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わかりました。では、話は変わりまして、昨日には奥様と一緒にDJプレイを披露してくれましたよね。そこでは映画にも出てくるような、トルコ音楽をかけていましたが、あれは、大阪で先週おこなったTHE HISTORY OF ELECTRICITYによるパフォーマンスとは、音の素材が違うだけで基本的なセットとか機材の使い方などは同じなのでしょうか? Alexander:内容は確かに違うものだけれど、僕が妻のDANIELLE DE PICCIOTTOとともに目指しているのはオーディオとビジュアルとアートを同価値に並べて……いや、並べてというよりは一緒に提示(プレゼンテーション)することなんだ。この10年ほどの間に、ロック・バンドがステージで映像を使うということはかなり当たり前になってきている。僕が最近とりくんでいることのひとつ、イギリスのバンド=タイガー・リリーズとのプロジェクト「MOUNTAINS OF MADNESS」も、違った形態のアートをひとつに合わせてプレゼンテーションするという行為なんだ。 その「MOUNTAINS OF MADNESS」ですけれども、H.P.ラブクラフトの「狂気山脈」という小説からタイトルがつけられたのですよね。なぜラブクラフトの作品をモチーフにしようと考えたのでしょうか。 Alexander:ラブクラフト作品のポイントは、言い表すことのできないような悪、書き留めようのない概念や不気味な灰色の世界、あるいは深淵のさらに奥底や暗黒の裂け目などだよね。いつも黒い海の底で悪や禍々しいものが待ち伏せしているような感覚というか。僕達はその情景にエレクトロニカのサウンドスケープで近づこうとしているんだ。言い表しがたい灰色のイメージをエレクトロニカ・サウンドで表現し、実際にサラウンド・システムを使って観客を取り囲むわけ。で、タイガー・リリーズはその中で、語り部や物語のキャラクターとして浮かび上がる。大海の上にナッツの殻のような小さなボートで浮かんでいるようにね。DANIELLEの作品の中でも、古典的な静物画の美と、オモチャとか生き物みたいなモダンな要素のミックスが成り立っていて、それもラブクラフトの作品や僕達のラブクラフトに対する見方ととても相性が良いと思う。ラブクラフト自身はすごくマジメに作品を書いてるよね。一片のアイロニーも含ませず、本当に真剣だろ? でも、だからこそ、そこにある種のアイロニーが生まれてしまっている。それが、何かを解き放ってくれるとでもいうかな。 なるほど。さて、一般の企業が商品として流通させるのではなくて、作り手から直接的にリスナーへ作品を届けられるシステムが近年になって整ってきましたけれど、その可能性についてどのように考えていますか? すでにアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンとしても、ファンによるサポーター・システムを中心にネット上で様々なプロジェクトをやっていますが。 Alexander:とてもうまくいってるよ。今ちょうどそのシステムを使って3枚目になる作品を制作しているところなんだ。レコード会社が介在する従来の音楽産業の枠から離れたところで音楽を作っていくには、とても可能性に溢れた方法だと思う。アーティストとファンをダイレクトに繋げることができるんだからね。サポーター・システムによって最初に製作された作品は、一般発売もされた『Perpetuum Mobile』だ。ただし、サポーターにはさらに多くの音源や別バージョンも追加収録された特別盤が提供された。2枚目は『GRUNDSTUCK』というタイトルで、こちらはサポーター限定でリリースした。そして今作っている3枚目に関しては、サポーターには完全版を提供し、同時に一般向けの作品の発売も計画中しているけれど、これも自分達でプレスして、レーベルは通さずにディストリビューターと直接やりとりをして流通を託そうと思っる。さらに今回は、この作品を製作していく過程においても、1ヵ月に1曲、サポーターに曲を提供していくんだ。予定では12ヵ月かけて、毎月1曲づつダウンロードできるようにしているよ。今サポーター・システムに加入すれば、ほとんどアルバム1枚分のボリュームとなる、これまでの8ヵ月分の曲をダウンロードできる。それらの曲がいずれ一般リリースされるかどうかはまだ決まってない。というわけで、ひとまずはサポーターの人々には自分達にしか入手できない音楽を楽しんでもらってる。それから、このシステムのおかげでバンドの製作ペースも非常に規律正しいものになったね。ウェブキャストによって、サポーターが実際に僕達のスタジオ内での作業を見ることができるから、自ずとこちらもきちんと効率よく作業をしなければ、という意識を持つことになるわけさ。本当に昔の作業ペースとは比べものにならないよ。そしてもうひとつ素晴らしいのは、サポーター・システムが非常に質の高い、豊かなコミュニティを生み出したこと。その濃密なコミュニケーションを通して結婚に至った人もいるんだよ。
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