返しながら、ダブ/ヒップホップや80年代ニューウェイヴのみならず、レッド・ツェッペリンからブラック・ミュージックにいたるまで、ありとあらゆるアプローチを思い付いた端から放り込んだ、極めてユニークかつ興味深い音楽がここに生み落とされた。新たな創作環境と仲間を得て、次なるチャレンジへと向けて意気高揚する向井秀徳に、本拠地MATSURI STUDIOにてインタビュー。

「ロック音楽をして、どれだけ自分が脳内電気をビリビリさせるか、さらにそのビリビリをどれだけ人に伝染すか、どれだけビリビリさせるかっていうことを最終目的にしていきます」

今日は、せっかくMATSURI STUDIOにお邪魔させていただいているので、まず、ZAZEN BOYSの本拠地となったこの場所について質問しようかと思います。そもそも自分自身のスタジオを持とうという構想はいつ頃からあったんですか?

向井:一昨年の9月くらい、ナンバーガールの解散が決まった頃に、家を引っ越そうと思ったんですね。ギターを弾いてたら、苦情とかが非常に多くなってきて、それで家を引っ越そうと。で、不動産屋に行って、その時は、普通の部屋で「ちょっと楽器弾いても(文句を)言われんようなものはないですか?」くらいのニュアンスだったんですけど、そしたら「地下室だから、どんだけやってもいいですよ」と、ここを紹介されまして。それで見に来たら、非常に想像が広がったというか。これからここを拠点にしてやっていこうかな、と。一人になったことやし、ここを自分の基地にしていこう、っていう風になったわけです。

じゃあ、スタジオが先にイメージとしてあって、それに沿って物件を探したというのではなくて、偶然この場所に行き当たって、そこから始まったんですね。

向井:ええ。きっかけとしては、たまたまこういうのがありまして、ある種、偶然に近いものでしたね。……まあ、自分のスタジオがあればいいな、っていうのは誰しもが思うことでしょうから。

スタジオを作っていくにあたってポイントとして意識したことはどんなことでしたか?

向井:まずとにかく、練習場にしたいと思ってましたね。練習場プラス、レコーディングが出来る形にしたいなっていうのは思ってましたけども。まずバンドの練習ができることが第一でしたね。

なるほど。で、一昨年の暮れに物件に辿り着いて、実際にこう、いろいろ始まったのは、年が明けて去年になってからですか?

向井:うん、去年の頭ぐらいですかね。まず最初にイナザワと2人で練習とかセッションを始めましたね。

その時には、もう当然、ナンバーガール以降の新しい自分の音楽活動っていうのは意識にあったかと思うんですけど、その時点でZAZEN BOYSのイメージっていうのは、どれくらい頭の中にあったのでしょう?

向井:もうZAZEN BOYSという名前も決めていましたし、バンド・サウンドでやっていくっていう方針も最初からありましたね。ただ、その時点では、メンバーを固定せずにっていうイメージもありました。いろんな人がいてもいいかなって思ってましたね。

じゃあ、4ピースではなくて、いろんな編成がありうると?

向井:あってもいいだろう、という風には思ってたんですけどね。まぁ、今は結果的にこの形で固まりましたけども。

現在の4人での編成が、正式なラインナップになったと。では、その新しい2人のメンバーについてなんですが、確か、去年の夏のライジング・サン出演(ZAZEN BOYSとしての初ライヴ)に向けてメンバーを決めたんだと思うんですけども。まず、このおふたりと一緒にやることになった経緯を教えて下さい。

向井:ギターの吉兼はイナザワの知り合いで、イナザワが「彼のギターは非常におもしろい」と言うので、ちょっと一緒に練習してみようということになって連れてきた感じですかね。それからベースの日向は、彼がやっていたART SCHOOLというバンドの、レコード会社のスタッフが、ナンバーガールのスタッフだったんですね。そこで紹介されて、ここに来て練習をしていくうちに、しっくりきたと。両者とも、僕はそれまで全然知らなかったんですよ。

じゃあ、特に以前から目をつけていたということではなくて、ここで初めて出会って、いきなり音を合わせたって感じだったんですね。それでこう、何か来るものを感じたという。

向井:はい。

去年の12月30日、幕張で行なわれたイベントに参加した時のライヴを観せていただいたんですが、前のバンドのべーシスト/ギタリストとはすごく対照的な資質を持ったプレイヤーだと感じたんですよ。すでに今回のアルバムを語る際のキーワードとなっている様子もありますけど、いわゆる「ブラック・ミュージック的な感覚」を持ったプレイヤーだなと思うんですが、このことはやはり最初に音合わせをした時から、ZAZEN BOYSの音楽性の発展を刺激するものになるぞという手応えはありましたか?

向井:そうですね。プリンス趣味みたいなところを最初から前面に出そうと思ってたから、それを理解したんでしょうね。で、彼らも、そういういろんな音楽の趣味を持っているっていう。ナンバーガールの中では、そういった黒さっていう要素は皆無でしたから。あんまり興味ない、興味あるのは俺だけっていう。だから、そういうのはほとんど出て来なかったですよね。それを今回は全開にして出そうというのはあって。最初は(2人の)プレイヤーとしての資質がよく分からない状態で、非常に手探りな感じでしたけど、そこで彼らが非常に熱心にノってきたというか、俺がやりたいことを理解しようとしてくれたっていうのは早く出来た要因だったですね。

曲の出来方が、ナンバーガールとは違ったものになったりはしましたか?

向井:いや、やり方的には同じです。僕の曲の作り方は、あまり変わらないですね。スタジオでアイデア出して、それをすぐさま実践するっていう。

その実践に移す過程が、このスタジオが出来たことでスムーズにいったっていう部分は大きい?

向井:大きいです。

なるほど。それで、今作の媒体向け資料には『法被を着たレッド・ツェッペリン』と書いてあるわけなんですが、ここで「ツェッペリン」っていう言葉が出てきたのにはどういう背景があったのでしょう?

向井:もともとレッド・ツェッペリンは好きだったんですけれども、まさに、去年出たDVDでライヴ映像を見て、非常にでかいショックがありまして。もう、どれだけ凄まじいバンドなのかっていうのを再確認しましたね。とにかく音楽的にもすごくオリジナルだし、それぞれの表現がもう半端じゃないと。しかもそれを一つの塊にして出そうとしてるっていうか、プレイヤー同士のせめぎあいではなく一丸となって出すっていうか、その姿には非常に影響されました。尊敬もしましたし。だからこう、ロック・バンドの理想形として「レッド・ツェッペリン」ということを言ったわけです。

ただ、今回の新譜を聴いて、ここがツェッペリンだという部分もあるようでいて、全体的には完全にZAZEN BOYS独自の音楽性になってますよね。

向井:そうですね。まぁ、絶対に変なものになってるでしょうね。この時代もうみんな、ブラック・ミュージックだろうがヒップホップだろうがロックだろうが、垣根なく聴きますから。自分もそうですし。だから、そういう部分での違和感はないと思いますけども。でも実際に演るとなったら、非常に変なものになるとは思います。

ダブとかヒップホップはナンバーガールの頃からありましたけども、さらにいろいろ新しい音楽的展開が盛り込まれてますよね。これは、ZAZEN BOYSのラインナップが固まってから生まれてきたものなのか、あるいは昔から向井さんの中で溜まっていたものが、新たな形を得て出てきたものなのか、その辺はどうでしょう?

向井:それは、どっちも両方でしょうね。基本的にはナンバーガールの時からやりたかったことが、そのまま繋がってるとは思うんですけれども。ただ、やる人間も違いますから、全然別物にはなっていきますよね。

ZAZEN BOYSの中に今回思いがけず表れてきた表現要素っていうのは、どのような感じのものですか?

向井:それは、やっぱりそれぞれ演奏者たちの特色、個性っちゅうのがあって、こういう曲になっていくっていうのはありますね。“開戦前夜”っていう曲は、歌の部分では自分自身の意志表明以外の何物でもないんですが、音楽としては非常にプレイヤーたちの個性が出た曲です。

なるほど、なんかインプロビゼーショナルなやり方っていうか、そういうのが入っている曲ですよね。

向井:まぁ、様式的にはすごく古いですけれどもね。単なるソロ回しですから。

でも、すごく新鮮な体験だったんじゃないですか?

向井:新鮮でしたね。すごい新鮮でした。

他にもいろいろとやってますが、とりわけ印象的なことのひとつに、ヴォーカルがすごく幅を広げている、というのがあって。ファルセットはもちろん、それとは対照的に唸るような感じで歌ったり、その対比をすごくつけたりとか。いちばん極端なものでは“自問自答”でピッチを変えた声とデュエットしてますが、これはやはり、音楽が変わってくる中で、歌や言葉も自然にそうなっていったっていう感じなのでしょうか?

向井:まず、非常に言葉数が多かったし、言葉をハッキリさせようっていう意識は最初からあって、だからこういう形になったというか。音楽的に、っていうよりも言葉として出そうっていうのが先にありましたね。なぜかと言うと、やっぱり最初にゼロから作り上げる中で、自分のテンパり感っていうのを、どうしても出さざるをえない。あと自分自身に対して表明しなければいけない、なんかこう……焦燥と言ったら変ですけれども、なんかそういう欲求っちゅうかね、そういうものがすごく強くあったから、こういった形になったんだと思います。メロディを奏でて、普通に歌うだけじゃ表現しきれなかったっていうのはありましたから。ほんと、なんかそういう余裕がないっちゅうか。

メロディに合わせて言葉を当てはめるような作詞の作業ではなくて、気持ちがもうあって、それがどんどん出てきてしまうという感じですかね。もしかしたら“KIMOCHI”という曲の歌詞には、そうした気持ちが特に表れているんじゃないでしょうか?

向井:これは非常にストレートな歌ですね。ここまでストレートな物言いはあんまりしてなかったですから。まぁ、でも、そういった気持ちはずっとあるわけですから、一旦ここではっきり分かりやすく表わさなければいけなかったわけです。これからやっていくにあたって。

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