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では次に、作曲の方法について訊きたいと思います。普通のバンドだったらみんなでジャム・セッションをして曲を作っていったりしますが、あなた達の場合には、それとは別にいろいろなサンプルの素材を探して、それをどういうタイミングで流すか、というような作業が加わるわけですよね。

Francis:そうだね。結構、複雑で時間のかかる作業なんだ。でもスタート時点では普通のバンドと同じだよ。頭に浮かんだメロディとかリフを、他のメンバーの所へ持っていくところから始まるわけだから。ただ、マットのループ・サンプラーのおかげで、複数のギターを使うことができるんだ。普通の3ピース・バンドだったら、ギターは一人、ベースは一人だけど、サンプラーを使うとギターが1人でも幾重にも重ねて、より豊かなサウンドに仕上げられる。でも、マットが持ってきたアイディアを、みんなでジャムって作り上げてくっていうのは、僕らも他のバンドと同じようにやってるよ。ギターを元に、セルジオがキーボードを加えていったり、僕がドラム・マシーンを使ってみたりね。それほど変わったプロセスではないと思う。

Matthew:ループ・サンプラーを使っているために、僕らの場合はメロディよりもハーモニーを主体に考える傾向にあるんじゃないかな。曲作り中は、特定のサンプルに合いそうなプログレッションをまんべんなく試すんだ。これはループ・サンプルの方の話ね、iPodのサンプルじゃなくて。一つのループ・サンプルを元に、できる限りいろんなことをやってみている。僕らにバンドとしてユニークなところがあるとすれば、そうやってリズムを探求していくのが好きなところだろうね。ひとつのスタンダードなリズムでは満足せずに、より複雑で面白い方へ行きたがる。メロディという観点から見ると、僕らの音楽はそんなに複雑じゃないよ。割とシンプルな方だと思う。ほとんど初歩的なメロディしか使ってない。シンプルなアイディアを解体して、複雑なリズムを組み立てたり、強弱・遅速のダイナミズムを出すのが、作っていて面白い部分だし、オーディエンスにとっても面白い部分だろうと信じてるんだ。

なるほど。それでは、あなた達は曲を作るに当たってどんなものにインスピレーションを受けますか? 例えば、サンプル用の素材がインスピレーションになって曲ができたりするようなこともあったりするんでしょうか?

Sergio:答えはイエスだね。その思想的な中身が、曲の気分を決めて、音楽のエモーションに影響を与えることは多いよ。サンプルのスピーチが怒りに満ちていて好戦的なら、音楽もアグレッシヴになるかも知れないし、あえて逆の方向へ行くかもしれない。このバンドにとって思想的な部分は重要な要素なんだ。インスパイアされるだけでなく、原動力でもあるんでね。僕らの場合、もし思想の部分抜きで音楽をやったとしたら、そんなに長く続かないと思う。思想を表現することは、バンドを結成する理由の一番大きなものだったからね。

Francis:そう、そのために組んだバンドなわけだから、言葉のサンプルは僕らの音楽の心臓部なんだ。サンプルなしでは、僕らの政治的な主張がなくなって、このバンドも存在しなくなる。ただし、実際に曲を書くときは、サンプル用の素材は後から探すことが多いんだよ。曲のフィーリングや構造に合わせてね。サンプルをコンピューターに入れて、曲に合うように編集したりイコライジングしたりするのは、曲の基本的な骨組みができてからなんだ。

Matthew:音楽のエモーション、フィーリングについて言えば、僕らの場合はどちらかというと悲しげな曲調の方に引き寄せられるね。まぁ、絶対にメランコリックでなくてはならない、ってわけじゃないけど。80年代〜90年代の政治的なロックの多くは、例えばMC5やインターナショナル・ノイズ・コンスピラシーのように、アップビートな曲調で「やつらと闘おう! 帝国主義を打倒しよう!」って叫んでた。それも有効だと思うけど、僕の個人的な感覚としては……僕らがテーマにしてる、「帝国主義と軍国主義の犠牲になっている人々、あるいは経済効率至上主義に苦しめられている人々がいる」ということは、すごく悲しいことだと思うんだ。だから……第三世界の視点から語られているスピーチを僕らが使う時、それを称賛したい気持ちと同時に、重苦しい気分にもなるんだ。従って、僕のギター・プレイも厳粛なものになる。悲しい曲調には、そういったテーマに対する敬意も含められているんだ。例えば帝国主義に対抗する闘争や、土地をめぐる闘争に対してのね。

わかりました。さて、ここで一般的な質問なんですけども、今のアメリカを取り巻く政治的な状況についてと、それに対して音楽というものがどんなことができるかという、可能性についての見解を聞かせてください。

Francis:希望は持ってるよ。希望がなければ音楽なんかやってないだろうし。

Sergio:ブッシュは……“BAKA”でいいんだっけ? やつは史上まれにみる馬鹿な大統領さ。でも、これは見方によってはチャンスでもあって……世界の人々だけでなく米国人自身も、ブッシュ政権の政策が欠陥だらけだってことに気づき始めてるんだ。他国の都合にお構いなしに、世界に対して何でも勝手に指図できると思ってる。それで得をするのは、石油で儲けてるブッシュとかチェイニーとか、アメリカ国内の数パーセントに過ぎない大金持ちだけだからね。今はアメリカに住んでいることが悲しい時代だよ。同時多発テロで罪のない多くの人々が殺された9月11日は、とても悲劇的な悲しい日だった。でも、それ以上に悲しいのは、もっと人を殺すことが最善策だと大統領が決めたことだ。何の証拠もなしにね。それらの国の人達が9.11に関わっているという証拠はないのに、戦争に突入していった。さらに悲しいのは、今では終わりのない対テロ戦争になってしまっている。無制限の戦争にね。これはアメリカに住む我々にも関わる問題で……アメリカ人は世界で比較すると豊かな方だけど、貧困にあえぐアメリカ人もたくさんいるんだ。失業率は高いし、物価や石油価格は上昇してるし、学費も上がってる。大学に行きたくても行けない人は多い。今、何かが変わらなければ、と感じ始めてる人はたくさんいる。で、音楽が変化をインスパイアすることができるかって? フランシスが言ったように、そうであってほしいと願ってるんだ。そう信じてる。信じてなければ、音楽をやってない。僕個人、政治的なものに目覚めたのが主に音楽の影響からだったしね。ハードコアやヒップホップで、自分に関わるリアルな問題について歌ってるのを聴いたのが最初だった。僕は、フィリピン人として母国フィリピンで起こってること、アメリカのフィリピン人コミュニティーで起こってることを見てきてるんでね。人種差別や貧困を扱ってるパンク・ロックを聴いて、いろいろ考えるようになったんだ。それによって、政治的な活動をするようになったし、音楽を作るようにもなった。音楽は僕の中に、ものごとを変えていこうという気持ちを芽生えさせた。できれば同じことを僕らもできたら、と思ってるよ。

Francis:そんなに簡単に、聴いた次の日に全てが変わってる、なんてことは期待してないけどね。でも、少しでも考えるきっかけとなるような、小さな火花になってくれれば、って思ってる。僕もセルジオと同じでね。これまで聴いてきたパンク・ロックや、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやパブリック・エネミーとかメインストリームなものも含めて、政治的なことを言ってたわけで……。

Sergio:U2もね。

Francis:そう、U2も含めて。そういうのがラジオでかかるだけでも、考えるきっかけになったし、もっと注意深く聴いてみたくなるんだよね。歌でも映画でも文学でも、何か引っ掛かって気になるとリサーチしたくなるんだ。僕は映画が好きで、映画と音楽を同列に考えるタイプなんだけど、どちらも有効なプラットフォームだと思ってる。アーティストが自分の思想や信条を表現して人々と共有したり、教えたり、制作の過程で教えられたりすることが可能なんだよね。いろんなことを学習するプロセスなんだ。

Sergio:今も昔も、変化をもたらす社会運動には一つ残らず文化的な側面があったと思う。アートや音楽、映画、演劇がある一定の役割を担ってきた。2004年でもそれは変わらないんだ。音楽のパワーが人々をインスパイアすることは可能なんだよ。

Francis:例えばマイケル・ムーアの映画は、何百万人もの観客に届いて、人々の意見を変えるまでに至ってる。音楽だって同じようなことができないはずはないよね。

Matthew:セルジオが言ったように、自由への闘争を経験したコミュニティーは、必ずその闘争と連動した文化を持ってる。闘争はそのコミュニティーの文化に影響を与えて、その文化は闘争に影響を与える。そういう切っても切れない相互作用があると思う。僕らはそれぞれに、韓国人、フィリピン人、中西部のミドルクラスの白人という別々のコミュニティ出身だから、バンド活動とは別に、それぞれのコミュニティーに関する活動もやってるんだ。そういった別々の活動が、僕らの音楽にインスピレーションを与えてくれるように、僕らの音楽がそれぞれのコミュニティーをインスパイアすることもあるといいなって思ってるよ。

今、他のミュージシャン達がやっている政治的な活動、例えばROCK THE VOTEとかROCK AGAINST BUSH等について、どう評価していますか?

Sergio:そういった明白な政治的ステートメントを音楽で表明しようという活動は、一般的にとてもいいと思う。たくさんのパンク・バンドによる反ブッシュのアルバムとなれば、若いパンク・キッズ達に興味を持ってもらえるだろうしね。ちょっと真剣にブッシュのことを考えてみようと思うかも知れない。ROCK THE VOTEのような運動もいいね。アメリカでは若い世代の投票率が低いっていう問題があるんだ。僕は仕組まれたものだと思ってる。「若者の怠慢だ」って言われるかも知れないけど、そうじゃなくて、「どうせ自分の意見が反映されることはない」っていう不信感だと思う。自分達を代弁してくれる人が見つからない、とかね。もっと政治に興味を持ったり、積極的に参加するには、理解を深めることが大切だから、そういう運動は有益だと思うよ。

例えばNOFXのファット・マイクなんかは、「とにかくブッシュを倒すことが第一の目的だから、そのためには、あまり変わらないかも知れないけれどもちょっとマシだっていうだけで民主党を応援するという立場をとらなくちゃいけない」というようなことを言っています。そういう考え方についてはどう感じていますか。

Sergio:アメリカは二大政党制だからね、悲しいけれど。自由に選べる真の民主主義とは言えないと思う。共和党も民主党も多大な資金と人脈を使って票を集める。自分達が必ず二大政党に含まれるようにね。ファット・マイクの考え方は理解できるよ。ブッシュのやり方があまりにも滅茶苦茶なものだから民主党を支持するしかない、っていう人は多いと思う。でもそれは少し近視眼的な対応じゃないかな。民主党の大統領だったクリントンは一見リベラルでポジティヴに見えたかも知れないけど、クリントン政権のAnti-Terrorist BillがPatriot Actの土台を作ったんだからね。でもクリントンはブッシュほどあからさまに馬鹿には見えなかったから、人々は気がつかなかった。クリントン政権は他国に対する空爆も行っている。テロ戦争ではなかったけれど、そんなに違うだろうか? 民主党と共和党は表面的には違っても、突き詰めるとごく限られた層の人々のことしか考えてないんだよ。大企業のトップにいる米国内の裕福なエリート層のことしかね。その点ではブッシュもゴアもまったく同じなんだ。ケリーも、表面的にはブッシュよりマシに、リベラルに見えるかも知れない。でも彼が大統領になれば、やっぱり自分達の階層の利益を守ろうするだろうね。でもNOFXの言ってることは理解できるよ。彼を間違っているとは言えないし、議論として面白いと思う。ひとつ付け加えると、ブッシュが当選した大統領選では、ラルフ・ネイダーのせいで負けたっていう人達がいるけど、とんでもないよ。ゴアは勝ってたんだ。ブッシュは一般投票の得票数で負けてる。二大政党制を拡大させようとしている人物を悪者にするのはフェアじゃないし、視野が狭いと思うんだ。民主党や共和党は都合の悪いことは第三の政党のせいにしたがる。でも、民主主義社会で第三のオプションが与えられないというのは不健康だよ。ふたつしか選択肢がないから、ふたつの悪でましな方を選ぶしかない、なんてさ。まともな状態とは言えないと思うね。

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