|
ニルヴァーナの巨人ベーシストとして知られるクリスト・ノヴォゼリッチが、ニルヴァーナ解散後しばしの沈黙期間を経て、ヴェネズエラ出身の女性シンガー=イヴァ・ラス・ヴェガスと結成したバンドがスウィート75だ。このインタビューは、セルフタイトルを関したデビュー作が1997年の夏にリリースされた時のタイミングで行なわれたもの。その記念すべき初アルバムは、イヴァのパワフルなヴォーカルと、クリストの音楽的実力の確かさ(※それは間違いなく前のバンドにも貢献を果たしていたことが分かる)が充分に発揮された力作だったが、所属レコード会社であるゲフィンの経営態勢が変わったりしたこともあり、大きな成功は得られぬまま彼らは解散することになってしまう。この取材では2人ともやる気満々だというのに、非常に残念だ。その後クリストはミート・パペッツのカート・カークウッドとアイズ・アドリフトというバンドを組んで再出発をはかるもうまくいかず、結局は音楽界からの引退を表明するに至ってしまった。思うに彼は(色々な意味での)成功を意識しすぎたのだと思う。ニルヴァーナとしてのキャリアを考えれば、そしてフー・ファイターズの人気ぶりを見れば無理からぬことではあるかもしれないが、もう一度初心に返って「何のために音楽をやるのか?」を見つめ直し、再び我々の前に自身の表現を届けてほしい。その才能は決して小さくはないのだから。――とまあ、そんなわけで、今になって読むと少し空しく感じてしまう部分もあるし、歌詞についての質問は「事件」を意識しすぎてハズしていたりもするのだが、ここは「事件」後どのようにしてクリストが再び前を向くことができたのか、というドキュメントとして読んでいただきたい。 「ニルヴァーナというバンドに自分が関わっていたことは今も誇りに思ってる。だけど人生はこの先も続くんだからね」 おふたりは確か、3年前のクリストの誕生日に初めて会われたんですよね。 Krist:ああ、その通りさ。1994年5月16日の俺の誕生日に、友達がサプライズ・パーティーを開いてくれたんだけど、そこで歌を歌うために招かれてたのがイヴァだったんだよ。俺のためにヴェネズエラの古い民謡を歌ってくれたんだけど、それが最高に素晴らしくて、それでパーティーの後も連絡を取り合ってたんだ。で、最初はとにかくプロデューサーとして彼女の曲をレコーディングしたいとだけ思ってたんだけど、スタジオに来てもらっていくつか曲をレコーディングするうちに、俺もリフが浮かんできたりなんかしたもんだから、とうとう2人で曲を作り始めたってわけ。 イヴァはどういった経緯でクリストのパーティーで歌うことになったんですか? Yva:クリストとわたしの共通の友人が、わたしのことをずっと前から彼と奥さんのシェリに話してくれてたのよ。あの頃わたしはストリート・ミュージシャンをやる一方で、いろんな場所のパーティーに招かれて歌ってたんだけど、そんなことから「イヴァにもこのパーティーに来てもらってクリストを元気づけてやろう、びっくりさせてやろう」って話になったらしくて、それでわたしが呼ばれたというわけ。もちろんクリストに会った時はとてもエキサイトしたわ。でもわたしとしては、最初は単なる仕事のひとつという意識しかなかったんだけどね。 クリストはものすごい有名人だし、しかも当時はまさにあの悲劇のあった直後だったわけですけど、イヴァは本人に会う前はどんな気持ちがしていましたか? Yva:もちろん彼に会えるなんてすごく光栄だとは思ったわ。でもわたしは特にニルヴァーナのファンじゃなかったしカートのこともあまり知らなかったから、あの事件についても大したことは言えないんだけど、でもそんなわたしでさえ、ニルヴァーナというバンドが消滅してしまったのは寂しかった。だからクリストと会えて本当に光栄に思ったし、何よりも一緒にプレイした時に「何て豊かな才能の持ち主なんだろう」って感動しちゃって……だからクリストと一緒に音楽がやれて本当に嬉しいし、幸せだと思ってるわ(笑)。2人の間にいい化学反応が起きて、一緒にいろんなジャンルの音楽を取り入れたレコードを作ることができてね。 先程の話によると、当時のあなたは主にパーティーなどで歌ったりしていたそうですが、シアトルのミュージック・シーンとはどのようなスタンスで関わりを持っていたんですか? またクリストは当時すでに音楽活動に戻っていたんでしょうか? Krist:あの頃はまだニルヴァーナが終わった直後で俺自身かなり参ってて、頭の中でいろんな思いがうず巻いてるんだけど同時に空っぽでもあるっていう、そういう状態でね。あの事件は俺にとって本当に重い出来事で、それまであんな経験はしたことがなかったし……。でもデイヴ(・グロール)とは一緒にプレイしてたんだよ。お互いそれが一番やり慣れたことだったしね。だからシアトルのダウンタウンのスタジオに行って、奴がドラムを叩いて俺がベースを弾いて……そうやってのんべんだらりと時を過ごしてたんだ。気楽にやろうとしてたっていうか……。で、そんな中でイヴァと出会って、ゆっくりと状況が動き始めたんだよ。最初はこっちも単なる楽しみとしてやってたんだけど、だんだん話が進展していって、しばらくすると一緒にプレイせずにはいられないくらいになってきた。単なる楽しみを通り越して、続けていくだけの価値のあるものに変わり始めたんだ。だから、この件に関しては選択の余地なんてなかったね――とにかく衝動を抑えることができなかったんだ。 Yva:わたしのことを言うと、シアトル地区のいろんなバンドといろんな音楽をプレイした後、ストリート・ミュージックをずっとやってたんだけど、ちょうどちょっとした新しいプロジェクトが動き始めようとしていた時にクリストと出会ったの。 イヴァと出会った時、彼女のどんなところにクリストは魅力を感じたんですか? やはり自分とはまったく違う音楽的バックグラウンドを持っているという点に惹かれたのでしょうか。 Krist:ああ、ほとんど一目ぼれ状態だったね。いち音楽ファンとして、すごくリアルで純粋で、本質的な何かを持ってる娘だと直感したよ。とにかくものすごく印象が強烈で、当然忘れることなんてできなかった。パーティーでは記憶を失うまで大騒ぎしたのに、翌朝起きた時に「あの娘すごかったな、誰だっけ」ってちゃんと覚えてたんだからね(笑)。それに当時俺は、ちょうど東欧とか南米とかアフリカとかいろんな国の音楽を聴くようになってて、だからイヴァの曲も最初は自分が聴きたいからレコーディングしたかったんだよ(笑)――いちファンとして個人的に聴くためにね。でも人間としてイヴァのことを知るにつれて、バンドがひとりでに離陸しちゃったんだ。俺たち自身は一緒にバンドを始めるなんて考えてもいなかったのにね。 一緒にやろうと思うようになったのはいつ頃だったんですか? Krist:んー、出会って数ヵ月後だね。その頃には一緒に曲を作るようになってて、しかもそれがすごくいい出来なもんだから、遂にもうひとつ上のレヴェル、つまり「ドラマーを見つけなきゃ」ってところまで来たんだ。実際にバンドを組む必要を感じたんだよ。で、いろんなドラマーとリハーサルをやるようになったんだけど、そんな中でビル・リーフリンに出会ったんだ。あの時やつはミニストリーとの仕事が終わったところで、スワンズとかクリス・コネリー、レヴォルティング・コックスなんかのプロジェクトにも参加してたんだけど、それはどっちかっていうとコラボレーターとしての仕事だったんだよね。で、俺たちとプレイして奴は完全にハマッてくれてさ。俺は元々ベースを弾いてたけどそのうち12弦のエレクトリック・ギターも弾くようになって、逆にイヴァはギタリストなんだけどだんだんベースもプレイするようになったし、ビルもビルでどんどん新しい試みをやるようになってね。3人ともとにかく何かやらずにはいられなかったんだ。だからリハーサルも毎日欠かさずに4時間、しゃにむになってやったよ。ダウンタウンのスタジオで昼の12時か1時頃に集合して、夕方までずっとリハーサルしてたんだ。 ちなみに、パーティと言えば、かつてクリストは大酒を飲んでは酔っ払って大暴れしていたそうですが、今はお酒とどうやって付き合っていますか? Krist:確かに昔はかなり飲んでたよ。でも1994年の11月に最後の一杯を飲んで以来、アルコールは一滴も口にしてないんだ。前のバンド、そして自分の人生に起きたことから、いろんなことを学んだんだよ。自分自身について、人間関係について、そしてこれからどう人生を生きていきたいのかについてね。酒は15の時からずっと飲んできたんだけど新鮮味がなくなってきたし、俺自身も生産的な生活をしてなかったし、それできっぱりとやめたんだ。足を洗ってからは生活もすごく改善されたと思う。昔の写真の俺はぶよぶよでいかにも不健康そうだけど、今はもっと健康に気をつけてるし……崖っぷちに立つ経験を経た今はただ……「生きたい」って思うんだよ。そして人生をもっと良くしたいってね。 ポジティブな言葉が聞けて嬉しいです。 Krist:ありがとう。 Yva:それは、このバンドのアプローチにも言えることで、わたしたち二人とも、それぞれの人生の中で色々なことを経験してきたけど、歳をとった今は、その種のパーティーはもうやり尽くしたっていう心境なのよ(笑)。 Krist:向こう見ずなライフスタイルを送ってきたけど、歳をとるにつれて辺りを見回して「自分の人生のプライオリティって何だろう」って考えるようになったんだ。 さて、ではここで各曲の歌詞の内容について聞いていきたいんですが、まず“Take Another Stab”や“Poor Kitty”は激しく男を非難している歌のように聞こえるんですけども……。 Yva:オー、ノーッッッ! ノーノーノーノーノーッ!(笑)。あの曲は誰を非難してるわけでもないわ。実際“Poor Kitty”はキティっていう女性のことを歌ってる曲で男のことは歌ってないし、それに“Take Another Stab”の方は、たまたまO・J・シンプソン裁判の頃に書いたせいか、最初は軽いノリのジョークっぽい曲にしようと思ってたのに、結局ああいうアメリカ社会の問題をテーマにしたすごくシリアスなものになってしまったの。でもメッセージを伝えたいとかそういうことはまったく思ってなかったのよ。みんなにも言ってるんだけど、あの歌詞は単に私の中の感情を表現しているだけだし、とにかく男を非難しようとしたものではまったくないの。まあ、家庭内暴力がまるで伝染病のように流行している今の社会状況そのものを攻撃していると言えるかもしれないし、家庭内暴力のほとんどは男性が振るってるわけだけど(笑)、でもこの曲は特定の男について歌ってるんでも男性全般について歌ってるんでもなく、単に暴力について歌ってるだけなの。 この2曲だけでなく全体的に「相手を愛しながらも、完全に支配下に置かれることを拒否する」という内容の歌詞が多いような印象を受けたのですが、この分析は当たってますか? Yva:ワオ! えらく深くまで掘り下げたものね(笑)。わたし自身はそういうつもりはまったくなかったんだけど……でもこれってどんなミュージシャンにも起こり得ることで、第三者が曲の内容について自分なりに分析して、それぞれ違う結論に達するのは珍しいことじゃないわ。でも曲の中にはまったく意味らしい意味がないものもあるわけで。わたしが思うに、歌詞っていうのは本来聴き手の判断基準として存在するもので、わたしの場合も自分の声に言葉をくっつけることで、聴き手にとって意味が通じるものにしてあげているってところがあるの。だけどわたし自身がその曲で表現したい感情は、もしかしたら歌詞そのものとはまったく無関係かもしれないのよ。それにしても……びっくりだわ。あなたがそういうアプローチでわたしの歌詞を解釈したなんて(笑)。 Krist:でもすごくおもしろいね。 Yva:ええ、ほんと、おもしろいわ。 じゃあ、他の曲についても話を聞きたいんですが、“Nothing”の歌詞は相手の死を暗示していますよね。これは具体的には何について歌おうとしたものなんですか? Yva:あの曲は母の死がテーマになってるの。
|