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Tokyo, 2000.5
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation Kyoko Matsuda
translation by Ono Ikuko

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ワン・ミニット・サイレンスは、90年代後半のイギリスでは数少ないヘヴィ・ロック勢の中でもさらに数少ない「頼もしさを感じさせてくれる」バンドだ。その理由は、ここに掲載したインタビューを読んでもらえれば分かる通り、彼らには音楽活動を続けていく上での揺るぎない信念があるからだ。ヴォーカリスト兼スポークスマンであるブライアン“ヤップ”バリーの、アイルランド人らしい熱血感あふれた言葉に触れてみてほしい。

「誰にも伝わらないから、言いたいことを言うのをやめる、なんてことは僕にはできな い。そんなのアパシーだ」

セカンド・アルバム『バイ・ナウ…セイヴド・レイター』は、デビュー作以上に素晴らしいものを作ってくれたなと思いました。特に“ホーリー・マン”と“フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター”は、スピードばかりで押し通すんではなくて、ちょっとテンポを落とした曲ですけど、すごく説得力のある曲になっていますね。

Brian:今回のアルバムは、僕らが最初から目指していたものなんだ。ファーストの頃はまだバンドとして未熟だった。比較的新しいバンドだったから、学ぶべき事も多かったし。もちろん、夢にまで見たデビュー・アルバムだったけどね。前作の曲はほとんど、僕と前のギタリストとで作った曲だった。で、ファーストを作り終えた後、僕とベースのグレンで曲を書き始めたんだけど、まさにそれが“フィッシュ〜”と“ホーリー・マン”なんだ。次に新ギタリストのマッシーが加入したんだけど、彼のスタイルは僕らのそれと実によく一致していた。僕らのファーストにのめり込んで、ショウを観に来てくれてたしね。そんな彼のスタイルもかなり僕らの音楽に彩りを添えたと思うよ。とにかく、バンドとして発展するにつれて、よりダイナミックなサウンドになってきたし、僕らが子供の頃に聴いていた音楽の影響が素直に出るようになったんだ。昔好きだったもののサウンドを、僕らなりに再解釈して、それを自分たちのアイデンティティーにしているんだ。今の時代にオリジナリティーというものはもう存在しないと思う。自分たちのスタイルを持つということは、ある特定のジャンルの中で自分のアイデンティティーを確立することだ。後は人々に喜んでもらえるのを祈るしかないよ。

その、子供の頃に聴いていた音楽というのは、アイルランドのトラディショナルな音楽のことなんでしょうか?

Brian:そうだね。ご承知のように僕はアイルランドで生まれ育った。家族全員がアイルランドの伝統楽器を演奏するから、アイリッシュ・ミュージックは僕の人生に深く刻まれている。アルバムの“ワーズ”や“ホーリー・マン”といった曲では、メロディにアイルランド的な要素が認められると思う。伝統的なアイルランド音楽に詳しくなければ気づかないだろうけどね。僕の歌い方は古典的なロック・シンガーとは違って、自分が親しんできたスタイルをミックスさせたものだ。いかにもアイリッシュなサウンドにすることなく、アイリッシュな要素を取り入れたかったんだ。ヘヴィ・ロックのサウンドはキープしたかったからね。とにかく、アイルランド音楽と家族の影響は大きいし、それ以外にはレッド・ツェッペリン、AC/DC、ブラック・サバスなんかにも多大な影響を受けている。新しめのところではパンテラ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、トゥール、メタリカ、それからバスタ・ライムス!(笑)。好きなバンドはたくさんいるし、スタイルもいろいろだ。バンドとしても、今後もいろいろなスタイルを取り入れていきたいね。次のアルバムではスペイン音楽なんかもいいかもしれないと考えてる。グレンのルーツがスペイン系だからね。いろんな可能性があるよ。

今あがったバンド名の中で、イギリスのバンドは70年代のレッド・ツェッペリンだけで――

Brian:ブラック・サバスもそうだけどね(笑)。

そうでした(笑)。ただ、どっちも古いバンドですよね。実際に今のイギリスのシーンでは、あなたたちみたいなヘヴィ・ロックをやっているバンドはイギリスにはすごく少なくて、スカンク・アナンシーくらいしか思い浮かばないんですけれども。

Brian:確かにそうだね。

自分たちがイギリスの音楽シーンで、ちょっと浮いている存在だな、という風に感じたりすることはあるんでしょうか?

Brian:いい質問だ。このジャンルはここ10年間、あまりにもアメリカのバンドに席巻されてきた。そのために「メタル・ミュージックはイギリス生まれ」ということが忘れられている。パンテラのルーツはブラック・サバスだし、AC/DCはレッド・ツェッペリンにラップを乗せたようなものだ。ほとんどのメタル・バンドは、イギリスのバンドを手本にしてるんだ。まあ、そのイギリスのバンドたちは元々、アメリカのブルーズに影響を受けて出てきたんだけどね(笑)。ここ10年間のイギリスのシーンは、インディー・ミュージックとダンス・ミュージックに支配されていた。オアシスとかブラーとか……。でも実はイギリスのヘヴィ・メタルにもいいバンドはたくさんいるんだよ。ただ一般に認知されてないだけでね。今イギリスでは、メタルはアンダーグラウンド・シーンになってる。スカンク・アナンシーは例外だけど、僕に言わせれば彼らはポップ・ロックだ。素晴らしいバンドだと思うから大好きだけど、すごくメインストリームだと思う。ワン・ミニット・サイレンスは、このスタイルのヘヴィ・ロックでは第一人者だと自負している。僕らのようなバンドは10年現れなかったけど、できればこの手のバンドでブレイクする最初のバンドになりたいと思ってる。もしできなかったら……それは仕方ないけどね(笑)。

では、今のイギリスのバンドで音楽的に共感できるバンドっていますか?

Brian:誰も聞いたことない名前だと思うけど、ブリード77とか、ロックダウン、マイオシーン……たくさんあるんだけどパッと出てこないな。えっと……他に好きなのは、ポーカス。聴いたことあるかい? あとラブ・ラットとか。みんなアンダーグラウンドで、レコード契約してないバンドだよ。次にブレイクしそうなのはブリード77だね。今回の来日でも、彼らを前座として連れて来たかったんだけど、残念ながらかなわなかったんだ。またの機会には是非と思ってる。

わかりました。ここしばらく、ヘヴィ・ロックはアメリカ主導で動いているわけですけど、例えばアメリカで90年代にオルタナティヴ・ムーヴメントというのが起きた時には、それを海の向こう側から、どんな風な気持ちで見つめていたんでしょうか? 「アメリカではすごいことが起こっているな」と思っていたのか、それとももうちょっと冷静に、オルタナティヴがアメリカの資本主義的なものに飲み込まれていく様子をながめていたのか……。

Brian:すべては金のため、というのがアメリカの哀しい現実だと思う。常にドルに支配されている。アメリカから出てくるものは何でも過剰に商業的だ。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやパンテラのようなバンドは例外だと思うけどね。彼らはコマーシャリズムに則ったバンドではない。まぁ、レコードを出す限り商業活動はしてるわけだけど。つまり、広告がすべてのバンドではないってことだよ。一方、コーンやリンプ・ビズキットなんかは、スポーツ用品やスケートボードを売るためのバンドみたいなものだ。はっきり言って反吐が出るね。話は遡るけど、ニルヴァーナはヘヴィ・メタルを再生させたと思う。彼らによってヘヴィ・ミュージックが他のジャンルにクロスオーヴァーしたことがターニングポイントとなって、シーンに活気が戻ったんだよ。これは個人的な意見だけどね。故郷イギリスでは、あまりにもインディーとダンスが強かったから、僕らがレコードを出せる日が来るなんて思わなかった。努力はしてたんだけど、なにしろインディーとダンスが後500年くらいは続きそうな勢いだったからさ(笑)。でも、シーンの主流とは関係なく好きな音楽を演奏していきたかった。レコード契約のためだけに好きでもないインディー・ミュージックに転向する気は全くなかったよ。要するに状況に屈服しなかったわけ。あとは運の問題だね。アメリカでは確かに状況は変わって、非常に商業的ではあるけど、ラジオはヘヴィ・ミュージックをかけるようになった。それが僕らにとっても上手く作用して、インディーやダンスばかりでなくヘヴィなバンドに目を向けるようになったレコード会社と契約を結ぶことができたんだ。まさに幸運だったね。僕らだってもちろん成功したいよ。でも、それは音楽をプレイし続けたいからであって、コカコーラやアディダスを売りたいのではない。そんなもの糞食らえだ(笑)。商品のキャンペーンに利用されることに全然興味はない。気をつけないとヘヴィ・メタル・バンドだって利用されてしまう。リンプ・ビズキットとスパイス・ガールズは、音楽の感じが違うだけで、基本的には同じ事をやってるんだ。

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