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Tokyo, 2005.10. 30.
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Kyoko Fukuda
translation by Ikuko Ono
photo by Hidetomo Hirayama

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 不思議な縁で、カーシヴの『アグリー・オルガン』が日本でリリースされて以来、もうティム・ケイシャーには何度もインタビューさせてもらっている。現在のアメリカン・インディー・ミュージック・シーンで最も重要な表現者である彼とこのように接する機会を持てるのは、本当に光栄の極みだ。カーシヴとは別のプロジェクト=ザ・グッド・ライフとして最新作 『アルバム・オブ・ザ・イヤー』を発表し、その年の暮れに来日を果たした際にももちろん話を聞いたのだが、この時は地方公演がなく、イースタンユースとヴェルヴェット・ティーンのライヴに客演する間ずっと東京に長期滞在することになり、メンバー達は日本の生活を目いっぱい満喫していたという状況もあって、取材に関しても余裕のある空気の中ゆっくり行なうことができた。おかげでかなり豊富な内容のテキストになったと思う。じっくりと読んでください。

「カーシヴは音楽中心で、グッド・ライフは歌詞とかメロディーを生かすバンドっていうふうに分けてるんだ」

再会できて嬉しいです。調子はどうですか?

Tim:こないだ本国でのツアーが終わったばかりなんだけど、アメリカ国内を30カ所ぐらい回って、自分達としてはプロらしいショウができてる実感があるから、とても満足しているよ。

今回はグッド・ライフとしての来日が実現したわけですが、違うバンドで2度目の来日って、どんな気分でしょう?

Tim:カーシヴで来られたことだけでもラッキーだと思ってたのに、さらに別のバンドでも呼ばれるなんて、本当に名誉なことだよ。最高の賛辞のように感じられるね。イースタンユースのオープニングとして彼らと同じ観客の前でプレイできたこともよかったと思ってる。グッド・ライフの音楽とは対照的な、ラウドなロックを求めて会場に来たオーディエンスでも受け入れてくれるんだ、ってことが分かったし。少なくとも僕にはそう思えたよ(笑)。勘違いじゃなければね。

グッド・ライフのライヴって、もっと静かでじっくり聴かせるような感じのライヴになるのかなと思っていたら、昨日のショウを見た限りでは意外とロックっぽくて、音もラウドだったので、ちょっとビックリしたんですけれども。

Tim:やっぱり普通みんながライヴで聴きたいようなタイプの曲っていうのはハイ・エナジーな曲で、僕らはそういう曲もたくさん書いてるし、だからそういうセットリストになる傾向があるだけだよ。昨日のセットは、向こうでのツアー中にずっとやってたセットと変わらない。イースタンユースとの対バンってことで、全部ロックな曲だけにしたセットリストにしようかとも一瞬考えたんだけど、そうすると、このバンドに対して間違った印象をオーディエンスに与えてしまうと思って止めたんだ。

特に意識して変えたところはないとしても、グッド・ライフはカーシヴに比べると、あなたの歌がまず中心あって、そこに伴奏がつくようなイメージを僕は持ってるんですね。それが昨夜のライヴでは、すごくバンド・サウンドになっていてビックリしたんですけれども、これは次第に変化してバンドらしくなってきたのか、あるいは以前からツアーではバンドっぽかったのか、そのどちらなんでしょう。

Tim:あ、今、昨日のショウで普段と違う点がひとつあるのに気付いたけど、それは日本でリリースされている曲を重点的に選んだ、ってこと。普段は演奏するけど昨日はしなかった曲っていうのが幾つかある。もっと正確に言うと、アメリカでヘッドライナーとしてやる時と違って、時間の関係でプレイできなかったのは、特に弾き語りの部分だね。君の言ってるイメージはその辺りのことじゃないかな。グッド・ライフのそういった要素は、時間的な制約から昨日はそんなに披露できなかった、ってことなんだ。

なるほど。じゃ、もしかしたらこの後に予定されている1日と4日のライヴを観ると、また印象が変わるかもしれないですね。

Tim:そうだね。まぁ、時間がどれぐらいもらえるかにもよるけど、様子を見ながら他の曲を演奏する可能性はあるよ(※筆者注:11月1日のヘッドライナー公演では“ジェラス・ガイ”の弾き語りカバーとかやってました)。

楽しみにしてます。さて、昨夜のライヴでは、ドラマー以外の3人はみんなキーボードを弾いたり、ベースとギターを持ち替えたりしてましたが、その辺の役割分担はどういう風に決めているんでしょう?

Tim:カーシヴを含め普通のバンドは、各メンバーのパートが最初から決まってる。でもグッド・ライフの場合は全く自由なんだ。曲の方向性は実際にやってみるまで分からないんだよ。例えばベースは要らないかもしれないし、アコーディオンが入るかも知れない。アルバム制作の段階から、あるメンバーがベース専門であったり、キーボード専門であったりする必要はない、っていうアプローチ。ステージでの役割を分担する時も自由に組み立てていくから、結果として、アルバムではキーボードを弾いてるステファニーがステージではベース、ギターを弾いてるライアンがキーボードを弾いたりとかもしているよ。ステージでスタジオ盤のサウンドを再現しようとすると、たまたまそうなるだけなんだけどね。

じゃ、わりとその場のノリで「ここは私が弾く」とか「僕が弾く」とかいうような感じで決めているんですか?

Tim:ただ、即興演奏はほとんどないよ。誰が何をどう演奏するかはほぼ決まってる。まぁ、昨日のライヴなんかでも、ちょっとずつあちこちでインプロヴィゼーション的なことはやったけど――曲間とかイントロの部分でね。一方カーシヴでは即興を推奨してて、徐々に増えてるし、かなり上達したと思うけど……カーシヴはグッド・ライフより7年長くやってるわけだし。

そういう自由な感じっていうのは、グッド・ライフというバンド自体が、そもそもはソロ・プロジェクトの延長として始まっていたということによるところが大きいんでしょうか?

Tim:うん、たぶんそうだろうね。僕としては今後も同じような形で続けていきたいと思ってる。だんだん、ライアンはギターでステフはベース、っていう分担に固定されてきてる様子もあるから、逆に将来的にはもっと関係なくしていきたいんだよね。一緒に曲作りをする期間が長くなるほど、暗黙のルールみたいなものが生まれてくるんだけど、そういうのは無視して多様性をキープできるように働きかけるつもりなんだ。

最初はソロで始まって、ライアンが入り、ロジャーが入り、ステファニーが入りという感じでバンド・メンバーが決まってきたようなんですが、彼らとはどういう風に知り合って、どういう経緯でこのグッド・ライフというプロジェクトに参加してもらうようになったのか、そのいきさつを簡単に教えてください。

Tim:ファースト・アルバムは完全に自分ひとりで作ったんだけど、ツアーに出る時にバンドが必要だったから、まずロジャーと他数人に手伝ってもらったんだ。それからいろんなメンバーに出たり入ったりしてもらいながら現在に至るって感じで、結果的にロジャーには最初からずっといてもらってるね。ライアンは『Black Out』の数ヵ月前に入って、ステファニーは『アルバム・オブ・ザ・イヤー』のEP(『Lovers Need Lawyers』)の曲作りを始めた頃に入った。ロジャーとライアンは、2人ともオマハ出身にも関わらず、彼らとプレイしたことのある共通の友人に紹介されるまで知らなかったんだ。ドラマーを探してる時にロジャーを推薦されて、話してみるとウマが合ってね。親友のダン・ブレナンという男が、僕がグッド・ライフというプロジェクトをやってることを知ると、やたらライアンを薦めてきたんだ。『友達のライアンという奴が音楽をやりたがってるんだけど、いろんな楽器ができるし、連絡してみたら?』ってね。実際、会ってみると本当にクリエイティヴで才能豊かなやつだったんで、すぐに打ち解けたよ。ステファニーの場合は、一緒にプレイしてる期間が短いわりに、実はいちばん古いつき合いだね。彼女はロサンゼルス出身なんだけど、1996年に彼女のバンドがおんぼろのバンに乗って(笑)全米を回りながら小さなショウをやってた時に、ネブラスカで泊まる場所を探してたんで、家に泊めてあげたんだ。なぜ僕の所かっていうと、彼女たちはスローダウン・ヴァージニアのCDが気に入ってて、なんとレコード屋で僕の住所を聞き出したんだって(笑)。ある日突然、全く知らない人達から電話が会って、自己紹介が終わるなり泊めてくれって頼まれたわけ(笑)。その時に家に5日間泊まっていって以来、ずっといい友達だよ(笑)。

へぇ(笑)。1996年というと大学生の時ですか?

Tim:僕は大学に行ってた。あ、ステファニーとは大学で一緒だったわけじゃないよ。彼女はLAからギグをやりに来てただけだから。

なるほど。で、最新作の『アルバム・オブ・ザ・イヤー』なんですが、リリース前にもカーシヴとして非常に忙しく活動していながら、いつの間に作曲して、レコーディングしていたんですか?

Tim:ああ、そういうのはどうにでもなるから(笑)。僕は暇さえあればいつでも曲を作っているし、ツアーをかなりまとめてやったぶん、今はそれなりに時間もあるし。でも、今度のグッド・ライフのレコードに入ってる曲には、カーシヴの『アグリー・オルガン』を作る前に書いておいたものもある。だから、このアルバムには、2年半の間に、時間を見つけては書きためてきた曲が入ってるんだよ。

前回やらせてもらったインタビューで、「もう自分の心情をストレートに歌うのではなく、フィクショナルな歌詞を書くように変えていくつもり」と言ってましたが、そのような変化を経てもなお、“For The Love Of The Song”のように、リアルタイムで自らの心情を歌い綴っているような曲もありますよね。

Tim:うん、あの曲はそうだね。

今後ああいう曲を作ってしまうことはありえますか?

Tim:いや、これから先しばらくはないと思う。先行で出したEPの方には何曲か、僕自身のこととか、曲作りについて歌ってる曲があるんだけど、さっき言ったようにそれらは全部かなり前に書いた曲なんだ。2年くらい前だったはずだよ。あえてEPに入れたのは、こういう、『アグリー・オルガン』に入ってたような、自分についての曲を書くことは、もうこれが最後かもしれないな、っていう気持ちもあったからなんだ。あの当時は曲を書くこと以外、ほとんど何もしていないような状態だったから、自分について何か書くとなると、もう曲作りそのものしかテーマがなくて、それであんな曲ばかりになってしまって(笑)。そういうことを経て、架空のストーリーを作る方向に気持ちが向かったっていうのもあると思う。常に前とは違ったスタイルの歌詞を書いていきたい気持ちがあるからね。このアルバムも、そういう思いで作ったものだし、その方がやりがいもあるしさ。もちろん、架空のストーリーを作っていくより、自分の身に起きたことだけをテーマに曲を作るほうが、楽には決まってるよ。でも僕は、楽な方に流れるよりも、いろいろな新しいアイディアを試していきたいんだ。

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