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ちなみに当時、アンディがヴァージンレコードが自分よりもコリンを贔屓していると感じていて、そのことに嫉妬していたみたいなんですけど、その事についてはあなたも気づいてましたか? Colin:うん、彼は非常にイライラしていて、当時はすごく孤立していたんだ。やっぱり一番注目されていたかったみたいだしね(笑)。ただ僕はラッキーだっただけなんだよ。曲っていうのは最小限の言葉で最大限を表現することが何よりも大事で、それこそが強力な曲を作り出すコツだと思ってるんだけど……新聞の見出しから気になるフレーズを見つけることってあるよね? で、イギリスの首相にナイジェル・ローソンっていう人がいて、ある時新聞を開いた時に彼の記事を読んでパッと頭に浮かんだのが“メイキング・プランズ・フォー・ナイジェル”っていうフレーズだったんだ。これはイギリス国民全体がすぐに理解できて、しかも様々に解釈できるフレーズなんだ。そういう、人々を魅きつける事のできるフレーズって大事なんだよね。そんなわけで、この曲が出来たのはただラッキーだったっていうか。アンディは……その事で自分に自信をなくしちゃってたんじゃないかな? でもそれによって、良い意味で彼もそれまでとは違うモードに切り替わったと思うんだ。今でも2人の間には常に多少の競争心があって、これはバンドにとってヘルシーな環境だと思う。あの曲のヒット以来、アンディの曲にも変化が訪れたのは一目瞭然だしね。例えば『ブラック・シー』の中の曲はそれまでのようなひねくれた曲が減ってダイレクトなポップ・スタイルが取られているだろ? もちろん嫉妬もあったんだろうけど、それはバンドにとっても非常に建設的な結果に繋がったんだ。2人ともダイレクトなポップ・ソングを書くようになったんだからね。そういう意味でも『ブラック・シー』はXTCのベスト・アルバムという事が出来るんじゃないかな? 全体に統一感があるし、自然の流れに沿って曲が進んでいく。これは2人とも同じようにダイレクトなポップソングを書くようになった結果なんだよ。 例えば、その時期に限らず、アンディが音楽的に常に独裁者でいたがるので、あなたを応援して、彼に対抗させようとする人達が常にいたんじゃないかと想像するんですけど、あなたはそういう人達にはどう対応していたのでしょう? Colin:う〜ん……僕とアンディは性格が全然違うんだよね。だからこそ僕達は一緒にやっていけるんだと思うし。アンディは常にみんなの注目を集めていたい人で、僕も彼のそういうところが気に入ってる。僕自身は有名人でいる事が苦手で、アンディと違って世間の注目を集めるのは嫌なんだ。基本的にすごくシャイだから、そういう事は僕の性格に合わないんだよね。で、ご存じのようにアンディはその正反対(笑)。だからこそ2人は合うんだと思うよ。それに僕はバンドのリーダーになりたいっていう欲望もないし、そういう事には本当に興味がないんだ。よく『80年代にあんなにヒットを飛ばして、あんなにいい曲を書いてきたんだから、なぜあの時にバンドのリーダーシップを握らなかったの?』って不思議がられるんだけど、ただ単にそれは居心地が悪いっていうだけのことでね。バンドのスポークスマン的な役割を果たすのってすごく苦手なんだ。そういう性格なんだよ。それは僕が書いた曲を聴いても解ると思うし、僕がベーシストだっていうことからも解ってもらえると思う。ベースっていうのは一番目立たないポジションだろ(笑)? これが僕の性格なんだよね。今となってはXTCっていうのはバンド名じゃなくて、ブランド名になっている。メンバー2人がそれぞれ独自に曲を書いていて、それらの曲をXTCというブランドから出しているって感じなんだ。だからグループっていうよりも、同じブランドから曲を出している2人の人物っていう方が正確な表現だと思う。もちろん今でもアンディとコラボレートはしてるよ。ソングライティングじゃなくてアレンジ面での話だけどね。そうやってレコーディング前に2人でコラボレートする事で曲をより良いものに仕上げることが出来るんだ。ただソングライティングの初期段階は非常にパーソナルで個々が自由にやっているんだよ。 わかりました。ところで、そのように温厚なあなたが、たった1度『スカイラーキング』というアルバムのレコーディングの時に辞めると言い出すほど怒ったことがあったという話を聞いてるんですけど…… Colin:アハハハハ。あのアルバムの制作過程においての出来事でしょ? その時に限ってなぜあなたはそんなに怒ったのでしょうか? 他にもレコーディング環境の雰囲気が悪かったことはあったと思うのですが。 Colin:トッド・ラングレンとのレコーディングは悪い思い出ばかりだなぁ。もちろん彼のことは尊敬してるし、才能ある人物だと思うけど、彼には人間関係を潤滑にこなせないっていう問題があった。非常に傲慢なアティテュードを持った人だから、僕らはどうやって一緒に仕事をすればいいか全く理解できなかったんだよ。ギター・テイクをやってもベース・テイクをやっても、彼はそれに対して何の評価も下さないし、『お疲れさま』の一言さえも言わない。とにかく気難しくて容易に心を開ける相手じゃないのさ。バンドのメンバー全員が同じようにこの問題を抱えていたね。でも特にアンディの場合はひどかった。アンディとトッド・ラングレンの抗戦の間に挟まって、僕らは非常にイライラと短気になっていた。それに長い間家から離れていた事も問題だったんだ。みんなホームシックになっていて、一刻も早く仕事を終えて家に戻りたくてね。そういった諸々の事情からああいう事になったわけ。僕みたいなシャイな男にもキレるポイントはあるんだ。そしてアンディは僕の事を無視してどんどん先に進んでいってしまうし……。トッド・ラングレンとの問題やホームシックを抱えることで、アンディは僕のことを二の次にしてしまったんだよね。そしてある日、それが表面化したってわけ。その時はちょうど“アーン・イナフ・フォー・アス”っていう曲のベーストラックをレコーディングしていて、僕としては十分に使える良いテイクを残したと思ったのに、アンディがダメ出しをしたんだ。それから僕ら3人の言い争いが始まってしまった。ベースについての、僕とアンディとトッド・ラングレンの抗争さ。それがあまりにもヒドくて、僕はもう呆れてしまい、『わかったよ、これで終わりにしよう』って事を口に出したのさ。でも振り返ってみると、どんな状況であれキレてしまうのは良くないことだよね。バンドのメンバーには脱退してもらいたくないし、だからこそ僕も辞めなかった。でもヒートアップしたケンカの最中に誰かが『辞める』と口にするのは、皆の頭を冷ますのに有効なのかもしれない。リンゴ・スターも短期間であれビートルズから脱退してた時期があったしね。で、彼がまた戻った時にはまるでホームカミングみたいなものでさ(笑)。まぁ自分達をビートルズと比べようとは思わないけど……とにかく、あれはお互いの熱のぶつけ合いみたいなものだったんだ。 実はその後のインタビューで、トッドが『もうXTCのプロデュースは二度とやらないけど、コリンのソロだったらやってもいい』と発言していたのを読んだことがあるんです。あなたが辞めると言い出した時に止めに入ったのもトッドだったし、『スカイラーキング』というアルバムではあなたの曲が他のアルバムよりも多く採用されているし、やっぱりトッドは口には出して褒めてはくれなかったけど、あなたの才能を高く評価していたのではないでしょうか? Colin:う〜ん、どうなんだろうね? 僕自身はトッドのコメントを読んだことがないし……。それにトッドはジャーナリストから僕らのことを訊かれた時には常にノーコメントを決め込んでいるみたいだから、彼の本心は全く解らないね。確かにあのアルバムには僕の曲が他の作品より多く使われているけど、それは彼が作ろうとしていた“夏のようなセンセーション”的なコンセプトに僕の書いた曲が合っていたからだと思う。だから……う〜ん、やっぱり実際のところトッドが何を考えているかは解らないなぁ。彼とは4ヵ月間ともに仕事をしたけど、全然理解できない人だったからなぁ(笑)。
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