夏の終わりの大団円@Donington


26 August 1995

 午前5時半起床。
 こんなに早く起きたのはこちらに来てから初めてのこと。そう、今日は年に1度のハードロック/へヴィメタルのお祭り、"Donington Festival" の日なのです。今年はいろいろと揉めた結果「モンスターズ・オブ・ロック」の看板を降ろし、メタリカ+多数のゲスト、という構成になりましたが、野外フェスは文字通りお祭りであることに変わりありません。素早く準備して地下鉄に飛び乗り、ヴィクトリア駅のそばのコーチ(長距離バス)ステーションに急ぎます。

 集合場所には既に黒山の人だかり。メタリカTシャツが大部分。これからこいつらと3時間、北のはずれのドニントンまでバスの旅です。乗り込むと、隣に座ってきたのは何と日本人の女の子。いきなりBurrn!誌とか広げ出しちゃうし。話しかけてみると、その10倍くらいの勢いでしゃべり返されてしまい、実はかなりウザ子ちゃんであることが判明。しかも守備範囲が Sodom とか Venom とかそっち方面に偏っていて、「Venom マジ最高だよね!?」とか問い詰められてかなり厳しい状態に陥りました。こっちが軽く振ってみたブラック・クロウズやLAメタルなんかはことごとく「サイテー!」と粉砕されてしまい、道中は彼女に合わせて話を流すことに。

 午前10時半、ドニントン・パークに到着。会場は既に見渡す限り人の海になっています。広大な敷地に、主催者発表で7万5千人の入場者。さすがに最前列に潜り込むパワーなんてないので、周辺の芝生に寝転がって青空を見上げながら客入れBGMでも聴くことにしようかな。そのBGMってのが、Cathedral の発売間近の新譜だったりしてナイスなのです。見ていると、観客たちに猛烈にウケてほぼ全員で大合唱になる曲もあります。例えばブラック・サバスの "War Pigs"、ザ・ワイルドハーツの "I Wanna Go Where The People Go"、そして何といってもモーターヘッドの "Ace of Spades"。まだ開演前だってのに、会場全体が一体になって歌いまくるモーターヘッドは、身震いするような英国らしい瞬間でした。

 ぎっしり詰まったステージ正面の半径500メートルくらいでは、野外フェスならではの光景が展開されています。みんなでカラカラに乾いた地面の土をつかんでは投げ合っていて、遠くから見るとステージ前の上空全体が茶色い雲に覆われているみたい。ペットボトルやビニール袋など、意味不明なものも空中を飛び交っていて、ちょっと危険でもあります。会場への缶類の持ち込みは禁止なので、みんな3リットルくらい入る大きなポリ容器にビールをたっぷり入れて持参しています。最初から飛ばしてがんがん飲みまくり、すっかり酔っ払ってへろへろ状態で寝転がっている女の子や、芝生の上で熱く絡み合うカップルたちなど、周囲はさまざま。ロック好きは男の子も女の子も関係なし、今日はすっかりお祭りなのです。



 それではドニントン史上最多の9バンドとなった出演者について、ざっくり感想をまとめてみましょう。

★ Corrosion of Conformity (11:30〜、約25分)
 思っていたよりずっと演奏が上手い! 特にドラムのタイム感は素晴らしいものがあります。ツインギターも時にヘヴィなリフを刻みつつ、ぴったり息が合っていて目を離せません。第1弾出演でたったの25分の持ち時間ながら、ドニントンの前半分を完全にモッシュ状態にして激しく波打たせた浸透度と演奏力に度肝を抜かれます。しっかりアルバムを聴いてみなくちゃ。

★ Warrior Soul (約25分)
 メタリカのラーズたっての希望で出演が決まった彼ら。何でも、ラーズが昨年最も良かったアルバムの1枚に "SPACE AGE PLAYBOYS" を挙げているくらいなのです。個人的には4月の Astoria、5月の Camden Palace(たったの3ポンド!)に続いて早くも3回目のライヴ。

 が、見る度にテンションが下がっていくような気がしてならないのです。この日も "Love Is The Drug""Let's Get Wasted" など早くて荒い演奏を展開し、ごく一部が盛り上がっただけに留まりました。スタジアムでやるよりクラブのような小さなハコで見てこそのバンドだと思うので、残念ながらミスキャストと言わざるを得ないんだろうなあ。ライヴのラストで、"We're Warrior Soul ! We're Warrior Soul...." と連呼するコリー・クラークに周囲からは "Fuck off !" の罵声が飛びまくり、ステージに物が投げられる様を見ているのはファンとしてかなり心苦しいものがありました。

★ Machine Head (約25分)
 驚くなかれ、今回キッズのTシャツ着用率が最も高かったのは、メタリカを除けばこのマシーン・ヘッドなのでした。とにかく英国における彼らの人気は想像を絶するものがあります。日本だとスケーターズ系御用達の妙なポジションに立たされているような感もありますが、こちらでの支持はもっと裾野が広くて。ウォリアー・ソウルからのセット変換でマシーン・ヘッドのバックドロップが掲げられると、それだけでドニントン全体がどよめいて一斉に前に突進していく感じ。楽曲のサビで頭上に挙がる拳の数もケタ違いに多いのです。
 演奏自体も連戦のライヴの成果か、非常にタイトでアグレッシヴ。来日公演も行われたばかりでしたが、セットリストの核は同じようなものだったと思います。

★ White Zombie (約30分)
 結論から言おう。これが見られただけでドニントンまで行った甲斐があった。とにかく、今年度最大・最高級、誰が何と言おうと必見!のライヴ。

 観客の盛り上がりも最高潮に達するわけですが、こちらでの受け入れられ方は要するに "Super-cool!" なバンド。暑苦しい既成のメタルを完全に戯画化して昇華した彼らのサウンドは聴いていて痛快極まります。新作 "ASTRO-CREEP 2000" におけるインダストリアル風のビートの導入には腹がよじれるほど笑わせてもらいました。確信犯でこれが出来るバンドって、そうは多くないはず。

 1stアルバムの裏ジャケットのイラストを用いた舞台バックドロップ、流れてきたSEは2ndの1曲目 "Electric Head Pt.1 (The Agony)" のイントロ。新ドラマーの Johnny Tempesta (ex-Testament) がドラムキットに入り、両手を高く掲げてアピールした後、レコードどおりの恐ろしくシャープでインダストリアルなビートを叩き出します。ステージ左右から J (Guitar) と Sean Yseult (Bass) が飛び出してくると同時に嵐のようなリフを弾き始め、さらに一瞬置いて左袖から全速力で走り込んできた Rob Zombie が地面を揺るがすような唸り声を挙げる…

 ………すっげーカッコいい………

 一時もじっとすることなく、ステージの端から端まで走り、ジャンプし、回転しながら歌いまくるロブ。プロモ写真どおりの暑苦しいルックスにあのクールな海賊風ハットをかぶって、観客を煽る煽る。カッコ良すぎ! でもあんなに激しく暴れてるのに、どうしてあの帽子落ちないんだろ?

 もうひとつの見どころはもちろんショーンのベース。オレンジ色のチビTシャツに黒のショートパンツ+膝までのロングブーツという格好で、長くて白い脚をいっぱいに広げてベースを構え、髪を振り乱して弾きまくる姿はこれまたカッコ良すぎ。サウンドもひたすらヘヴィで、女の子かどうかなんて本当にどうでもよくなるいいベースでした。

 ラストから2曲目に、大ブレイク中のシングル曲 "More Human Than Human" を持ってきます。ドニントン全体がうねるうねる。そしてラストは1stからのスマッシュヒット、"Thunder Kiss '65"。ほとんどリフだけで「もらった!」と言えるような曲なんだけど、この締めでもって、あっという間に全米でヘッドライン級のステージをこなせるようになった彼らの勢いとエンターテインメント性の真髄を感じさせる素晴らしいライヴになりました。本当にスーパー・クール!

★ Slash's Snakepit (約45分)
 僕は Brian Tischy のドラムスを生で見られる、聴けるというだけで至福モードに入れるほど彼の音が好きなので、正直言ってバンド全体の客観的な評価をするのは難しいかも。ちなみに、演奏曲目中で群を抜いて盛り上がりを見せたのはやはり(というべきか)ギルビー・クラークの持ち歌 "Cure Me... Or Kill Me" で、これは大コーラスとなりました。スネイクピット自体は曲がほとんど観客に浸透しておらず、それ以前の問題かなあという感じ。

★ Slayer (約45分)
 ライヴを見るのは初めて。やっぱり凄かった。自分にとって彼らは「たとえどんな『音』であろうと、それを『楽しむ』人がいる限りそれは『音楽』である」という定義の極限に近い人々なので、詳しい感想はパスさせていただくとして、それでもやっぱり凄いものは凄い。最近のメタリカの転向ぶりを激しく非難し、ドニントンでも上から4番目という低い順位に並べられたことに強く不満をぶつける彼らですが、自分たちの音の本当に自信があるんだということが如実に伝わるステージでした。

 しかし、"War Ensemble""Raining Blood" が大轟音で鳴り響く中、芝生に横になって30分ほど熟睡するというシチュエーションなんて他の会場ではきっとありえないことでしょうから、とても気持ちよい貴重な体験だったと書いておくことにします。

★ Skid Row (約60分)
 1曲目の "Slave To The Grind" からもうテンション全開!
 どうしてバズはこんなに華があるんだろう。アルバムの音がどんなに自分の好みに合わなくても、ライヴを見ればたちどころに納得させられてしまうカッコ良さは、誰もが認めざるを得ないでしょう。黒のTシャツに黒の短パン、オレンジ色っぽいブーツという軽装で、細い身体を思いきり大きく見せて走り回る彼は、取り立てて技量の優れたヴォーカリストというわけではないと思います。でも、MCやフロントマンとしての観客の煽り方は抜群に巧い。生まれながらのショーマンシップを身につけているって感じ。

 例えば、"My Enemy" の曲紹介はこんな感じ。
「アメリカに住んでると、イギリスの王室ってのはいったい何の役に立ってるのかちっとも分かりゃしねえ。女王だけならまだしも、その兄弟姉妹、果ては従兄弟たちまで一緒になりやがって、あいつらを養う税金のためにお前たちは死ぬまで働き続けなきゃなんないんだぜ。…この曲をエリザベス女王に捧げる、"My Enemy"!!!」
 もちろんこの淀みないMCの間に10個以上の "fuck" が挿入されていたりするわけですが。

 "18 & Life" の大合唱(いや、「アイティーン」かな(笑))も良かったし、ラストの "Youth Gone Wild" だってお約束とはいえ、日頃のフラストレーションを一気に解放できる素晴らしい瞬間。ロックはこうあるべきだ、なんてちょっと思いました。

★ Therapy? (約60分)
 彼らがセカンド・ビルというのは、Burrn!誌のレビュウがHR/HM市場を形成している日本ではちょっと信じられないことかもしれません。でも、アイルランド出身のこのバンドの人気はすごいものがあるのです。実際ライヴもたいしたもので、トリオとは思えないくらいがっちりしたサウンドを鳴らします。新作 "INFERNAL LOVE" はややまとまり過ぎてつまらないという声も聞こえますが、一方で早くも年間ベストアルバムに推す声もあります。

 少々パンク/コア系のサウンドが入ってる彼らですが、立て続けに曲をぶちまけて突っ走るそのライヴはやはり一見の価値あり。"Nowhere""Loose" あたりでの観客の大合唱もかなり印象的でした。また、ゲストにチェロ奏者を連れてきてじっくりと聴かせる場面もあって、なかなか懐の深いところも見せてくれます。

 ちなみに英国のスラングっぽいフレーズで、"Thank you!" の代わりに "Cheers!" と言います。ちょっとした買い物をした時なども、店員さんに "Cheers" って言ったり言われたり。ステージ上で1曲終わるごとにアンディが "Cheers!" って言うのを聞いて、ふと他の出演者がみなアメリカ勢であることに気付きました。英国のハードロックシーンを思って、ちょっと寂しくなりました。

★ Metallica (20:30頃から、約2時間半)
 ブラック・アルバムが大ベストセラーになり、世界中が注目する新作を録音中の彼らは、明らかに息抜きにドニントンまでやってきました。フェスティバルの副題が「スタジオからの脱出」であることからもそれは明らか。もはや完全に帝王の貫禄、選曲もグレイテスト・ヒッツ状態(昔の曲はメドレー形式)で、ステージセットも超巨大なスタジアム仕様。とにかく4人とも思いっきり楽しもう!という感じが伝わってくる、とてもリラックスしたステージでした。

 録音中のニューアルバムからは "2x4 (Two By Four)""Devil's Dance" という2曲を披露。"Enter Sandman" 以上にグルーヴィでキャッチーなリフもあって、ブルース色すら感じさせる完全に別次元のロックに足を踏み入れつつあります。ほぼ全世界初公開となる新曲に、会場に集まった数万人のメタルファンたちと一緒に打ち震えました。興奮!

 "Welcome Home (Sanitarium)" その他の代表曲で大きく盛り上がった後、本編のラストに向けて照明が完全に落ち、爆撃音のSEが会場に鳴り響きます。爆発音に合わせて、巨大なステージのあちこちに仕掛けられた火薬がどんどん爆発して激しく炎が上がり、近くのファンからどよめきが起こります。緊迫感を増す演出が数分間続いた後、ギターが "One" のイントロを奏で始めた時の興奮といったらありませんでした。まさに全身鳥肌。

 アンコールその1は "Seek And Destroy"。その2は "Enter Sandman""So What"。終演後、壮大なスケールで夜空に打ち上げられる無数の花火を見上げながら帰りのバス乗り場に向かいます。夜11時近く。確かに払っただけのものは見せてくれる、豪華なショウでした。ただ、メタリカにはそれ以上のものを求めていた人もいたのかもしれないなあ、とはちょっと思うけれど。

 …ロンドンに帰り着いたのは午前3時ごろ。身体の心まで凍えそうな寒さです。ドニントンの終了とともに英国の短い夏も終わりを告げました。秋から冬にかけても、たくさんの素晴らしい音楽に出会えますように…


January 2003 追記
 スタジオにこもったきりいつまでも出てこないメタリカ。今にして思えば、後に "LOAD" 及び "RELOAD" と呼ばれることになる超大作を延々と録音し続けていたわけですが、この日のギグは彼らにとっても良い気分転換になったはずです。1年のほとんどをツアーに費やし続けてきた彼らだけあって、史上最強のロックバンドのひとつとしての凄みを感じさせてくれました。が、一方でややリラックスしすぎた、悪い意味でおふざけに近いノリもあって、個人的には6月のボン・ジョヴィほどいい印象は持っていません。
 その他のバンドの中では何と言ってもホワイト・ゾンビ! 結局オリジナル・アルバムはこの2枚で打ち止めとなり、単独での来日公演も果たせなかっただけに貴重なライヴ体験となりました。貴重なだけでなく、驚異的なまでに素晴らしいパフォーマンスで、僕にとってのドニントン'95はゾンビ一色だったと言っても良いでしょう。Sean Yseult 萌え〜だったんですが、今はどこで何してるのやら…


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