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ではここで、あなた方の地元についての話を少し聞かせてください。グランジ以降のシアトルの音楽シーンは草木も生えない絶滅状態だと言われてましたが、実際にはここ数年どのような状況だったんですか?

Nick:シアトルには今でも活気に溢れたシーンがあると思う。マスコミが注目していないだけで素晴らしいバンドがまだたくさんいるよ。なかなか面白い音を作っててアメリカ国内ではそれなりに人気もあるんだ。モデスト・マウス、ビルト・トゥ・スピル、スリーター・キニー、ブラッド・ブラザーズにバーチ、それからジュノーといった様々なスタイルのバンドが活躍してる。だいたい最初からシアトルのサウンドなんて存在しなかったんだよ。「90年代のシアトルと言えばグランジ」って思う人が大勢いるけど、それは違う。グランジはほんの一部で、他にも別の音を作ってたバンドがたくさんいたんだ。シアトルは未だに刺激のある街だよ。それに小さいだけあってライヴ出演を巡るいがみ合いもないから、みんなバンド同士で助け合ってる。まだシアトルのシーンは終わってない。世界的に周期みたいなのがあって、そのうちシカゴやニューヨーク発のシーンが注目を浴びて、そこにLAが続くかもしれない。それからシアトル、カンザスシティ、東京にだって回ってくるかもしれない……世界中を循環してるだけなんだよ、何年かしたらまた戻ってくるんだ。

なるほど。そういえば以前、スリーター・キニーのジャネットにインタビューした際、シアトルとオリンピアのシーンはそれぞれ互いに憎み合っていたという話を聞いたのですが、現在はどうですか?

Nick:オリンピアとの関係は少し変わったと思う。それでもシアトルは注目されるし集まる情報量も多いから、大きさが同じくらいの都市には妬まれてるところがあるだろうね。デス・キャブ・フォー・キューティはベリンガムで結成したんだけど、当初は地元のプレスにすごく気に入られてたんだ。それがシアトルに移った途端に手のひらを返したように冷たくなって、「シアトルに行って変わった。もう大したバンドじゃない」なんて書かれたりもしたね。オリンピアもそれに近いんじゃないかな。オリンピアにだってカッコいいバンドがいるし面白いこともあるのに、どうしてもシアトルの弟分や妹分にされてしまうからライバル意識は消えないだろうね。でも人口や経済やら、知名度の高さといった点でこれからもシアトルが上になるだろうな。いろいろ大変だけど避けられないことだと思うよ。

これまでインディーズ・バンド同士の結び付きには強い地域性があったと思うんですが、今は例えばシアトルであろうとワシントンDCであろうとLAであろうと、その土地だけに限定されることなく頑張っているバンド同士が繋がりあっていて、これまでとは違ったパターンの盛り上がり方を見せているような気がするんですが、どうでしょうか?

Nick:インターネットのおかげだな。オンラインで情報を見つけてる音楽ファンが大勢いるんだ。国中、世界中と簡単に繋がることが出来るんだからね。俺たちだってグラスゴーやフロリダのタラハシーのバンドといろんな共通点を見出すかもしれない。インターネットは、自分と近い考えや意見を持った人たちとの出会いの場をもたらしてくれたんだ。「ここの音楽シーンが……」なんて単純なことはもう書けないから、かえってジャーナリストには難しくなっただろうけど(笑)。ローカルな要素を残しながらグローバルにムーヴメントが広がる可能性が生まれたと思う。もちろんローカルなままのムーヴメントにだってまだ魅力的なところはあるけれど、世界中を巻き込む方がもっとエキサイティングで実り多いんじゃないかな。僕自身も、日本やDC、それにロンドンのインディー・バンドを見るのが大好きだし、今まで自分の音楽を聴いてもらうなんて考えたこともないような場所……アフリカとか、音楽シーンがあるのかすら知らなかった小さな国に向けて情報を発信出来るなんて、かつては考えられなかったけど、今はお互い理解し合えて、それが刺激にもなるんだ。例えばロシアなんて始まったばかりだし、中国からもパンク・バンドが出てきてる。すごく不思議だよ。中国は抑圧されてるイメージが強くて、音楽なんて何もないだろうなんて考えてた。でも、そういう国にもバンドがいるって気づいたり。音楽を共有する意味でも役立つよね。メールで音楽ファイルを交換できるし、もう郵便で数週間待つ必要もないし、とても良いと思うよ。

そうですね。じゃあ、今共感できるバンドや最近のお気に入りのレコードを教えてください。

Nick:昔から聴いてたバンドは今でも大好きだよ。でもこれまで音楽活動を通して大勢の人と知り合ってきて、知性のある人たち、素晴らしい音楽を作り出すために一生懸命努力している人たちと知り合うことにもっと興味があるんだ。スタイルうんぬんってことよりも、その音楽を作っている人間の方が気になるね。だから演ってる音楽がパンクでも、聴いたことないようなエクスペリメンタル・ミュージックでも、ヒップホップ、ダンスミュージックでも全くかまわない。作品よりも作り手、そして彼らがどんなことをしているのかを知りたいんだ。そういう風にして接点を楽しむ方が充足感を得られるんじゃないかな。

Jason:これまでいろんなスタイルのバンドで演ってきたんだ。さっき話してたことと繋がるんだけど、シアトルは死んだとか死んでないとかなんてどうでもいい。メディアに注目されなくても、シアトルには絶えず何らかの音楽シーンが存在してる。アシッド・ジャズとかアンダーグラウンドのヒップホップ・グループなんてのもあるよ。市内にロフトっていうハコがあって、そこには「ジャズ・タイムス」誌に載ってるようなニューヨークやパリの有名ジャズ・ミュージシャンが集まるんだ。ツアーでシアトル近辺に来た時にロフトの噂を耳にするらしくて、ライヴが終わってからアフターアワーで朝までプレイしに来るんだよ。それに俺たちのライヴを観に来てくれる人たちからデモテープをもらったりもする。そういった人たちとは音楽の趣味が近いし、そこから新しい音楽を見つけるなんてこともあるから、連絡先を教えてもらうようにしてるよ。ニックも言ってたけど、そうやっていろんな人に興味を持つようになるんだ。インターネットで見つけたり友達から聞いたバンドを観に行くこともあるしね。今までたくさんのバンドのオープニング・アクトとして出演したけど、一緒に演ってなかったら絶対にCDは買わないようなバンドもいる。でも実際会って話してるとすごくおもしろいし、彼らが活躍してるシーンにも興味が出てくるんだよ。作ってる音楽の第一印象よりも作り手自身を重視した、固く結ばれてるコミュニティーなんだ。

Nick:好きなバンドは、モグワイやベル&セバスチャンから、キュアーやアメリカン・アナログ・セットのように昔から聴いてる音楽までいろいろだね。ディスコードのバンドもすごく好きでフガジやブルーチップ、ラングフィッシュとか。それにジュノーも好きだね。彼らのようなミュージシャンと一緒にレコーディングできて幸運だったけど、演ってる音楽もすごく好きで。でもバンドってたくさんいるから、簡単には言えないよ。最近は日本の音楽も聴くようになってきたし。俺は生涯音楽ファンだろうな。うちの両親みたいに20代前半で突然音楽を聴かなくなるなんて考えられない。80歳になってもパンクのライヴに行ってるだろうね。

Jason:自分より前の時代に活躍していた偉大なミュージシャン達のインタビューを読むのが好きだね。例えば今自分がいいと思ってるバンドは、ロバート・プラントが聴いてたバンドだと知ることがあったりするんだよ(笑)。

Nick:大御所バンドは避けて通れないな。ツェッペリン、ストーンズ、ビートルズにザ・フー、名前を挙げだしたらキリがない(笑)。

わかりました。ところでさっき名前が挙がったジュノーですが、昨年彼らが来日した際には一緒に来なかったですよね? もう一緒に演ることはないんですか?

Nick:現時点ではジュノーがどうなるのかわからないんだ。俺は彼らのレコーディングに参加したし、ジェイソンも一緒に曲を書いたりしたし、みんなでリハもしてたんだよ。実は来日も一緒にする予定だったんだけど、デスキャブが『トランスアトランティシズム』の制作に入るんで、スケジュールが合わなくなっちゃって。どちらかを選ぶことになってしまって残念だったよ。ジュノーっていつも変わり続けてるんだ。何をしたいのか分かってないっていうか(笑)。

Jason:でも、いい奴らだよ。

Nick:ほんと、いい奴らだよな。もっと一緒に演りたいよ。一緒に来日だってしたいし、必要とあらばまたレコーディングにも参加したいんだ。でも彼らが今後どう活動していくつもりなのか聞いていないんだよ。音楽を続けるには経済的に苦しい状態がずっと続いているらしくて、今どんな状況にいるのかも全然わからないんだ。

なるほど。さて、実は今晩7時から渋谷でテレヴィジョンのライヴがあります。それから夜の11時には新宿でケミカル・ブラザーズがDJをします。行くとしたらどっちに行きたいですか?

Nick:テレヴィジョンが東京に来てるの? マジで?

Jason:テレヴィジョンだな。

Nick:俺もテレヴィジョンを選ぶだろうな。でも、最近彼らのライヴを観に行った友達がいて教えてくれたんだけど、イマイチだって言ってたんだよ。ブルース調でジャムっぽい感じらしいね。いずれにしろ、どちらのライヴでも違った経験を味わえるだろうな。

Jason:それじゃ東京では今夜、テレヴィジョンとケミカル・ブラザーズとホワイトスネイクのライヴがあるってことだよね?

Nick:そのどれがいいかって? どれも違うバンドだからな。ホワイトスネイクを観たら、笑うかもしれない。ほら、髪型とかさ。それが終わってから間に合うならケミカル・ブラザーズにも行くと思う。デジタルの世界で何が起こってるのかをチェックするためにもね。彼らはいつもその道の最先端にいるわけだから。

Jason:音で選ぶんだったらケミカル・ブラザーズが一番かも。ヴィジュアルを求めるならホワイトスネイク。で、歴史の目撃者になるならテレヴィジョンって感じだね。

それでは最後に。これから新作がアメリカでもリリースされ、もはやさらなるブレイクが保証されていると言ってもいい状況なわけですが、今後の目標を教えてください。

Nick:これから長いツアーが始まるんだ。10月1日から2ヵ月間全米を周る予定で、12月から1月にかけては寒くなるからツアーにはちょっと不向きなんだけど。でも年が明けて2月か3月にはまた来日できればいいね。そして4月と5月にはヨーロッパ・ツアーが続く。アルバム・リリース後の18ヵ月間はツアーや取材が山のように控えてる。たくさんライヴが出来るからすごく楽しみだし、今回のアルバムは自分たちの最高作だっていう自信もあるから、それについて話ができることも嬉しいよ。これから忙しくて大変になるけど、うまく成果を出して次回作に繋げられればと願ってる。今後の目標としてはリスクを恐れずにバンド活動を続けていくってことかな。サウンド面ではバンド内でのコラボレーションを充実させていきたい。もっと一緒に曲を書くとかね。メンバー全員、一生バンド活動を続けたいって気持ちがあるんだ。そう思わない奴なんていないんじゃないかな? 俺はミュージシャンを引退するまでバンドでベースを弾き続けたいと思ってる。エンターテインメントの世界は厳しいから、それが可能なのかどうかは分からないけど、それでも俺たちは今バンドとして素晴らしい位置に立っていると思う。探求したいアイディアがまだまだたくさんあるし、これからも可能な限り最高のレコードを作り出していきたいね。気に入って手に取ってくれる人がいるかどうかなんて関係ないよ。先に俺たちが楽しまなくちゃ!

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