R&R Fragments
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自爆シリーズJ
第21回 |
Re: ' Love In Vain ' |
From: mack |
Dated: '01/08/08 |
その年の夏も終わりを迎えようとしていた。Facesに(これを Rodの曲と言うのは抵抗がある)Maggie May、という曲があり
こんなフレーズがある。It's late September, and I really should be already back in School♪
(もう9月も終わりだし、新学期も始まってる。もう学校に行ってなくっちゃ)酒場で出会った年上の女とまだ学校に通っている男の子との一夏の恋(というより情事、というほうが適当なのだろうが・・・)を描いたような曲だから、一通りのことを経験して女に飽きた男が、泡沫の夢から醒めて現実に帰ろうとするくだりだ。
僕と順子の間の、夢は、その夜限りのものとして消える性質のものだった。キスは単なるキス、抱擁は単なる抱擁、で終わる筈だった。それはどこにも終着駅の無い、環状線のようなもので、それに乗って次なる乗換駅に向いこそすれ家路につくことは無いようなものだった。
にも拘らず、この関係は半年以上続いた。
きっと順子のほうには純粋な愛情と、ちょっぴりの打算、そして期待があったのだろう。そして僕のほうには、(今冷静に振り返れば)単なる欲望とちょっとした好奇心、だけ、があった。
バイトのハネた後の食事、少々の酒、モーテルでの逢瀬。・・・酷いものだ。
まだ10代の女の子がこんな後ろ向きな生活をしていていい筈が無い。例え、大人達から馬鹿呼ばわりされようとも、自分の輝かしい未来に向って、楽しげに青写真を書き、かつ前進しているべきなのだ。そして家庭環境があまり幸せであるとは言い難かった順子も例外ではない。彼女は愛を、そして前進を求めていたのだ。
***
顧みて、自分は既に大学教育に対する興味は失い、かといって割りきって単位だけ取るといったドライな対応もできず、ただ毎日をやり過ごしているだけのロクデナシだ、しかも親がかりで酒まで呑んでやがる。
2学期に入って、(単位を取るには)出席が絶対、とされている必須科目の授業すら滅多に出ないようになっていた僕は、必然的にサークルに顔を出す回数も減り、深く、内向していった。その間に学祭などがあり、自分でバンドを組もうという気力さえ無かった僕は、スドー達のバンドに参加したのだが、ライブ当日、前日の深酒がたたり遅刻し彼らが演奏する1曲目を会場の外で聴くようなテイタラクであった。
自分で目標をみつけることのできぬまま、無為な毎日を過ごしていた僕は、
この時期に Stones、
そしてBluesと、
友達になった。
最寄のレコード店で購入した、アナログ盤を擦り切れるほど聴いた。
初っ端のRoute66から、ワクワクした。I just want to make love to youではビルワイマンのベースプレイに吃驚した。I'm A King Bee から遡ってブルースの原典を捜したし、Carolではキースのチャックベリーぶりに微笑んだ。そういや、このアルバム買った足で順子と逢ったんだっけ。大事にLPを抱える俺を見て不思議そうな顔をしてたなぁ、アイツ。
まだ当時は店頭でも幅を利かせていたミュージックテープで買った。The greatest R&R band in the world, the Rolling Stones!
というMCを何回聞いたことだろうか?ハードでソリッドなStonesがそこに居た。Jumpin' Jack FlashでアタマからKOされ、Stray Cats Bluesでのミックテイラーのギターに脱帽し、Street Fighting Manではバンドの地力に息を呑み、嗚呼、全曲挙げても語り尽くせない。それこそ、テープは間延びするまで何回も聴いた。
これは当時出たベスト盤だが、
上の2枚で既に悪魔に魂を売り渡していた僕にとっては、単なるベスト盤というより十戒を記したロゼッタストーンのようなものだった。
これを道標としてアルバムを揃えた。しかし、後に全アルバムを購入するにあたって、そのindexは不要となった。
遣る瀬無い現実の生活とはまるで違う、光り輝く世界がそこに開けていた。聴けば聴くほど好きになり、他のことがどうでもよくなっていった。相変わらずギターの腕前はヘタレだったけど、「こんな風に弾けばいいんだ」という勇気を貰ったようで心強かった。
***
そんな風に自分の内なる世界に浸っている間にまたもや季節は巡り、冬になっていた。その頃に順子とこんな会話を交したような気がする。
「あたし、結婚したらいい奥さんになるんだー、ウン、もう決めてんの」
「ふ〜ん、じゃ俺とすぐにでも結婚する?」
「え〜、だって●△くん、まだ学生じゃない、結婚できないよ〜」そう言った順子の横顔は何か淋しげだった。そりゃそうだ、自分の願望を叶えてくれる筈の無い男からそんなことを口にされても嬉しかろう筈が無い。それに、まだお互いに一生懸命であればいいが、既に相手に真摯さが無いことは判ってしまっているのだ。
別れ話は唐突だったが、予想していたことでもあった。
年が明けて・・・
(そういや、初日の出を順子と一緒に片瀬江ノ島まで観に行ったっけ。エラク寒くて、新しく買ったコートを着ながらも順子は震えていた。深夜営業の喫茶店のなかで初日の出を待ちながら、風に乱れた髪を気にしながら、やけにはしゃいでいたような風情が可愛かった・・・)
まだ松のとれないうちに、滅多に自分からは電話をかけてこない順子から電話があって、次の日に逢いたい、という。話がある、という。
次の日、バイト先である喫茶店から少し離れた別の店だった。甚だ簡単に、まるで明日は新聞休刊日です、というような口調で、もう逢うのは止めましょう、貴方は恋人という感じじゃないの・・・、と順子は言った。
僕は判っていたこととはいえ少し狼狽したが、内心の動揺を押し隠し、これも簡単に「判った」と言い少し白い顔をしていた彼女を促して店を出た。そして、それぞれの家路についた。
きっと順子は家に帰る途中で、泣くんだろうな・・・
でも家に着いたら家族には涙を見せないで普通に振舞うのだろうな・・・ぼんやりそう思いながら、デイパックに入っていたウォークマンのヘッドセットを耳にあてた・・・
Yeah, the train left the station, it had two lights on behind
Well, the blue light was my baby and the red light was my mind♪
(汽車が駅から出て行く、二つの光を残して。青はあの娘の色、赤は俺の心さ)Stonesの Love In Vain(虚しき愛)だった。
「でき過ぎだよ、ったく」
風がやけに吹き込む、郊外の駅のホームで次の電車を待ちながら、
何か他のカセットは無いか、デイパックのなかをまさぐった。何でもいい。今日はこの曲は勘弁してくれ。
漸く探り当てたカセットをウォークマンにぶちこむ。
ついでにポケットをまさぐると煙草がまだ残っていた。やれ嬉しやと火をつけ大きく吸い込む、
同時にPLAYボタンを押し込む。
お、サンハウスだ。柴山俊之が唄う。ニュー・キャット・フィッシュ・ブギ。鮎川誠のギターがうねる。
と、次の曲に移った。
スーツケース持って旅に出よう、汽車の切符を手に入れて、
もう二度としたくない、嗚呼、虚しき愛・・・♪
(スーツケースブルース 柴山俊之/鮎川誠)「ちぇっ」
堪らなく、酒が飲みたくなっていた。
(多分、続く)