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具体的にはどんなボックスセットなのですか? Adrian:未発表曲が30曲はあるんだ。ライヴ、アウトテイク、リミックス……オリジナルとは全然違う感じの別バージョンもある。興味深いものがたくさんあるよ。僕が作った曲ということで、ソロ作品、キング・クリムゾン作品、それからベアーズの曲に限られるんだ。自分が作者でない他人の曲は使えないからね。いい曲が一杯収録されるはずだよ。最初のソロ・アルバムから現在に至るまで、僕の20年のキャリアを網羅するものになりそうだね。 それは楽しみです。一方、あなたは他者とのコラボレーションも数多くやってますが、最近ではナイン・インチ・ネイルズの『ザ・フラジャイル』に参加してましたよね。レコーディングの時点では、どんな風に自分のパートが使用されるか不明なままだったという話でしたが、実際に完成した作品を聴いてみて、どのような感想を持ちましたか? Adrian:結果はとても気に入ってるよ。レコーディング中はどうなるかさっぱり分からなかったけど(笑)。トレントのレコードでは、“ミュージシャンが提供した音を、彼が操作したもの”が作品になるんだ。僕が彼との仕事が気に入ってる点がそこなんだけどね。レコーディングの方法がすごく変わってて、僕が普段やってる作り方と全く違う。彼とはとてもうまくいってるよ。これまで2作品(※『ザ・フラジャイル』と『ザ・ダウンワード・スパイラル』)で協力してきたけど、両方共とても面白かった。トレントはレコーディング中、全ての演奏をどんどんループの上に加えていく形で録音してるんだよね。(基本の部分が)ループだから、気が乗れば1時間でもプレイしてていいんだ(笑)。スタジオの床にはいろんな機材が広げられていて、僕が演奏してる間も、トレントがおもむろにペダルのプラグを抜いたり差したりしてたよ(笑)。サウンドが変化したところで、またしばらく弾いてみる、っていう繰り返し。とてもエキサイティングなレコーディングだったよ。 ずっとループしっぱなし? Adrian:常にループしていた。ミキシングの時に、そのループ上の好きな部分を取り出して使うことができるようになっているんだ。すごく変わった方法なんだよね。 1曲ごとの録音というわけでもなく? Adrian:いや、1曲ごとなんだけど、時間的な制限がないんだ。普通は例えば、ギターソロは16小節、という風に決めてレコーディングするけど、トレントの曲では、好きなだけいつまでもプレイしててよかった。ループの上にずっと録音され続けていて、その中からギターソロならギターソロの気に入った部分を、後で取り出して採用する、っていう方法だったんだよ。 そりゃあ時間かかりそうですね……。では他に、最近の若手のアーティストの中で興味を持ってるような人はいますか? Adrian:素晴らしいプレイヤーは多分、数多くいると思う。新しいギタリストに会ったり共演したりすることには、僕はいつでも興味がある。ただ、今は新しい音楽を聴く時間があまりなくてね。音楽をかけるときは厳選せざるをえないんだ。音楽を作る方にほとんどの時間を費やしてるからね。というわけで、新しいギタリストのことをたくさん知ってるとは言えないけど、きっと有望な人材はたくさん存在すると思う。 最近は主に何を聴いているんでしょうか? Adrian:ポップ・ミュージックでは、XTCの新作を聴いたのが最後かなあ。でも、基本的にポップ・ミュージックはあまり聴いてないんだ。聴くことが多いのはクラシック。なかでもモダン・クラシカルだね。そうそう、最近はフランク・ザッパのクラシック作品を聴いてたよ。『Civilization Phaze III』というタイトルのアルバムなんだけど。ワールド・ミュージックも好きで、インド音楽とか日本の音楽とかも聴く。音楽を聴く時間がある時は、大体そういうのを聴いてる。最新のシーンにはうとい方なんだ。 これまでにあなたは、そのフランク・ザッパやデヴィッド・ボウイ、はたまたデヴィッド・バーン、そしてロバート・フリップと、非常に厄介な性格の持ち主たちと仕事をしてきたわけですが、そういう人々とつきあっていく秘訣はなんですか? Adrian:いい質問だね。それぞれに独特な人達だ。みんなとても革新的なスタイルやアイディアを持ってる。音楽的に共通する部分があるように思えて……実は共通項は微々たるものだ。僕は他にもポール・サイモンやシンディー・ローパーとも仕事をしてるけど、ザッパやボウイとはまた全然違う。そんなことができたのは、まず僕が音楽的にフレキシブルだからだろうね。僕は本当に様々なスタイルの音楽を聴き分けて弾くことができるんだ。1曲与えられたら、5通り程のアイディアを出すことができる。それから、つき合いやすい性格だってことも大きいだろうね。僕は結構すぐ友達を作れるし、ユーモアを大切にしてるから親しみやすいんじゃないかな。あまり真剣になりすぎることがないんだ。例えばデヴィッド・ボウイみたいにビッグになった人間にとっては、あまりちやほやしてこないやつやシリアスすぎないやつが周りにいるとホッとするんじゃない?。 でも、今あげたような人達との仕事が多いなんて、普通の人だったらストレスで死んでしまうのではないかと思います。 Adrian:ハハハハハ! 僕だってナーバスになることもあるよ。でもそれは一瞬だけで、すぐにリラックスできる。僕はどんな時でも「自分はここにいてもいい存在なんだ」という自信を持ち続けるようにしてる。僕も彼らと同じなのかもしれないね(笑)。それに、有名人だって人間であることには変わりない。結局、誰にだって共感できるヒューマンな側面はどっかあるものなんだよね。今までに会った有名人で、普通に生活してる部分がなかった人は一人もいないよ。起きて、食べて、飲んで、楽しんで、お喋りして、パーティーで騒いで……みんなと同じさ。違うのは、有名人は虫眼鏡の下で生活させられてるってことだけでね。 なるほど。では最後に、90年代以降の復活キング・クリムゾンに参加して、あなたが得た物と言ったら何になるでしょう? Adrian:キング・クリムゾンはいつも、自分と同じ志をもったミュージシャンたちと、チャレンジ精神を刺激される音楽を作る場を与えてくれてる。振り返ると、僕のキャリアには常に3つの要素があったと思う。ソロの部分、キング・クリムゾン、そして他のアーティストとの仕事。その3つのどれが欠けても、今のレベルでの進化は遂げられなかったと思うんだ。だから、この素晴らしいバンドでプレイできてることは嬉しいことだけど、自分のソロ活動ができることも同じように嬉しいんだ。バランスの取れた、いい組み合わせだと思う。キング・クリムゾンのいい所は、常に変化し続けることを理想としてることだね。キング・クリムゾンならではの伝統を基盤に、常に更新され、違う方法で続いていく。挑戦のし甲斐があって、楽しんで続けていられるのもそのためだ。バンドが4人編成になったことも、新しい刺激になってすごくよかったと思うよ。 ところで、“ピープル”や“セックス、スリープ、イート、ドリンク、ドリーム”なども、今回の編成で聴きたい楽曲なのですが、この後の日本公演でセットリストに入る予定はないのでしょうか? Adrian:まだ“ピープル”は練習してないけど、“セックス〜”の方は覚えたから、明日の晩は演奏するかもしれない。やっと、毎晩違うセットリストで演奏できる余裕が出てきた所なんだ。日本ではまだ“セックス〜”は演ってないから、楽しみだよ。“ピープル”も覚えたいと思ってるけどね。あれもライヴでやるべきだね。君が推薦してたってバンドに言っておくよ!
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