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ちなみにGratitudeの解散というのは、メジャーのレコード会社のシステムと折り合いがよくなかったというのが、大きな要因だったりしたんでしょうか?

Jonah:いや、レーベルは何の問題もなかったんだ。単に僕とあるメンバーのウマが合わなかったっていうだけでね(苦笑)。あと、マネージャーともうまくいかなかった――マネージャーって、もともとあまり好きな存在じゃないっていうか(笑)。ま、連中も僕のことが気に入らないみたいだけどね。

(笑)。

Jonah:音楽に関して僕が大切だと思ってることや、僕が音楽をやってる理由っていうのを、連中は理解してくれなかった。逆に連中が求めてるものを、僕は望んでなかったしね。とにかく向いてる方向が違いすぎたんだよ。だからレーベルの問題じゃ全然なくて……実際アトランティックは素晴しいレーベルだったし、メジャー・レーベルが云々という話じゃなかったんだ。

自分にとって状況が快適なものであれば、別にメジャー・レーベルと一緒に仕事しても全然構わないと?

Jonah:そう、もちろん。僕としてはどんな可能性にも門戸を開いてるつもりだし、要するに僕と一緒に仕事したいと思ってくれる人たちと仕事をしたい、それだけのことだよ。とは言うものの、莫大な金が動いたりしてない関係性の方が、楽だし好ましいのも事実だよね。レーベルとしては、投資した分を取り戻すためなら何でもしたいってやっぱり思ってしまうだろうし、そうなると、アーティストとしての誠実さが損なわれてしまいかねないわけだし。でも、金を受け取るのは結局ミュージシャンの側なんだ。レコード会社の責任じゃないんだよ。僕自身は、メジャー・レーベルと契約した時、政府の助成金をもらったようなもんだと思ってた(笑)。レコードを作るための大金をくれたからね。で、メジャー・レーベルがくれたその金のおかげで、僕はそれまで絶対できなかったようなことができたんだ――絶対に共演なんてできなかったような人たちとも共演したし、絶対に使えなかったような機材を使うこともできた。だからそういったことも誇りに思ってるし、レーベルにも心から感謝してる。よく、メジャーと契約して面白くない状況に陥ったからといって、後から文句を言うようなミュージシャンがいるけど、僕が言いたいのは……「正直になれよ。恩恵も被っただろ?」ってことだね。僕自身は、失敗を犯した時にも正直だったつもりだし、レーベルやマネージャーやエージェントについて不平を言うようなアーティストには、「俺たち大人だろ」って言いたい気もする。確かに、中には嘘をついたり騙したりするような連中も出てくるだろう――バンドがすごく若いと、そういうことが起きがちなのも理解できるよ。特に、レコード・ビジネスの初期の頃は、ブルーズ・ミュージシャンが食い物にされたり、実際のところ幾らの価値があることをやってるのか、誰も把握していないような時代があったのも事実さ。でもそれは昔の話で、今じゃビジネスがどう動いてるかなんていうのは誰でも知ってる。つまり、どう決断するかは自分次第なんだ――たとえば今、僕のアルバムのライセンスは僕自身が仕切ってて、原盤権も僕が持ってるから、逆に、前もって大金を払ってくれるやつなんて誰もいない。でも、原版権を他人に渡すとなったら話はまた違ってくるわけで、連中はもっと高い金を僕に払ってくれるだろう。そのどちらを選択するかは、アーティスト次第なんだ。だから、そう、これって音楽業界に関わる全員が、認識してなきゃならないことだと思うよ――恋愛と同じで、フィフティ・フィフティの関係なんだってね。レーベルだけのせいでもなきゃ、アーティストだけのせいでもないんだ、っていうか、そもそも誰かの“せい”とかいう話じゃないんだよ。こっちはこっちで自分の希望を伝えて、あっちはあっちで希望を言ってきて、そこで利害が合致したらトライしてみようってことになるわけで。だから僕も、別にまたメジャー・レーベルと契約しても構わないと思ってるし……ま、どっちでもいいというか、実現はしないだろうけど。とにかく自分にとって正しいと思うこと、自然だと感じることをやるのが最重要なんだよ。

なるほど。ちなみに、メジャー時代の経験で、一番やってよかったこと、楽しかったことを、参考までに教えてもらえますか?

Jonah:んー……たくさんあるけど、すぐ頭に浮かぶのはふたつだね。まず、『Water And Solutions』のレコーディングで4月にニューヨークに行って、レーベルが借りてくれたソーホーのアパートから、マジック・ショップっていうスタジオに通った経験。プロデューサーのデイヴ・サーディも、とにかく素晴らしいミュージシャンで、人間としても最高だったし、毎朝目が覚めると散歩に出かけて、美しい女性たちを眺めながら(笑)人参ジュースを飲んで……。春を迎えたニューヨークに乗り込んで音楽を作ることができて、しかもその出来映えが、それまでFarが作ったどんな作品よりも、はるかに素晴らしかった。あのアルバムをレコーディングした1〜2ヵ月間は、とにかく……まさに素晴らしいの一言に尽きる時間だったよ。そして、それから何年か後、Gratitudeの時に、アトランティック社のオフィスに社長を訪ねていって、バンドも何もない状態でアコギ伴奏だけで曲を歌ったのも、素晴らしい思い出だね。そのおかげで契約をモノにできたんだ。

わかりました。それでも今後しばらくは、インディペンデントでやっていくつもりですか?

Jonah:自分の過去を振り返ってみると、大体2年ごとに違うことにトライしたくなるタチらしいんだよね。だから、また違うことにトライする確率は高いと思う。ただ、このアルバム以前にやったことも全て誇りに思ってるけど、今回のこの形がやっぱり一番しっくりくるんだよね。今までやってきたこと全てが、このアルバムのためにあったような気がするんだ。しかもある意味、これが僕の原点だったようにも感じるんだよ。20年前に初めてリリースしたレコードも、ジョナ・マトランガ名義だったしね。たまに「バンドを1度もやらずにソロ作品ばかり作ってたらどうなってただろう」って思うことがある。当然、違った人生になってただろうね。もちろん自分が参加してきたバンドは大好きだし、一緒に仕事してきたやつらもみんな大好きだよ――大嫌いだった連中でさえね。でも、この形が……今更に聞こえるかもしれないけど、今の形が一番自分らしく感じられるんだ。小規模なレーベルと仕事する方が、気持ちがしっくりくるのも確かさ。僕は、2年間ぶっ通してツアーして、せっせと宣伝するような、そんなタイプのアーティストじゃないからね。失敗した時に騙されたと感じるほどレーベルも莫大な金を投資してないし、僕も騙されたと感じることもない――そんな関係で仕事できる方がハッピーだよ。実際、その方がクールだと思う。国によってそれぞれ違うレーベルと契約することで、アートワークはどの国も全部同じだけどパッケージングは国によって違うとか、そういうことも可能になるし。そのへんのことは、それぞれのレーベルに任せてるからね。そういう状態って、空を飛ぶタンポポの綿毛みたいに自分の作品がいろんなところに飛んでいく感じがして、すごく心地いいんだ。音楽をリリースするのにはうってつけの方法だよ。最初は真ん中のちっぽけな場所から始まって、そこから花火が爆発したみたいに飛び散っていくんだ。

さっき、イアン・ラヴの作品に自分が参加することもあるかも、という話でしたが、実際に色んなところから招かれて色んな人の作品にゲスト参加していますよね。さっき名前が出たデフトーンズの他にも、Tweakerというクリス・ブレナ(元NIN)のプロジェクトや、それにフォート・マイナーとか、タップルートといったバンドを手伝ったり、様々な音楽性を持った人たちとコラボレートしてますが、それぞれどういう縁でゲスト参加が実現したんでしょう?

Jonah:みんな、僕の音楽を気に入ってくれて、自分の作品に参加してほしいと思ってくれたってことだと思う。僕もすごくハッピーさ。ルーペ・フィアスコのアルバムにもゲスト参加したし、サーズデイのアルバムにも参加した。ものすごく愛着があるわけでもないことをやるのって、逆に楽しかったりするんだよね。普段は自分の曲を歌ってるだけだから、楽器のひとつとして自分の声を使う機会が増えるのは嬉しいんだ。トランペットか何かみたいに、他人のレコードで音を鳴らすことができるわけだからね。だから単純に、みんなが連絡を取ってくれて実現したってことなんだけど、ゲスト参加やコラボレーションはこれからもずっとやっていきたいよ。いつでも大歓迎だ。一緒にツアーをやってる全員とも、プレイするチャンスがないかうかがってるところ。

様々なタイプのバンドから声がかかっていることからも分かるように、あなたのソングライティング能力というのは、世界中のミュージシャンから尊敬を集めているわけですが、どんな時に、自分が人々に影響を与えていることを実感しますか?

Jonah:そうだな……自分が大好きなことに心底打ち込んでる時、だと思うよ。「誰かに影響を与えられるだろうか?」なんて心配は一切せず、純粋に楽しみだけのために何かをやってる時、っていうのかな。そういう時こそ一番インスピレーションをみんなに与えられてる気がする。僕自身、音楽に限らず自分のやってることに情熱を燃やしてる人を見ると、「俺も自分のやってることに情熱を燃やさなきゃ」って気づかせられるしね。

たとえば今、アメリカのシーンではエモが大人気で、あなたはエモの元祖のようにも言われていますが、それについてはどう感じていますか?

Jonah:今の“影響を与える”云々の話に戻ると思うんだけど、Farが作った音楽に似てるバンドだとか、サニー・デイ・リアル・エステイトが作った音楽に似てるバンドとか、フガジが作った音楽に似てるバンドとか、そういうバンドって…………というか、僕が何かの“元祖”なんだとしたら、それ自体は名誉なことだし嬉しいけど、でも自分と似たようなサウンドのバンドには、僕はあまり興味が持てないんだよね。大事なのは、その時に何が人気があるかとかに関係なく、自分が大好きなことをやるってことで、だから、むしろ僕がやってきた音楽とは似ても似つかないバンドにこそ影響を与えたいと思うし、自分たちにしか出せない音を鳴らしてほしいと思うんだ。「このバンド、ジョナが10年前にやってた音に似てない?」と言われても、正直嬉しくないんだよね。そういうバンドより、僕とはまるで違う聴いたこともないような音楽を作ってるバンドから「あなたの音楽が好きだ」って言われる方が、ずっといい。レッド・ツェッペリンに自分をなぞらえるつもりはないけど、彼らはいい例だと思うよ。というのも、レッド・ツェッペリンは、ホワイトスネイクが自分たちに似てても何とも思わないだろうけど、ジェーンズ・アディクションやパール・ジャムが自分たちを素晴らしいバンドだと思ってるって聞いたら、やっぱり喜ぶと思うんだよね。だって、それってつまり、そういうバンドにまで影響がちゃんと行き渡って、“自分たちのやりたいことをやろう”という気持ちにさせたってことを意味してるからさ。僕もそんなふうに誰かをインスパイアできたら幸せだし、その結果、自分たちにしかできないことをやるバンドがもっと増えてくれたらと思ってる。人気があるからというだけで、作りたくもないものを作って大勢に溶け込もうとしたりしてほしくないんだ。だから、僕“みたいな”音楽をやろうとしてる連中には興味ないよ。僕が歩んできたのと同じ道を歩んでる連中――つまり、とにかく音楽に惚れ込んで、音楽を通して自分が何者かを知る作業に没頭してる連中――に、興味があるんだ。

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