「スピリチュアルズ」-T
words of BARBARA HENDRICKS
黒人霊歌はさまざまな部族の習慣や言語をもっている人々が
創ったものです。彼らは奴隷制度という極めて苛酷な組織にしばられ、
彼らの母国語や文化から隔離され、部族とか家族などとのかかわりを
まったく考慮されることなく分散され、外国の文明と言語に順応させられた
のでした。これらのアフリカ人は新しい国に豊かな音楽的遺産をもってきた
のです。それは音程上の構成および形式と同様にリズムの面でもユニーク
なものでした。これが新しく発見したキリスト教の知識と融け合ったのでした。
奴隷たちは、地上では不公平と苦難に悩まされていたので、天国で
つぐなわれ報いられることを説くこの宗教を心底から歓迎しました。
黒人霊歌は本物の民謡で、もともとグループで歌うようにつくられました。
それはグループで歌うと自然にハモるということでも、他の民謡とはちがって
います。
黒人霊歌の多くはグループから直接生まれたものですが、一方では、
グループのプレッシャーや反動によって影響された、才能に恵まれた個人の
創作したものもあります。多くの黒人霊歌はちがう場所でちがうグループに
よって歌われてきましたので、ヴァリエーション(異版)が生まれてきました。
それでも、こういう異版が、何世代にもわたって口づてに伝承されてきた
ということを考慮に入れると、その相違はおどろくほど少ないのです。これらの
黒人霊歌の和声づけは、特色のあるブルー・ノーツ、カデンツァ、一つの音符
から次の音符への滑走音(スライド)、スウィングするリズムあるいは生き生き
とした手を叩くリズムなどを伴って、アメリカが生んだ最もユニークで最も
オリジナルな音楽を造り上げたのです。また、今日まで生きつづけている、
さまざまな音楽形式のルーツでもあるのです。
・「スピリチュアルズ」-T