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わかりました。では次に、新作『ウェイヴァリング・レイディアント』について質問します。まず、今作をジョー・バレシと一緒に作ることになった経緯を教えてください。 Aaron H:えーっと、最初どうやって出会ったんだっけ……そうだ、トゥールを通してだった(笑)。彼がトゥールの新作のレコーディングを手がけたときに会って、すごく意気投合したもんで、過去に手がけた作品についても調べ始めたんだ。そしたら僕らが大好きなレコードや、尊敬してるバンドの作品をたくさん手がけてることがわかって、しかも友人たちの多くが結構ジョーと仕事してることがわかったんだよ。トゥール以外にも、メルヴィンズとかファントマスとかね。それでそういう連中にも、ジョーの仕事について意見を聞いてみたんだけど、そしたら全員がジョーのことをすごく褒めるんだ。いい仕事をしてくれるだけじゃなく人間的にもすごくいいやつだってね。で、僕たちとしても今回は新しいことに挑戦したい、いつもとは違う顔ぶれと仕事したいと考えてたんだけど、実際それって一大決心だったんだよね。これまでのフルレングスは4枚とも全部、ひとりのプロデューサー(※マット・ベイルズ)と一緒にやってきたから、また別の人間とゼロから信頼関係を築きあげつつレコードを作ろうって決心するのは、やっぱりちょっとコワい部分もあった。プロデュースを頼むのって、自分たちの音楽を別の人間に譲り渡して自分たちの代表になってもらうようなもので、相手にもすごく大きな責任を負わせることになるしね。でも結果的にジョーとは波長がすごく合ったし、どういうレコードをプロデュースしたいかについても、いい意見や知恵を提示してくれたし、正しい決断をしたと僕は思ってる。ジョーも同じように感じてくれてるんじゃないかな。「最高のアルバムを一緒に作ることができた」って、思ってくれてるはずさ。 Michael:彼は本当にいい仕事をしてくれたね。ジョーと最初に話をした時に言われたのは「(ISISは)アルバムの音よりもライヴの時の方が音がいい」ってことだった。実はそれって前から自分たちの中でも話し合ってたことで、だからジョーに「自分がプロデュースするなら、もっと生々しい、ライヴ感のあるサウンドのレコードにしたい」って言われた時、「それこそ自分たちが望んでいたレコードだ」って、エキサイトしたんだ。同じことを僕らも考えていたわけだから。で、彼はその通りのレコードを作ってくれた。これまでの4枚のレコードよりも、ビッグでクリアでベターなサウンドのレコードを作ってくれた……少なくとも僕はそう感じてるし、たぶん他のメンバーも同じ気持ちだと思う。本当にいい仕事をしてくれて、僕らも一緒に仕事ができてよかったよ。 Aaron T:以前のアルバムで一緒にやってきたマットは、僕らの演奏の細かい部分にものすごく神経を集中させるという意味で、テクニック重視のプロデューサーだったように思う。一方でジョーは、僕たちがそれぞれ自分のパートにどういうフィーリングを込めているかっていうことにより関心があって、僕たちとしてもジョーのそういうアプローチの方が、理にかなってるように思えたんだ。僕たち自身、パフォーマンスの完璧さよりもフィーリングを重視してるからね。そこの違いが僕にはすごく大きかったよ。 そのライヴ感を出すために使った、演奏上・録音上のテクニックや工夫というのは、具体的にはどういうものなんですか? Clifford:ジョーはいろんなテクニックを駆使しまくったはずだけど、それが何だったのかは僕たちには見当もつかないよ(笑)。僕たち自身に関しては、いつも以上に準備を整えてレコーディングに臨んだのは確かさ。今回はスタジオに入る前から、曲の練習や細かいディテールの習得にうんと時間をかけたから、自分たちにとってはそれがすごく助けになったと思う。ただ、ジョーの方でも、きっと色々と工夫してくれてたのは間違いないね。ただ、僕たちには一体何が起きてるのかさっぱりわからなかった、と。 (笑)。 Clifford:とにかくジョーなりの色んな考えがあったのは確かで、実際に彼の作業をただ見てるだけでもかなりの感動ものだったよ。 Aaron T:僕にとって今までと一番違ってたのは、全体的にすごくリラックスした気分で臨めたってことだな。実際、そういうのんびりゆったりとした環境のおかげでいつもより自然な演奏ができたし、音楽の演奏っていう行為自体により深く没頭できた。「完璧に歌えただろうか?」って自分のパートのことばかり思い詰めるような状態にはならなかったんだ。そのことが、より生き生きしたライヴ感のある完成品に繋がったと思うよ。 Aaron H:自分の経験から理解できた範囲で、ジョーのテクニック面での工夫について言うと、彼のミキシング・テクニックやトラックの作り方は、ライヴ・サウンドを再現する方法として本当に理にかなってるんだ。たとえばライヴで僕がドラムに使ってるのと同じリヴァーブを、ジョーもいくつか使ってるし、ローエンドをより強調したミキシングにしたり、あとはキーボードの音を前面に出してきたりね。ライヴに近い音にするために、ミキシング上のそういった工夫をやったんだと思う。 なるほど。曲をかなり作り込んでからレコーディングに臨んだということのようですが、それでは、今作の収録曲を作るにあたって特に意識したこととか、ソングライティングに関する話を聞かせてもらえますか? Michael:意識してたことっていうのは、そんなになかったね。レコードを作る人間なら誰しもが意識するごく基本的なことは、もちろん心得てたけど――たとえば同じような曲を繰り返し作らないとか、自分たちの限界を押し広げようとしながらレコードを作るとかさ。でも……そう、今回は時間もたっぷりあったからいつもよりしっかり準備できたし、アーロン・ハリスがレコーディングのデモを作ってたから、みんな家にデモを持ち帰ってしっかり消化しつつ、変えたいところはないか聴きながらチェックすることもできた。たとえば僕なんか、ミックスアウトの左側の音を、わざと小さくして聴き直したりとかまでしたよ。自分のギターは左に入ってるから、あえてそっちの音を下げて、(右側から聞こえてくる音に合わせながら)もっといいと思えるものができないか改めてプレイし続けてみたんだ――自分以外の音ともっとうまく連動したプレイができるまでね。 Aaron T:唯一意識して考えていたのは、今回はもっと時間をかけてアルバムの準備をしたい、ってことかな。たとえば曲を全部書き終えるまで、レコーディングに入る最終期限も設定したくなかった。このアルバムより前に作った殆ど全てのレコードが、曲作りのプロセスの半分か、下手するとそれ以下しか済んでいない段階で、「よし、締め切りを決めて、とりあえずその日に向けて曲を仕上げていこう」って感じで進めてたと思うんだけど、今回のアルバムでは、曲作りがもっと進むまでレコーディングがいつ始まるかも考えないようにしてたんだ。その方が、期限に間に合わせようと焦ることもなくなるだろうし、実際スタジオに入る頃にはどの曲も、焦って作った時より遥かにちゃんとした形になってたよ。もちろん中にはスタジオ入りする直前まで作業してた曲もあったけど、前の2枚なんて、スタジオに入る1週間前とか4〜5日前まで仕上げの作業をやってたからね。 ソングライティング作業にあたっては、メンバー全員がLAに拠点を移したので、すごく集中しながら団結して作業ができた、という話も聞いたのですが? Clifford:ああ、確かに役に立ったよ。 Aaron T:みんなが遠く離れ離れな状態での作業って、アルバムの一体感にとっては百害あって一利なしなんだ。だから前作でも、たとえ住む場所はバラバラになっていても、曲を作る時にみんなで一緒に作業していたら、2〜3人だけ集まって作業するよりもっといいものが出来てたと思う。ひとつの部屋にメンバー全員が集まって、全パートについてちゃんと話し合ってから曲を書いていくのって、やっぱりすごく大事なことなんだよね。ISISでは、基本的に曲作りのプロセスはいつもすごく民主的で、つまりどのメンバーも全員が自分たちの作ってる音楽に満足してなきゃだめなんだ。確かに全員が曲に満足してる状態って、なかなか到達できるものではないけれど、究極的にはそうすることが曲にとってベストなんだよ。そういう意味では、さっきの話に戻るけど、それぞれの曲に時間をかけられたのは今回すごく助けになった。以前のレコーディングでは、みんな曲の出来に満足したいのはやまやまだけど、何人かは内心ためらいを感じていて、でも時間が足りなかったり曲作りの現場に居合わせなかったりで、その不安を口に出せなかった、なんていうこともあったと思うんだ。だから自分たちのポリシーに従うということに関しては、今回は、特に前作と比べて、よくやったんじゃないかと思うよ。 今作の第一印象として、過去のISISの作品と本質的な部分は変わらないけれど、前よりも聴きやすいというか、すぐ耳に馴染む感じがしたんです。自分たち自身としては、どう感じていますか? Aaron H:まず、前回のアルバム(『イン・ジ・アブセンス・オブ・トゥルース』)は僕らにとって重要な足がかりだった。レコードを作る時は全員が一緒にいなきゃダメだってことをはっきり示してくれたし、みんな音楽面でも色んなことを学んだと思う。僕個人も前作ですごく進化したーー様々なことを学びながら、テクニックを磨いてたんだ。実際、古い自分に新しい自分を取り付けようと闘ってるみたいで、そういう意味ではやっぱりちょっと混乱があったんだよね。とにかく、前作ではバンドとしてもひとりのメンバーとしても学んだことがたくさんあって、逆にそのおかげで意識的に――といっても話し合ったりはしなかったけど――「次作では曲作りの方法を変えなきゃ」って決心することができたんだ。それで今回は実際にやり方を変えて、完璧に完成したと感じるまでたっぷり時間をかけて曲を作った。だから今回はソングライティングもすごく気が楽だったよ。スタジオでもずっと居心地よかったし、結果にも大いに満足できた。昨夜は確かにまだ少しだけ違和感はあったけど、新曲のリハーサルを相当重ねてきたこともあって、過去に新しい曲を初めてやった時に比べたらずっと気分よくプレイできたね。曲をちゃんと理解できてる感じがしたというか、曲のことを必死になって考えなくても自分の中にしっかり根付いてるのがわかった、とでも言うのかな。やっぱり曲作りにはバンド全体で取り組むべきで、時間もたっぷりかけるべきだし、今回はそのおかげでずっといい結果を手に入れることができたんだよ。 Clifford:もちろん、最初から親しみやすい曲を狙って作ったわけじゃないよ。単純にラッキーな結果に恵まれた、っていうだけでね。 Michael:ああ、たまたまそうなったって感じ。 Clifford:そう、たまたまね。今作の曲が万人に向いてるかどうか自分ではわからないけど、僕らのリスナーみたいに聴く耳を持った連中が気に入ってくれて、しかも一般的にも聴きやすいんだとしたら、それはもう予期せぬ嬉しいボーナスって感じだよ。 Aaron T:今回のアルバムは、すごく直接的に感情に訴えかけてくるアルバムだと思うんだ。僕が感じるのは、今回レコーディングされた音はアイシスの実際の姿をより的確に表してるってこと。しかも今作の音楽の大きな構成要素になってるのが“感情”という要素なんだよね。だからそれがレコーディングされた曲の中で的確に表現されていれば、リスナーの心をより即時的につかむことになると思う。一方ライヴというセッティングの中では、当然その(感情の)要素はより実体と具体性を伴うようになるから、オーディエンスもよりはっきりとそれを識別できるってことなのかもしれない。こんなこと言うと変に聞こえるかもしれないけど、僕たちは月日を経るに連れて「ISISでいることが上手くなってきた」ように思うんだ。初期の頃の僕らは、自分たちは誰なのか、自分たちの音楽の個性とは何なのかを知ろうと必死だったけど、それが時を経るにつれてどんどんクリアになって、僕らの個性もどんどん強烈になっていったんだよね。つまり自分たちの“声”が見つかった後は、その声がさらに進化していったわけ。だから、この最新作は色んな意味で、僕たちというバンドを最も正確に表したアルバムだと思う。しかも現時点での僕たちのことだけじゃなく、バンドとしての歴史も表したアルバムになってるよ。新しい要素がたくさん加わってる一方で、過去からの要素もたくさん引き継いだアルバムになっているってこと。今作がリスナーにより直接的・即時的な影響を与えるアルバムになってるのは、そのせいもあるんじゃないかな。
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