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わかりました。ところでバンドの名前はセオドア・レトケという米国の詩人の詩の一節から取ったそうですが、どういった理由からこの名前をつけたんでしょう?

Yva:彼の作品は数多く出版されてるんだけど、その中でもごく初期にある雑誌が彼の作品を掲載したことがあって、彼は編集者である女性に感謝の意を表すために、一篇の詩を彼女に書いて送ったらしいの。で、その中で彼は、当時もらった掲載料の75ドルについて「Thank you for the sweet 75(素敵な75ドルをありがとう)」と謳ってるわけ。

Krist:すごく素敵な響きの言葉だし、それに俺たちセオドア・レトケの大ファンだから。

それにしても、このアルバムを聴いてると、クリストが幅広い音楽性を持った人だということが改めてわかるのですが、ニルヴァーナをやっていた時に、バンドの中でもっと自分のこういう音楽センスをアピールしようとしなかったのはどうしてだったんですか。

Krist:ニルヴァーナの時も俺ならではの音楽センスを注入してたと思うよ。ベース・ギターに対するアプローチの仕方自体が独特だったと思うしね。つまり俺は、曲の持つ方向性を見極めて、俺のベースがちゃんとそれと同じ方向を向いて曲に貢献するように、俺のベースによって曲が完成するように常に確かめながらプレイするっていう、そういうアプローチでやっていたんだ。曲の方向性とは別の新たな視点を取り入れてプレイするっていうのは俺の流儀じゃないんだよ。さらに今回のアルバムに関して言うと、俺にとってこれは新たなスタートになるわけだし、メンバー全員にとっても新しいエキサイティングな経験なわけで、レコーディング中も音楽的な限界っていうのがまったくなかったんだ。しかも俺たちみんな熱中してすごくオープンになってたから、すべての助言に――シリアスなものも――耳を傾けたんだ。経験豊かなプロデューサーであるポールと仕事ができたのもすごい助けになったね。彼のお陰でホーン・セクションもちゃんとした音が出せたし、曲に対して妥当なサジェスチョンをしてもらえたし。あとは、俺が興味がある音楽に俺が共感できる音楽、ただそれだけなんだ。それはイヴァも同じだと思うけど。

Yva:ええ。

Krist:そうなるとジャンルも境界線も何もなくなっちゃうんだよね。たとえばイヴァの家に行って彼女のレコード・コレクションを見せてもらうと、俺のコレクションとそっくりなんだよ。ジャンルにかかわらず共感を覚えた音楽が全部置いてあるからさ。カントリー&ウエスタンであれフォーク・ミュージックであれロックンロールであれね。ひとつのジャンルだけしか聴かないなんて、自分を制限してることになるし、他のいろんな音楽を見逃してることになるじゃないか。それじゃ農業の単一栽培と同じだよ。でもやっぱり自分の農場には一種類だけじゃなくていろんな種類の作物を植えたいと思うだろ? そうやってこそ申し分のない農場になるんだからさ。

その結果、オリジナル・ブレンドと呼んでもいいような、多様なものがミックスされたサウンドが誕生したわけですが、一方でファンの反応という点に関してはどうですか? ギグを始めた頃はニルヴァーナ・ファンが大挙して会場に詰め掛けたそうですが、今やっているような音楽とは違うものを期待していたかもしれないファンに向かって演奏するのは、やはり奇妙な感じでしたか?

Krist:そうだな、まあ楽しかったよ。でももちろん大勢の人がバンドに興味を持って観に来てくれるのはすごく嬉しいし、感謝してるんだ。こうしてはるばる日本からインタヴューしてもらえることもすごく感謝してるしね(笑)。

Yva:ええ本当に、ありがとう!

Krist:だからみんなが関心を抱いてくれてるのは素直に嬉しいよ。俺たちはこのアルバムを作るために長い間一生懸命頑張ったわけだし、今ようやくみんなに聴いてもらえる状況になったって実感してるしね。俺たちにとって一番重要なのは、大衆とつながり合うってことだったし……。

Yva:ええ、だからわたしたちが最初に目標に掲げたことは全部達成できたと思ってるの。

Krist:もちろんまだそんなにギグもやってないし、レコードを聴いてくれた人もほとんどいないとは思うけど、そんな中でも一番多いのは「想像してたのと違う」っていうリアクションでさ。みんな嬉しい驚きを感じてくれてるんだよ。何から派生したのでもないまさにオリジナルなサウンドだと思ってくれたみたいなんだ。それにみんな、本当に色とりどりな言葉を使って印象を説明してくれるんだよな。「ツェッペリン風」とか「チャーミングかつ奇妙」とか「ニュー・ウェイヴ・ラウンジ」とかね。

Yva:(笑)パンク・ロックからラテン、ソウル、ジャズに至るまで、いろいろ言われたわ。

Krist:俺たち「みんなのコメントを全部取っとこうぜ」って言ってるんだ。聞いてると結構おもしろいからね。

Yva:みんながバンドのことをどういうふうに思ってるかがわかるし。

Krist:意見を聞くのがすごく楽しいんだよ。

さて、あなたはかつて「メインストリームではない良質な音楽の存在を皆に気づかせるのが我々の使命だ」と語っていたことがありましたが、その気持ちは今も変わりないですか?

Krist:ああ、たとえば“Cantos De Pilon”をレコーディングしたいと言った時のイヴァの考え方も、すごく興味深いものだったしね。

Yva:つまり、このわたしたちがレコーディングしなきゃ、ほとんどの人がこういう音楽の存在を知らずに終わってしまうということなの。そりゃヴェネズエラに実際行ってもらえたら一番いいんだけど、そんなの簡単にできるわけないし。だからわたしたちは、わたしたちが紹介しなきゃみんな一生接することのないような音楽を紹介しているのよ。

Krist:大体、ヴェネズエラ民謡を聴くチャンスのあるニルヴァーナ・ファンなんて、何人いる? 今回のアルバムで俺たちが成し遂げた一番すごいことは、“La Vita”や“Cantos De Pilon”といった曲が、アルバム全体のコンテクストに何の無理もなく気持ちよくフィットしてるってことなんだよ。

はい。そういった使命以外に、今成し遂げたいこと、責任を感じてることってありますか?

Krist:質の高い音楽を大衆に届ける責任があるとは思ってるよ。特にこれまでの俺の経歴のことを考えるとね。元ニルヴァーナってことですごく期待もされてると思うから。でも俺たちにできるのは、人々とつながり共感し合えることを望む、それだけさ。

Yva:ええ、最善を尽くして音楽を作ることによってね。

ところでフー・ファイターズのニュー・アルバム(『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』)はもう聴かれました?

Krist:もちろん。

Yva:彼らのことは大好きよ。

どんな印象を持たれました?

Krist:グレイトだと思ったよ。フー・ファイターズの音楽を聴くといつも興奮しちゃうんだ。デイヴとやってた頃のことを思い出すし、それに奴のドラマーとしての真髄、つまりすごくポジティヴでパワフルでおもしろいっていう特質が、あのバンドの真髄として引き継がれてると思うんだ。

Yva:要するに、ロックンロール!

Krist:そう、ロックンロールさ。それにデイヴは俺たちのために道を開いてくれただろう? まず最初に奴がシーンに復帰してレコードを2枚出して、「ニルヴァーナの幻影の向こうにも人生があるんだ」ってことを証明してくれたんだ。奴も俺も前進して音楽を作り続けていいんだ、大衆もニルヴァーナ云々じゃなく作品そのものの出来によって俺たちを評価してくれるだろうってことを、デイヴは示してくれたんだよ。それに、俺たち二人ともニルヴァーナの一員だったことを否定してはいないんだ。あのバンドの音楽、遺産、俺たちが成し遂げたすべてのことを誇りに思ってる。でもその一方でどんなものにも終わりはあるわけで、それが人生だとも思うんだよね。だからフー・ファイターズ、そしてデイヴの功績は、俺たちにとっても利益以外の何物でもないよ。

95年の7月22日に、BremertonのSeattle-Kitsap Pavilionで行われたフェスティヴァルを僕も観てるんですが……。

Yva:ああ、ニュー・ドラマー(アダム・ウェイド)とやった初めてのライヴね!

ええ、あの時デイヴ・グロールは、あなたの前説で「フー・ファイターズ!」と紹介された瞬間、「懐かしさと嬉しさで胸が一杯で、言う言葉も見つからないほどたまらない気持ちになった。あの時のことは生涯忘れない」と話してくれたんですが、あなたの方はあの日、どういうことを考えていたんでしょうか?

Krist:俺はただひたすら仰天してたね。何しろ俺の元同僚たちがJAMPACの大儀を支持し信じて、貴重な時間を割いてステージに出てくれたんだから。すごく謙虚な気持ちになったよ。

Yva:わたしもあの瞬間のことは覚えてるわ。フー・ファイターズを紹介した時のクリストの言葉が忘れられないのよ。確か「驚愕のバンド(amazing)フー・ファイターズの登場です!」って言ったのよね。友達のことをすごく誇りに思ってるんだってことが、とてもよく伝わってきたわ。

Krist:その通り。本当に誇らしかったんだ。パット(・スメア)もデイヴもいて、しかもあの暗く悲しい出来ごとの後にようやく明るさと継続と希望と未来が見えてきたって感じがして、とにかく感激したんだよ。

僕も全く同じように感じて感激していました。ところで、スウィート75としての活動が軌道に乗る前に、あなたはニルヴァーナのライヴ盤『フロム・ザ・マディ・バンクス・オヴ・ザ・ウィシュカー』の編集作業を手がけたわけですけど、あれは過去に起きたことに区切りをつけ、スウィート75として前進していくためにやったことだったのでしょうか?

Krist:あのアルバムをやったのにはいろんな理由があるんだ。あの時すでにスウィート75は動き始めてたし、このバンドのことが最優先だったわけだけど、そんな時にあのライヴ・レコードの話が来て、いろいろ考えた末に、すごくいい企画かもしれないって結論を出したんだ。そしてこの時も、俺にできる限りの最高の作品を編集するんだっていう使命感を抱きながら仕事をしたよ。だからあのレコ−ドはすごく誇りに思ってるし、ニルヴァーナというバンドに自分が関わっていたことも誇りに思ってる。だけど人生はこの先も続くんだからね。

では最後に今後の予定ですが、この夏はずっとツアーに出るんですか?

Krist:夏だけじゃなく永久にツアーしてるよ。このアルバムのプロモーションに懸命なんだ。最高のレコードを作ったと自負してるし、大勢の人に聴いてもらいたいしね。だからこそいわゆる音楽業界の仕組みに自らも加わったっていうか。

Yva:器官の一部になったっていうかね(笑)。

Krist:そして前に進み続けてるんだ。

ショウの方は、ホーン・セクションなしの、飾り気ゼロのロックンロール・ライヴになっているわけですね。

Krist:今の段階ではね。

Yva:3人だけでやってるし。

Krist:誰かのオープニングをやる時は、大体45〜50分のセットでラウドなアンプにラウドなドラム、それにめちゃくちゃラウドなヴォーカリストでロックしてるんだ。イヴァにはPAすら必要ないからね。彼女に合わせてアンプもドラムも音を大きくしてるんだよ(笑)。とにかくいつでも世界と相対せる態勢が整ってるから、そのうち君の街でも大暴れするぜ(笑)。何しろ俺たちはパン・アメリカン・バンドだからな。

じゃあ日本でも近い将来お会いできることを楽しみにしています。

Krist:ありがとう!

Yva:わたしも楽しみにしてるわ。

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