R&R Fragments

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第3回
Re:
THE CLASH
From:
くむくむ
Dated:
'01/05/18

1982年のある夏の日、俺は部活の練習試合を終え、
全力で家に向かってチャリンコを漕いでいた。

目的は16:00から始まるNHK「ヤングミュージックショー」を見るためであった。
その日はCLASHの日本公演が放映される日だったのだ。

時計に目をやると既に1550分。これではいかん!
俺は必死になってチャリンコを漕いだ。汗が滝のように噴き出し首筋を流れ落ちる。

暑かった。

しかしその暑さは夏の日差しのせいでもあり、練習試合中にこっそりスポーツドリンクのボトルの中に忍ばせたウイスキーのせいでもあり、何より動くCLASHを見られるという過度な期待感からでもあった。
新田川沿いの土手を突っ切り、若浜小学校前を横切り、木川屋酒店前の小さな坂をブリットのマックイーンの如くバウンドさせ、マッドマックスのグースのようにチャリンコを二輪ドリフトさせながら玄関脇に突っ込み、靴を脱ぐとTVのスイッチを入れた。

ああっ、既に「ロンドンコーリング」が始まっている!

パンクと呼ばれたバンドの中で一番のお気に入りがクラッシュだった。
ピストルズのハチャメチャさもいいし、ダムドのポップさもよかったが、
クラッシュの音楽に対する姿勢がたまらなくカッコよかった。

ファーストアルバムは音的には確かにショボイいのだけれども、
当時は対訳の歌詞カードを読んでいくうちに、すごく意義と主張が感じられた。
ジョー・ストラマーのボーカルは一寸聞いただけだと、ガナリ声と殆ど変わらないのだが、
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代の自分には訳の分からない説得力があった。
何よりもその音楽性がアルバムを重ねる毎に変化していく様は
他のパンクバンドには見受けられなかったように思う。

ピストルズに影響されてクラッシュを結成した彼らではあったが、
音楽的なバックボーンは決定的に違っていたような気がする。
ファーストアルバムの「ポリスとコソ泥」(ジュニア・マーヴィンのカヴァー)では
いち早くレゲエを取り入れ、(当時この曲を演る時には「スティング、聴こえるか?これが本当のレゲエだ」と言っていたとかいないとか)
「I FOUGHT THE LAW」ではソニーカーティスのカバー(まだ日産のCMで流れてます)を演り、
「7人の偉人」では偶然にも現在のラップに近いスタイルを取り入れていった。
が、反面、「1977」という曲で「1977年にはエルビスもビートルズもストーンズもいらねえ!」と歌っている割には、ピートタウンゼントと一緒の写真に収まっていたりする。

シンプルな構成の割にサビの部分で“泣き”のフレーズが多いの印象的だ。
当時のパンクシーンでマイナーコードを使うバンドはそういなかった。
そのマイナーコードの使い方が日本人的に合っていたのもクラッシュが日本で受け入れられた要因の一つであろう。

「なんだよ、パンク、パンクって言ってるけど、
結局無茶苦茶ロックンロールが好きなんじゃねえかよー。」
というのがクラッシュに対する私の結論である。

逆に日本で評論家と称す連中が“パンク”というジャンルを定義しようとすればするほど、クラッシュはそこからはみ出しているように見えた。
別に髪の毛も逆立ててる訳でもなく(一時期ジョーがモヒカンにしてが)、
ファッションも中期くらいからロカビリーっぽくなったり。
ソフト帽やスーツを着ている時期も多かった。
(特にロンドンコーリングのプロモフィルムで全員がスーツを着て演奏しているシーンにはシビレた!)
それとパンクバンドと呼ばれるにしては他のバンドよりコーラスが入っている曲が多かった。
(ミック・ジョーンズの声って結構好きです。)

4人の個性(プレイも含め)も大きな魅力だ。

ボロボロのテレキャスを掻き毟りながら(まさにストラマー)鶏のような叫び声を上げるジョー・ストラマーの切なさに胸を打たれ、ミック・ジョーンズには「トミーガン」でのイントロのドラム1小節後の“ガガ〜ン”にヤラれ、ポールシムノン…日本公演の海賊版を聞いた限りでは、絶対俺の方が上手い(笑)。でもルックスは彼のほうが100万倍カッコイイ(当たり前か)。あの長身で白のプレべを膝までぶら下げ(弾きにくいのだが断然かっけー)、余り面白くなさそうな顔で弾いている姿は他のべーシストには真似出来ないカッコよさである。(シド・ヴシャスは弾き方は余りカッコイイとは言い難かった)写真集の中でも圧倒的にポールのカッコイイ写真が多い。トッパー・ヒードンの歯切れのいいドラミングが好きだ。8ビート一辺倒ではなく、タムを有効的に使ったドラミング多し。「ロンドンコーリング」では Aメロのハイハットの刻み方が4小節毎変えているのに気が付いた時には思わずニヤリとしてしまった。

そして、クラッシュは頭にクソが付くほど真面目で熱いバンドだ。こんな話がある。

ステージ終了後、ドレッシングルームにつめかけたファンの少年がジョーにサインを貰いながら語りかけた。
「クラッシュにしてはチケットが高すぎるよ、ジョー。」
「これが精一杯なんだ。ツアーをやる時は臨時のスタッフも必要だし、交通費やホール代も高くなった。信用してくれ、これがギリギリの線なんだよ。」
「でもジョー、すぐに用意できる金額じゃないよ。」
チケット代は2.5ポンド、約1,300円である。帰りのバスの中で、まったく無言のジョーを見ると、彼は涙を流していた。という。また、契約の際には「大儲けしようと思うな。我々のファンから搾取してはいけない。利益は活動が維持できる最小限のものに留めろ。」とマネージメントにジョーが言ったという話がある。あるカメラマンが偶然、ジョーを見つけ、写真をとっていいか聞いたところ、「撮りたい時に撮るのがパンクさ」といったそうである。

一切のギミック・ポーズ無し、男気の塊のようなバンド、それがTHE LASHである。

最後に…
「トライすらできないヤツが、やっている人間に何を言えるって言うんだ?」
…ジョー・ストラマー


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