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ところで、今いちばん好きなストラングラーズ時代のアルバムを確認させていただくと『メニンブラック』ということでよろしいでしょうか?

Hugh:まちがいなく。

この作品はジャケットにわざわざ「THIS CONCEPT BY HUGH IN BLACK」と書いてあるくらいですから、そのぶん思い入れが深いということなのでしょうか?

Hugh:ああ、あれはコンセプトといってもアートワークのことなんだよ。署名みたいなものだね。もともとジェットがMEN IN BLACKという概念についての記事を雑誌で読んでいて、俺が「それをアルバム全体のアイデアとして使ったら最高だ」って言ったんだ。ま、そういう意味では俺が言い出しっぺといえなくはないけど。でもそれだからあのアルバムが一番好きってわけじゃないんだよ。なぜ好きかっていえば、あのアルバムではメンバー4人全員が存分に創造性を発揮していて、どのアルバムより作ってて楽しかったからさ。やってて先のことが予想つかない面白さというか。他のアルバムでは、曲も出来てて結果も見えてて、それを録音しにスタジオに行ってみると他の連中はいなくて、ただ自分のパートを録音して、一緒にはレコーディングをしていない、という感じだったからね。でも『メニンブラック』ではどういうものが出来るのか分かってなくて、一緒にやっていたから刺激的だったよ。

今から10年ほど前にジャン・ジャック・バーネルにインタヴューしたんですが、その時に彼は「『メニンブラック』のジャケットに“ヒューによるコンセプト”って書いてあるのは――」

Hugh:大間違いだってか?

(笑)いやいや違いますよ。JJは「あくまでヒューがニースで留置所に入れられていた時に“ジャケット・デザインを考え付いた”という意味であって、『メニンブラック』の壮大なコンセプト全体はバンド全員で考え付いたものだ。音楽面ではジェット・ブラックの趣味が最も前面に出た作品だ」と言ってたんですね。

Hugh:うんうん。なんたってその雑誌を読んでいたのはジェットだし。あの時はみんな、すごくクリエイティヴだったよ。すごく楽しんでやってた。曲によっては、たとえばジョン(JJ)がすごくきれいなメロディを思いついて、それを歌いながらギターでレコーディングして、デイヴも姿を消したと思ったら全編通してキーボードで録ってきて。そんな風にデイヴもクリエイティヴだったし……まあこの辺のことは以前に出した全曲解説の本『Song By Song』に書いてあるから詳しくは繰り返さないけど。

キリスト教をUFOと結びつけたうえで、神(とされる人智を超えた存在)は人類にとって実は冷酷な存在である、という救いのない世界観を描いた『メニンブラック』のコンセプトは一体どのようにして考え付いたのでしょう?

Hugh:宗教についてはメンバー間でよく話し合っていたんだよ。宗教は世界中の流血の原因になっているし、結局は同じものについて人々の意見が食い違い戦い合うなんて愚かな話だ、ということについてね。宗教ってのは人間性の最善の部分ではなく最悪の部分を示すための言い訳になっているみたいだ、と。そういうことを考えたり話し合ったりするうちに、メニンブラックというのが聖書の奇跡だとか、世界中で人々が経験しつつある奇妙な現象だとかを代わりに説明できるんじゃないかという話になってさ。人類は別の知的生命体によって作り出された実験作品なんじゃないかとね。なんて馬鹿げた説だって言われるのは分かってるけど、それは単に今の我々の知識外にあることだからだよ。いかなる考えも、証明されるまでは馬鹿げた説だからね。でもこれは、とてもオルタナティヴでユーモラスな説のつもりだったんだ。だって、人類が実験作品だなんて笑えるところがあるだろ? ギリシャ人にとって神々っていうのは天上から地上にある水溜りを見下ろしてて、そこで人間が何をやってるとか、「ああこいつは助けが必要だな」とか話し合ってるっていうものだった。他の生命体が我々を配置してその実験がどうなるか観察してるっていうのは、ギリシャ人の考え方とたいして違わないだろ。笑えると思うな。そういう考え方のいいところは、人間の尊大さを取り去るっていうかね。人間て、自分たちが何物よりも重要な存在なんだって深刻に思っちゃってるところがあるからさ(笑)。でも『メニンブラック』は、「いや俺達は実はそんなに重要なもんじゃなくて簡単に取り替え可能な存在なんだ」って言ってるんだよ。その辺のところは大事だと思うな……確かに「自分は重要だ」っていう気持ちは必要だよ。それがあるからこそいろんなことができるんだから。でも同時に「自分は全然重要なものじゃないんだ」っていう気持ちも必要なんだ。価値観のバランスだね。自分の価値を大マジメに考えてばかりいたら笑い者だし、自分の価値を全く尊重できなかったら悲しい奴になってしまう。だから、そこをいい具合に保っているのはとても大事なことなんだよ。なかなか難しいけどね。

このアルバムの頃から、バンドの周辺には次々と悪いことが続いて、次第にあなた方の音楽表現は絶望と、それを超えて諦念の域に行き着いた奇妙な悟りを感じさせるものになっていきます。当時はどのようなことを考えていたのか、あなた自身の口からもう少し詳しく説明していただけませんか?

Hugh:いや、ほんとにヒドいことがいっぱい起きたよ……アメリカで機材一式盗まれるってのもあったな……。

まるで、メニンブラックについて言及したがために連中の手が伸びてきたという感じもしたり?

Hugh:いや、ほんとほんと。そう思ったよ。ああいうことを口にしたんで困難が振ってきたのかと。だから、終わって先に進めるっていう段階になったらホッとしたね。あそこから遠ざかれば遠ざかるほど楽になってきたよ。

でも、創作面では最も刺激的でメンバー間のコミュニケーションもうまくいっていたアルバムなわけで、皮肉ですよね。

Hugh:そうだね、次の『ラ・フォリー』でもまだ一緒にうまく仕事できてたけども。でも、その次の『黒豹』までいくと、みんな惚れたハレたのモードに入っちゃってさ。

お互いに惚れあうかわりに?

Hugh:それだよ。ほんとそれだったんだ。全員が大人になって独立した個人になってしまったんだよ。強烈に覚えてるけど、『黒豹』のレコーディングで全員がスタジオに揃ったとき、その場に彼女かかみさんを連れてきてないのは俺だけだった。ジャックと彼女、ジェットと彼女、デイヴと彼女……俺はスティーヴ・チャーチヤードと一緒にそこにいて、レコーディングのミックスを聴いて、2人で「うん、いい感じじゃないか」「そうだね、良いと思うな」って言い合って他のやつらを見ると、ジェットはあっちの隅っこでベタベタ、デイヴはそっちの隅でベタベタ、ジャックは向こうでベタベタ……スティーヴと俺は言ったね、「こいつらから意見聞くのは今はムリそうだな」って。別に腹立てちゃいなかったけど、変な状況だったよ。あの瞬間のことは脳裏に焼きついてる。その後バンドに起きたことを考えるとなかなか痛切な一瞬だね。何か悪いってわけじゃないんだ。そういうものなんだよ。物事は変わっていくし、そのことを受け容れていかなきゃならない。新しい組合せが生まれて、人生は進んでいく。それを拒否するってことは人生を拒否するってことだからね。

なるほど。さて、“ミッドナイト・サマー・ドリーム”の歌詞は、古代中国の「胡蝶の夢」という故事を彷彿とさせるのですが、この話は知っていましたか?

Hugh:ああそれ。なんとなくは覚えてる。ただ、その話を聞いたのはあの曲を書いたより後のことなんだ。自分で繋げて考えたことはなかった。なかなかいい話だよね……でも最終的にはどっちでも構わないと思わないか? 蝶が人になった夢を見ているのでも、人が蝶になった夢を見ていたのでも。どっちも同じだけ意味があると思うね、ははは。

で、さらに『ドリームタイム』では、裏ジャケットにも記載されている通り、オーストラリア原住民であるアボリジニの思想にインスパイアされていますよね。

Hugh:うんうん。俺はしょっちゅう夢をみるよ。分析できないけどね。でも夢を見るのは大事なことだよ。書き留めたりすることはあまりないけど。夢を見ないっていうのは、精神のある種の解放メカニズムを取り逃してるってことになるんだ。

夢の世界も現実の世界と同じように存在する、というアボリジニの考え方に興味をもったのは、そうやってあなた自身がいつも夢をみるからなのですか?

Hugh:ああ、たしかブルース・チャトウィンの『ソングライン』っていう本を読んだところだったんだよ。アボリジニは、ある場所から別の場所への旅路をその途中で経験する出来事によって覚えている、そうやって道程を記憶するというんだ。そして、その旅路が歌になるというね。この、歌が旅路であるという考え方が気に入ったんだよ。人生も旅路であるといえるし。そういうふうにいろんなものが入り混じっているという考え方が好きでね。まさに人生の神秘そのものだなって感じがした。俺はいつも人生の神秘が好きだから。

そうした哲学的な歌詞がある一方、ストラングラーズの初期作品から最新作に至るまで、あなたの書く歌詞には、1曲の中に物語を浮かび上がらせるような手法が多くとられていますよね。そうした詞を書くときにはどのようなところからインスピレーションを得ているのでしょう?

Hugh:どこからかはわからないんだ。いつもなんとなく出てくるんだけどね。それも、けっこうすらすらと。

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