Ian Anderson @ Shepherds Bush Empire


24 May 1995

 Jethro Tull の中心人物である Ian Anderson のソロコンサートを観てきました。

 今回のライヴは彼のソロアルバム "DIVINITIES - TWELVE DANCES WITH GOD" のプロモートのためのものです。「フルートとオーケストラのためのアルバム」という触れこみ通り、インストで室内楽的にまとめた作品で、お店によっては完全にクラシック扱いで売られているところもあります。各雑誌でのレビューも概ね好評で、粗製濫造された「プログレの安易なオーケストラアレンジCD」とは一線を画した本格的なコンポジション、という評価を受けているようです。

 会場の Shepherds Bush Empire は小さめのホールで、3階席まであります。ステージ前のフロアは普段のライヴでは踊りまくるためのスペースですが、この日はびっしりとパイプ椅子が並べられて、ちょっと変な感じ。チケットを片手に自分の席を探していくと… ありましたありました。ふう。…ん? これは? …なんとステージから2列めの席なのでした。こんなに目の前で Ian Anderson を見てしまっていいのでしょうか! フルートから彼のツバが飛んでくるのに、傘忘れた!って感じです。



 怪しげなBGMが流れる中、ステージの四隅に立つ柱に取り付けられた大量のライトから美しい照明が投げかけられ、静かにメンバーが登場してきます。どこからともなく聞こえるフルートの音色に会場の緊張感がじわりと高まり、ステージ左手から Ian Anderson 登場! もちろんフルートを吹きながら。厳しく、怖い顔つきで吹いているかと思うと急に目をぐるぐるさせておどけた表情になってみたりして、よくわかんない人ですよねー。

 今夜の演奏は2部構成。第1部では新作 "DIVINITIES" からの楽曲をほとんど完全に再演します。そして休憩を挟んでの第2部はもちろん、Jethro Tull のヒットパレード! お客さんは年配の人が中心ですが、Tull のTシャツを着て臨んでいる人も多くて、熱心なファン層が多いことがうかがい知れます。そして何といっても、Ian Anderson のMCが面白いのですよ。低くてよく通る声で、英国紳士らしいユーモアあふれる冗談を随所に折り混ぜながらのしゃべりに会場は大ウケ。竹(bamboo)で作られたフルートを手にしながら、

「今回のアルバムではこの竹フルートをかなり使っているんだが、こいつは本当に何の変哲もないただの竹のフルートなんだ。誰だって簡単に吹くことができる。 …だからと言って誰だってこれを吹いて私のように金を稼げるってわけじゃないんだがね」

 みたいな話をしてウィンクしてみせる度に会場は大爆笑。確か数年前の来日公演の時にも、開口一番「じゃあ、次はちょっと新しめの曲をやろうか?」と言って Jethro Tull の1stアルバムからの曲を演奏したとかいう逸話があったような… ずーっとルックスだけで「怖い人」だと思いこんでいたのですが、生で観てみてすごく茶目っ気のあるおじさん、という印象に変わりました。

 この第1部も相当楽しめました。キーボードやパーカッションのサポートも実に的確で、メインであるフルート+弦楽器を盛りたてます。クラシックのライヴを頻繁に観ているわけではありませんが、全員非常に演奏が巧くて、極めて複雑なキメのフレーズもばっちり。Ian がフルートを吹きながら、全員を指揮している感じを受けました。最近うるさめのロックばかり聴いていたので、たまにはこういうのも心休まっていいな。

 個人的には、フルートをこれほどフィーチャーした音楽を生で見るのが初めてだったこともあり、いかに表現力が豊かな楽器であるかを思い知りました。4本くらい用意されたフルートを、曲の中で巧みに持ち替えながら吹いていくのですが、さすがこの楽器を知り尽くしている人だけのことはあります。以前、グラミー賞のヘヴィメタル部門で Jethro Tull が受賞するという大ハプニングがありましたが、何でも Ian Anderson センセイはその時平然と「フルートは heavy で、かつ metal でできている楽器であり、私の受賞は当然のことだ」と言ってのけたとか…

 しかし何と言ってもお楽しみは第2部!
 パーカッションに代わって本格的なドラムセットが運び込まれ、ベーシストも普通のエレクトリックベースに持ち替え、Ian Anderson がアコースティックギターを抱えてのスタートは "Heavy Horses"! 何だかこの1曲で切れてしまったお客さんもいたみたいで、その後怒涛の如く続く Tull の名曲の数々に、会場は多いに沸きまくりました。こうして聴いていると、いわゆるブリティッシュ・トラッド/フォークが彼らの音楽の底辺に流れているのがよく分かります。それをこの地で聴くのはまた格別。演奏も白熱して、アンコール直前の "Aqualung" の迫力なんて凄まじいものがりました。

 アンコールを求める大喝采に応えて出てきた Ian は、9月に Jethro Tull 名義で行うツアーの宣伝をちょっとしてから "Locomotive Breath" を演奏し、ステージを去っていきました。


September 2001 追記

 今にして思えば、貴重なライヴを観ることができたものだと思います。

 95年の3・4・5月は他にもいろいろなコンサートに出かけました。
 Marquee Club で観た CathedralBrutal TruthElectric Wizard のライヴも印象的。特に Brutal Truth のようなハードコア系は生まれて初めてだったので、お客さんがどんどんステージに駆け登ってはダイヴしてくるのにビックリしたり。他にはやっぱり Dream TheaterFates Warning のステージが貴重だったかな。Dream Theater は確実に日本でも観られますが、Fates Warning はそうはいきませんから。Kentish Town の The Forum で、テクニカルロックを存分に楽しんだ夜でした。


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