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引き続きオマハ・シーンの話なんですが、なんと言ってもサドル・クリークというレーベルの存在が重要だと思います。ブライト・アイズのコナー・オバーストの作品をリリースするために、あなたの兄弟が設立したレーベルである、という風に聞いてるんですが?

Tim:惜しいね。近いけど違うよ。実際にレーベルを立ち上げたのは、コナーのお兄さんのジャスティン・オバーストさ。彼がコナー・オバースト名義の最初のカセット・テープをリリースするために金を貯めたんだよ。その後、コナーとジャスティンが一夏働いて貯めた資金で、僕の当時のバンド=スローダウン・ヴァージニアのアルバムがリリースされたんだ。その時はLumberjack Recordsって言ってたんだけど、ただ単に、地元のキッズが集まって自分達で作ったCDやカセットにレーベル名を表記して、少しでもオフィシャルに見えるようにしただけの(笑)、純粋にローカルなレーベルだった。要するに純粋な自主制作から始まって、いろんな幸運が積み重なってここまで大きくなったんだよ。

アメリカにインディー・レーベルはいっぱいありますけれども、サドル・クリークに関しては、すごく地域密着型のインディー・レーベルという特徴があると思います。あなたが考えるサドル・クリークの良いところとか特徴は、どんなところでしょう?

Tim:僕が最も感謝してるのは、自分の所属レーベルのボスが幼なじみである、ってことだね。どうしたって信用せざるを得ない。個人的にはそれが最大の利点だよ。どのバンドも経営側とこういうリラックスした雰囲気の関係にあるのが、このレーベルの特徴じゃないかな。確かに地域密着型ではあるけど、特にそう限ってるわけでもなくてね。たまたま友達関係が集まってるけど、外部のバンドに門を閉ざしてるわけじゃないし。でも、ずっと見てきて感じるのは、自分達の気に入った優秀なバンドをリリースすることは当然として、自分達と性格的にもうまくやっていけるバンドとサインすることの重要性だね。会って友達になれるかどうかは、かなり大切なんだ。誰もはっきりとは認めないけど、この内輪っぽい雰囲気は結構大事で、ずっと家族的な雰囲気を保っていきたいレーベルなんじゃないかな。

例えばカーシヴとかブライト・アイズぐらい大きな存在になると、絶対に複数以上のメジャーなレコード会社から声がかかっているかと思うんですけれども、そういうところに移ろうという気持ちは全くないんでしょうか?

Tim:僕は有り難いことに、音楽をやることでたくさんのものを得てきてるという実感があるし、本当に恵まれていると思ってる。ただ、ひとつだけ欲しいものがあるとすれば、ソングライターとして安定すること、いつまでもこの稼業を続けられることだね。だからメジャー・レーベルからのオファーは確かに魅力的な面もある。一段上のレベルに到達できるかもしれない、っていうさ。でもそうすると、さっき話したようなメリットは諦めなければならない。友達がやってる会社で、上司がいないような環境で仕事ができるっていうメリットをね。サドル・クリークは本当にいい仕事をしていて、ブライト・アイズやカーシヴ、ザ・フェイントを通じて、どんどん結果を出してる。だから、このレーベルを離れる理由は特に思いつかないんだよ。たとえば自分の顔写真が町を走ってるバスの車体広告になってるのを見たければ別だけど。僕はそういうことをまったく重要視してないんで、問題ないんだよね。メジャー・レーベルに関しては面白いエピソードがいろいろあるよ。例えば、ある会社は、ザ・フェイントを欲しいがために、サドル・クリーク・レーベル全体を買いたいって言ってきたんだ。無茶苦茶だよね(笑)。

でも、そういうことは実現しないだろう、と?

Tim:インディペンデントとして経営すること自体、リスクを背負ってるわけで、そうやって長年やってきてるんだからね。毎年、そうすることに価値があると改めて確認し合って続けてきてる。最初の頃は大変な時期もあったけど、ここまでがんばって来れてよかったと、みんな思ってるんだ。だから買収されるようなことは、僕には想像できないね。サドル・クリークのオーナーであるロブは、これが駄目になったら、あっさりレコード屋の店員に戻りそうな奴だし、メジャーの傘下に入って指図されることには興味なさそうだよ。

分かりました。ところで、オマハのミュージシャン達とこれまで接する機会を持って感じたことがひとつあって、他のインディー・シーンに所属してる人達っていうのは、わりとメインストリームの音楽に対してアンチの姿勢を持ってることが多いんですけども、あなたやザ・フェイントのトッドなんかと話をしていると、意外と偏見なく、いわゆるトップ40に入っているようなヒット・ソングにも屈託なく接しているみたいなんですが、どうですか?

Tim:みんながそうってわけじゃないけど、僕やトッドみたいにリラックスした姿勢で音楽を聴いてる奴は多いね。僕なんか、人によっては最低な音楽と呼びたくなるようなものまで聴いてたりするし(笑)。トップ40に入ってるカントリーとか、ダサいのは分かってるけど聴くのは好きなんだ。B級映画を観る楽しみと似てるかな。B級音楽も面白いよ。常に動いてるアメリカのポップ・カルチャーをフォローすると、アメリカっていう国の声が聞こえてくるんだよね。それは残念ながら、ひどい状態になってる時もあるわけだけど……今なぜ、トップ40に入ってるカントリーが気になるかっていうと、愛国心を鼓舞するような歌が多くてね。なにしろ今は戦時だからさ。そういう歌って、個人的にはひどく醜悪なものに思えるけど、同時に、今のアメリカの声を聴かされてるようで妙に惹かれるんだ。そう、僕はどんな音楽でも偏見なしで聴く方だよ。

なるほど。あなたはこのところ、プリー・フォー・ピースやロック・ザ・ヴォートといった社会活動にも積極的に参加していますよね。そうした政治意識の高さを示す一方で、創作物にストレートな政治性は、ほとんど表われていないように見えます。これは何か、とくに厳密な線引きがあるのでしょうか?

Tim:そうだね、僕が個人的に活動していることと、作る音楽とははっきり分けるようにしている。僕自身、政治的なアーティストではないし、アートは政治的なことを訴える手段ではないと思ってるんだ。いろんな活動に参加している理由も、どちらかというと頼まれたからっていうのが大きいね。確かにカーシヴのメンバーとしては、政治にもすごく関心があるし、その時々で起きてることにはいつも気を配ってきたよ。だから、いろんな問題について、発言したり行動するように頼まれればやってきたし、それは今も変わってない。でもこれからも、そういう活動と作品ははっきり分けていくつもりなんだ。

では次に、つい先頃(15日)にニューヨークで行なわれたサドル・クリークのショウケース・ライヴに参加した時の感想を聞かせてください。

Tim:すごくよかった。ザ・フェイントとサン・アンビュランスのステージを観ることができたし、しばらく観る機会がなかった同郷のバンドも観ることができた。みんなずっと友達であることには変わりないけど、それぞれに忙しくなって会う機会が少なくなってたからね。ザ・フェイントやサン・アンビュランスがオマハでプレイする時、僕がツアーでいないってことも多くなってたんだ。だから、彼らと同じステージでやれたのは嬉しかったな。みんな素晴らしかったよ。ザ・フェイントは本当にいい状態だね。ブロークン・スピンドルズやビープ・ビープとはロンドンでも一緒にプレイしたから、既に観てたけど(笑)。オマハでは観れなくても、外国で一緒になることもあるっていう例だね。

ちなみに、そのショウケース出演時までは髭をのばしてたみたいなんですけども、今はなくなってますね?

Tim:(笑)実は日本と関係あるんだ。前回の来日も11月、ちょうど1年前なんだよね。ハロウィーンを日本で過ごしたのが2回目だから覚えてるんだけど(笑)。日本にハロウィーンの習慣がなくて残念だなぁ、って思ってたから(笑)。で、1年前に日本へ来た時にたまたま髪が伸びてて、散髪に行ってね。みんなに「その髪型いいね」って言われて、何気なく「じゃ、これからは日本で散髪することにしたよ」って答えたんだ。その後ずっと、髪を切りに行くのを先延ばしにしてて、そのうち髭も伸ばすようになって――プライベートでいろいろ辛いことがあった1年だったんでね……酒を飲み過ぎたり、彼女とうまくいかなかったり……そういう時って、身だしなみなんかどうでもよくなったりするじゃない(笑)? それで今度は「人生が再び軌道に乗るまで髭を剃らないことにしたよ」なんて口走ってて。でも、なんとか今こうしてさっぱりした姿に戻れてよかったよ。日本にも来れたことだし、明日は約束通り、散髪に行くつもりさ(笑)。

では、また来年も日本に髪を切りに来てくださいね。

Tim:そうだね。今度は半年ぐらいで来たいな。1年は伸ばしすぎたよ(笑)。

ところで、先頃キュアーをヘッドライナーにしたCuriosaというフェスティバル・ツアーにカーシヴとして参加しましたが、その時の感想を聞かせてください。

Tim:ハード・ワーキングな、規模の小さなバンドであるカーシヴにとって、あのフェスティバルは休暇みたいなものだったよ。仕事とは思えない仕事だった。タイミング的にもよかったしね。2年半から3年ぐらいずっとツアーしっぱなしで疲労が溜まってたとこだったんだ。メンバーの中には「これ以上ツアーするのはなぁ……」って言ってた者もいたんだけど、でも何せ相手はキュアーだからね。やってみたらエキサイティングだったし、評判もよかったよ。キュアーのメンバーはみんな格別にいい人達だった、ジェントルメンって感じでね。せっかくの機会を無駄にしないように、彼らのステージは毎晩観るようにしてた。他にモグワイやラプチャーのステージも観れたし、本当に心から楽しめたツアーだったね。

そこに登場してた若手バンド達は「キュアーの子供達」というような言い方をされたと思うんですけれども、そういう括りにまとめられてどういう感じがしましたか?

Tim:何よりも、すごく名誉あることだと感じてるよ。出演バンドは、ロバート・スミス本人が選んだっていう話だからね。彼のような人が自分達のファンでいてくれるなんて本当に光栄だよ。だって10歳の少年だった頃からキュアーを聴いてきたんだから。生のロバート・スミスに会えるだけでも嬉しいのに、顔を合わせるたびにロバート・スミスに感謝されるなんて体験は、まるで現実じゃないような、シュールなものだったな――全てがあべこべの世界に迷い込んだような。本来ならば、僕の方がロバート・スミスに感謝しなければならない立場で、彼のような人が僕のことを知ってるだけでも驚きなのに。まあ、僕はこれまでに相当ロバート・スミスと比較されてきたからね、それはそれはうんざりするほど(笑)。で、ロバート・スミスに気に入られることが「キュアーの子供達」の1人であるということなら、喜んで彼を「お父さん」と呼ばせてもらうよ(笑)。

(笑)もうひとつ、先頃『My Favorite Songwriters』というコンピレーション・アルバムに、ソロで楽曲を提供しましたが、意外にも打ち込みのエレクトロニック・ポップ風な曲になっていてちょっと驚きました。アルバムに参加した経緯と、あの楽曲を作った時のことを教えてください。

Tim:あれは、サイドアウトの特使としてアメリカに来てたケンジの「何かワイルドで変わったものを作ろう」ってアイディアが基になってるんだ。僕がそういうものを頼まれるとしたら、普通だったらアコースティックな曲を提供するんだろうけど――コンピレーションに入れられそうなそういう曲なら充分あるしね。でもその時点で、何かいつもと違う、意外性のあることに挑戦したい気分になってたんだ。実際、さっき話した、トップ40ものを聴いてるっていうことにも関連するけど、トップ40ものに近いようなエレクトロニック・ポップを自分でやってみるのも面白いんじゃないかって思ったんだよ。しかも、ちょうどラップトップ・パソコンを買ったところで、Reasonというプログラムを使い始めたところだったんで、あの曲は純粋にReasonだけを使って作って、それに歌を乗せたものにした。プログラムを使いこなせるようになる練習としては最適なプロジェクトだったね(笑)。

アルバム全体はもう聴きましたか?

Tim:うん、聴いたよ。

他の人達の曲についての感想を聞かせてください。

Tim:すごくエンジョイできた。本人には信じてもらえないかも知れないけど、吉野とM.A.G.O.が共作したあの変わった曲がいちばん気に入ってる。すごく奇妙な感じだけど、そこがよかったね。クレバーで工夫に富んだ曲だし、同時にとてもキャッチーだし。よく頭の中で鳴ってるよ。

では最後に、この日本公演を終えて帰ってから、今後の活動の展望みたいなことを訊いて終わりにしたいと思います。

Tim:次にどんなことをするべきか、どんなことをしたいのか、正直言って完全に未定(笑)。まだ自分でも分かってなくてね。次のカーシヴのアルバムを作るべきだとも思うし、次のグッド・ライフのアルバム用の曲はもう書き始めてるよ。でも今、実際にやりたいなと思ってるのは、曲を書くことよりも、映画の脚本を書くことなんだ。どうなるか分からないけどね。でも、その3つのうち少なくとも1つは、あと2年ぐらいのうちにはできるんじゃないかな。まずオフが少しあって、それからグッド・ライフでのヨーロッパ・ツアー、そしてUSツアーが予定されてるけど、それ以降は今のところ決まってないんだ。

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