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by telephone, 2008. 11. 29
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Stanley George Bodman

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2003年にリリースされたメジャー・デビュー作『ザ・ストレンジエスト・シングス』で高評価を得たニューヨークのロングウェイヴ。だが、リズム隊の脱退後に作った、続く『ゼアズ・ア・ファイアー』は音楽性の幅を広げた意欲作だったものの商業面でふるわず、結果的にはレーベル契約を失う憂き目に遭ってしまう。それから3年――彼らは傑作ニュー・アルバム『シークレッツ・アー・シニスター』を完成させ、再びシーンに舞い戻ってきてくれた。今回、ひさびさに中心メンバーのスティーヴ・シュルツと話してみて、優秀なソングライターである彼が「バンドとして」の表現にこだわりを持っているところにロングウェイヴの魅力の根幹を見たような気がする。ともあれ、苦難を乗り超えて見事に実を結んだ彼らの最新作を、ぜひ聴いてみてください。

「今まで僕が書いたロングウェイヴの曲は全部、1本のアコースティック・ギターだけで演奏できるように作られている。どの曲も、子供の頃に母が教会のバザーで買って来てくれた、ちっぽけな箱みたいなギターで作ってるんだよ」

こうして素晴らしいアルバムとともに戻ってきてくれたわけですが、正直この3年間のうち「やっぱりロングウェイブとしての活動はもう続けられないかも?」と感じた瞬間とかもありましたか? いちばんキツかったのはいつくらいでしょう? どうやってそれを乗り越えられたのですか?

Steve:そうだね、確かに「もう続けられない」と思ったことはあったよ。前作はセールス的に良くなかったし、特にアメリカでは売れなかった上にレーベルの合併問題が重なっしまってね……それで、まずシャノンと2人きりで話し合いをしたんだ。彼とはバンドのメンバーである以上に友達でいたかった。いろんなトラブルが起こって、それが原因で僕達が2度と口を聞かなくなるほど仲が悪くなることだけは避けたかったんだよ。そんな事態になるくらいならバンドを辞めてもいいと思えたんだ。それで、その話し合いによってまずお互いの気持ちをハッキリさせたんだけど、結果「まだ一緒に音楽を作りたい」という気持ちが2人ともあって、それならもう1度がんばってアルバムを作ることにしようと決心したんだ。だから、いったん決心してしまえばその先は楽だったんだけど、その「もう1度アルバムを作る」ということをイメージするまでがスゴく難しかったね。

2人で話し合ったのは、いつ頃のことになりますか?

Steve:どうだったかな……もう2年くらい前の話だよね。ちょうど新作のレコーディングに入る1年前くらいだったと思うよ。

あなたとシャノンの間には、いつの間にか切っても切れない不思議なパートナーシップが芽生えていたということでしょうか? 彼は現在のあなたにとってどんな人間なのでしょう?

Steve: シャノンは……まさしく副隊長だね(笑)。バンドにおいては僕がリーダーという役割を果たしているけど、シャノンがいなければ何も進まないし、シャノンが辞めたらロングウェイヴは続けられない。きっと僕も他のことを始めていたと思うよ。今までも一緒に音楽を作ってきたけれど、最新作のレコーディングで改めて僕とシャノンとの間の作業効率のよさやコンビネーションのよさを感じたよ。実は2人でミックスの作業をするのは今回が始めてだったんだけど、お互いに言葉を交わさなくても彼が自然とドラムやベースのバランスを取って、僕がギターや上物をコントロールするっていう役割が出来上がっていて、とても細かいところまで2人とも納得のいくミックスができたんだ。

レーベル契約を失ったのは、BMGとソニーが統合したとばっちりだとも聞いていますが、かなり理不尽な感じだったのですか? それとも、もともとメジャーの空気とは馴染めなくて却ってスッキリしたような感じ?

Steve:どちらとも言えないね。とても幸せで嬉しい時間も間違いなくあったよ。前作の内容も気に入ってたし……まぁ、今から手直しできるなら、2曲ほど手を加えるかアルバムから外したいと思えるようなものもあるけどね。一方で、物凄く辛いこともあったし、何より仕事を失うんじゃないかという恐怖との戦いの日々だった。もう今となっては過去の話だけれど、非常にいい勉強にはなったよ。少なくとも、同じ時期にデビューした他のバンドの多くよりは成功していたし、解散したり、メンバーと仲違いになったりもしていないから、まだマシな方だったんじゃないかな。

新作の収録曲は"ザ・デヴィル・アンド・ザ・ライアー(悪魔と嘘つき)"、"ノー・ディレクション(行く先も無し)"と書いてきて、次に"ライフ・イズ・ロング(人生まちがってる)"が出来上がったあたりで、アルバムを作ろう!という決意が固まったそうですね。当時のイヤな経験が新作のソングライティングに反映したと思いますか?

Steve:まったくないよ(苦笑)。僕が落ち込んでいた時期は、誰も僕の曲なんて聴きたくもないんだと思ってたから、全く曲を作る気にならなかったし、僕が新しく作った曲にはなんら影響を与えてくれやしなかったね。実際には、また曲を書こうと思うまでが本当に大変だったんだ。ちなみに"ライフ・イズ・ロング"は、ニューヨークのクイーンズ出身のイースト・リバー・パイプという素晴しいバンドがいて、彼等の曲に"My life is wrong"というのがあって、そこからヒントを得て作ったんだよ。

なるほど。そして、ケガの功名とでもいうか、新作は何の制約もなく、じっくり思う存分に時間をかけて作ることができたそうですね。どちらかと言うと自分はマイペースで周囲にわずらわされることなく創作に打ち込みたいタイプだと思いますか?

Steve:製作に取り掛かってしまえば、きちっと締め切りを作った方が良いと思う。僕はその方が向いてるんだ。確かに今回は時間があったし、レコーディングに取り掛かるまでに時間をかけられたけど、いざレコーディングが始まってからは、自分達で期限を決めて作業を進めたんだ。

現在はオリジナル・シグナルというレーベルに所属しているわけですが、彼らとの契約に至った経緯は? 現在はインディペンデントなレーベルでもメジャーに負けない内容の仕事をしてくれて、資金は若干少なくてもバンドの自由度が高いぶん、きちんと意識を持ったアーティストにとってはむしろ活動しやすいという意見も多いですが、今後のインディ・レーベルの可能性をどう考えますか?

Steve:僕達がレコーディングを始めるにあたって、幾つかのレーベルが興味を示してくれたり、声をかけてきてくれたんだけど、明らかにオリジナル・シグナルが最も僕達に対して情熱と興奮を持って接してくれて、他のレーベルのように儀礼的なオファーではなく、心から僕達のアルバムを楽しみにしている様子が伝わってきたから、どのレーベルから出すかを選ぶのは簡単な選択だった。インディーVSメジャーという構造についてはそれほど多くのことは言いたくないけど、現在の方が明らかに、誰が自分のために働いてくれていて、僕が必要とする人がどこにいるかちゃんと分かるし、必要があればいつでも連絡が取れる。そういうことがちゃんとコントロールできるのは、やっぱりとってもいいことだと思うね。

最新作はセルフ・プロデュース体制で作られましたが、THE NATIONALやインターポールを手がけてきたピーター・カーティスという人も協力しているようですね。彼との仕事はどうでしたか?

Steve:ピーターは、共同プロデューサーと言っていいくらいの仕事をしてくれたよ。当初は、彼の所有するコネチカットのスタジオで彼と一緒に全てをレコーディングしようと思っていたんだけど、残念ながら先方のスケジュールが一杯だったんで、まあ僕もシャノンもそれなりに機材を持っていたから、代わりにニューヨークのスタジオで自前でレコーディングすることにしたんだ。でもピーターには1度ニューヨークまで来てもらって、マイクを立てたりとか、セッティングを手伝ってもらって、その後に今度は僕らがコネチカットに行って、歌入れとミックスを3週間ほど彼のスタジオで行ったんだ。ピーターとは以前にも一緒に作業したことがあるし、非常にメロウで、とても作業のし易い人だよ。

"ライフ・イズ・ロング"だけ、デイヴ・フリッドマンにミックスしてもらったのには、何か理由があるのでしょうか?

Steve:実はこの曲では、デモをデイヴにやってもらって、本番はピーターにやってもらったんだ。本番でもほとんどデイヴがやったミックスをお手本に真似して完成させたんだけど、他の曲との兼ね合いもあってピーターに任せたんだよ。デモを作った当時は未だどのレーベルからリリースするかも決まっていなくて、レーベルを獲得するための資料として、この曲を最も信頼できるデイヴにミックスしてもらったんだ。結局レーベルを探すのにそのデモは使われなかったんだけどね。

そうだったんですか。では、そのデイヴ・フリッドマンや、前作でのジョン・レッキーとの仕事を通して学び、身につけたことを新作のレコーディング中に実感したりしましたか?

Steve:デイヴとジョンからは本当に色んな事を学んだよ。デイヴは本当にユニークなアイデアを大量に持っていて、まるで宇宙人なんだ(笑)。だから、僕達が何かおかしなことをやろうという時には「デイヴだったらどうするか」ってことを常に考えてたね。そして、ジョン・レッキーからは音を感覚的に捕えることを教わった。理論的には間違っていても、自分の感覚を大事にして、その瞬間の音をいかにキャッチするかを学んだんだ。


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