中世の時代から、撥弦楽器(指などで弦をはじく)の代表はリュートです。その起源はアラビアのウードという楽器で、これが西に伝わったのがリュート、東に伝わったのが琵琶であると考えられています。
ルネサンス時代のリュートは6〜8コースですが、後期には10コースのものもみられます。弦の数が違っても基本的な調弦システムは同じで、どちらかというと歌の伴奏などのため和音を弾くのに適しています。バス・リュートなどサイズもいくつかありました。バロック時代に入ると、対位法的な音楽を演奏しやすいように調弦法が変わるとともに、弦も11または13(ときには14)コースと増え、棹から直角に折れ曲がった本来の糸倉に、低音弦用の第2の糸倉(バスライダー)が追加されます。
また、第1の糸倉を棹と同じ方向に向け、その先にさらに棹を伸ばして第2の糸倉をつけた楽器があります。2つの糸倉の間の長さと位置関係はさまざまで、テオルボ、テオルボ・リュート、ジャーマン・テオルボ、リウト・ア・テオルバート、キタローネ、アーチリュートなどの名前で呼ばれていますが、これらはすべてリュート属です。佐野健二氏によると、これらの名前はそれぞれ楽器の形の違いに対応しているというよりも、むしろ演奏する音楽の種類(独奏か、通奏低音か、イタリア・オペラか、フランスの室内楽か、など)やそれに応じた調弦法・弦の張り方の違いなどに対応している、とのことです。当サイトのギャラリーではいくつかの絵について、佐野氏のご教示をいただきました。
いずれにしても、弦が10コース以上(主要な弦は複弦なので、20本以上)もあると調弦が大変です。チェンバロも演奏するたびに調弦しなければならず、慣れた人でも20分くらいかかりますが、金属弦なので1時間くらい弾いてもそれほど狂いません。しかしリュート属はガット弦であり、指で直接弦に触れるので、弾いているうちにもどんどん狂ってきます。いや、調弦を始めて、半分くらい終わったと思ったら、もう最初の方に合わせた弦は狂っているという始末。古来、冗談で「リュート弾きは一生の半分を調弦に費やしている」といわれる所以です。
ところで、「キタローネ」はイタリア語で「大きなギター」の意味ですが、そのギターの語は古代ギリシャの楽器「キターラ」(竪琴)から来ています。ワトーの絵に見られるように、ギターは18世紀フランスの上流階級の生活に欠かせない小道具でしたが、ヨーロッパ中で庶民に愛好された楽器でもありました。
演奏や扱いが比較的容易であったため、17世紀にもっぱら庶民の間で人気が高かったシターン(フランス語は「シストル」)は、金属弦を持つ、リュートとギターの合いの子のような楽器です。これはイギリスに渡って、イングリッシュ・ギターと呼ばれました。